幾何学と不変量 読書ノート 7/10¶
第 7 章 軌道空間と商位相¶
群の空間への作用を抽象的に議論する。特に軌道とその商空間、軌道空間について扱う。この章は 命題 7.7 と 定理 7.8 が重要な基本だ。
7.1 群の作用と軌道¶
例 7.1: 双曲線と座標軸で平面を埋める作用 \({(x, y) \longmapsto (e^tx, e^{-t}y)}\)
点を固定してパラメーターのように \(t \in \RR\) を「動かす」と平面上に図形が描かれる。
これにより平面を双曲線の各連結成分、各座標軸、原点とに直和分解できる。
群の軌道 の定義を確認。
軌道とは群が作用している空間の部分集合 \(\set{\varphi(g)x \sth g \in G}\) のことをいう。
記号は色々あって \(\mathbb{O}_x,\ \mathbb{O}_x^G,\ \varphi(G)x,\ Gx\) などがある。
軌道空間の定義を確認。
軌道空間とは空間上の軌道全部を意味する。すなわち集合族 \(\set{Gx \sth x \in X}\) だ。
記号は \(\varOmega_G(X)\) とする。
補題 7.2: 軌道空間の基本的な性質。
\({Gx = Gy}\) または \({Gx \cap Gy = \varnothing}\) しか成り立たない。
軌道分解。\({ \displaystyle X = \bigsqcup_{Gx \in \varOmega_G(X)} Gx}\)
代表元。軌道の任意の元をその軌道の代表元と言う。
例 7.3: 三次元直交群の三次元空間への作用。
復習。\(g \in O_3(\RR)\) は等長変換であり、ベクトル間の角度も保存する。
復習。\(g \in O_3(\RR)\) は(恒等変換に対する)軸回転と平面鏡映の合成の形になっている。
\(g \in O_3(\RR)\) に対して \({\det g = \pm 1}\) なので、このうちプラスのほうを集めると部分群 \(SO_3(\RR)\) が得られる(回転)。
直交群は次のように分解できる。
\[\begin{split}\begin{align*} O_3(\RR) = \mathit{SO}_3(\RR) \sqcup h \mathit{SO}_3(\RR),\ h = \left( \begin{array}{c c r} 1 & 0 & 0\\ 0 & 1 & 0\\ 0 & 0 & -1 \end{array} \right). \end{align*}\end{split}\]軌道を考えると、これは球になる。従って実空間は原点と半径 r > 0 の球との非交和に分解できる。
\[\begin{align*} \RR^3 = \bigsqcup_{r > 0} S_r \sqcup \zeroset,\ S_r = \set{x \in \RR^3 \sth \norm{x} = 1}. \end{align*}\]
例 7.4: \(\varOmega_{\ZZ}(\RR),\ \varOmega_{\ZZ^2}(\RR^2)\)
各加法群 \(\ZZ\) の各実空間への作用について、軌道と軌道空間を例示している。いずれも単位区間または単位矩形の境界が少々欠ける。
例 7.5: 複素正方行列の集合に作用する複素一般線形群。
対する異なる軌道分解を二つ挙げている。
7.2 軌道空間と不変式¶
不変式の定義を更新しておく。式または関数 \(f\) がある作用 \(\varphi\) によって不変式または不変関数であるとは、\({f(\varphi(g)x) = f(x)}\) が成り立つときにいう。
記号を導入する。空間 \(X\) 上で定義されている関数の集合を \(Fun(X)\) で表し、さらに \(G\) が作用する \(X\) 上の不変関数の集合を \(Fun(X)^G\) で表す。
正則表現の定義が頭に入ってこない。
\({\forall g \in G, \rho(g)f = f}\)
「関数 \(f\) が作用 \(\rho\) による不動点になっている」
命題 7.7: 関数が任意の軌道上で定数関数であることと、関数が不変であることが同値となる。
定理 7.8: \(Fun(X)^G \longto Fun(\varOmega_G(X))\)
前半の主張:自然な写像 \(\nu\) が well-defined であることを簡単に確認する。
後半の主張:写像 \(\nu\) が線形同型か。
線形性は問題ない。
全単射性は、これを示すのにある写像 \(\fn{\mu}{Fun(\varOmega_G(X))} Fun(X)^G\) を写像 \(\nu\) の逆写像になるように何か定義して、合成を両方向について考えると恒等写像になることを示せばよいだろうか。
例 7.9: 共役類。
有限群の共役による作用に関する軌道 \({C_G(x) \coloneqq \set{gxg\inv \sth g \in G}}\) のことを共役類という。
例 7.10: 左移動、左剰余類、左剰余類分解。
左(右)剰余類の定義を確認。剰余類の空間は元の群の軌道分解となる。
左剰余類では \({G = \bigsqcup Ha}.\)
左不変と右不変を区別する必要がある。
例 7.11: 平面上の回転群。
<全平面で定義された関数 \(f(x, y)\) で回転不変なものは半直線上の関数 \(F(r)\) と一対一対応する> (p. 153)
演習 7.12: 連続性、微分可能性まで考える。
7.3 商空間¶
軌道空間 \(\varOmega_G(X)\) のことを \(X\) の \(G\) による商空間と呼ぶ(軌道一つ一つを点とみなす)。
7.3.1 位相空間¶
位相空間論の復習。軌道空間上に位相を導入するための準備のようなもの。
部分位相空間、誘導位相を思い出す。
一般の位相空間においては点列の収束極限はただ一つとは限らない。
7.3.2 商空間の位相¶
位相群 or 連続群、リー群、同相写像などの説明アリ。
例 7.24: 例 7.1 の双曲線作用は \(\RR^2\) からそれ自身への同相写像だ。
射影 \(\fn{\pi}{X}\varOmega_G(X)\) を導入する。もちろん \({\pi(x) = Gx}\) で定義する。
定義 7.26: 軌道空間における開集合。
位相空間の開集合と同じで、射影の逆像が開集合となるならば開集合であると定義する。
したがって射影は連続写像ということになる。
演習 7.27: 上記の定義が位相空間の公理を満たすことを確認する。
本書では上の位相を入れた軌道空間を商空間と呼び、記号 \(X/G\) で表す。
この位相を商位相という。これは射影を連続にするような位相の中では最弱となる。
この射影 \(\pi\) を商写像という。
演習 7.28: 位相空間の間の連続写像について、定義域側の位相空間の位相を弱くすると、連続写像の数は一般に減少する。
連続な不変関数のなす(ベクトル)空間を \(C(X)^G\) を書く。\({C(X)^G = Fun(X)^G \cap C(X)}\) が成り立つ。
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位相空間 \(X\) から \(Y\) への連続写像を \(\pi\) とする。さらに各空間の連続関数全体をそれぞれ \(C(X),\ C(Y)\) とする。このとき写像 \({\fn{\pi^*}{C(X)}C(Y)}\) を:math:{F longmapsto F circ pi} で定める。
この写像を引き戻しという。
引き戻された関数は連続となる。
定理 7.29: 位相空間から商空間への射影による引き戻しは線形同型写像となる。
証明方針:引き戻し \({\fn{\pi^*}{C(X/G)}C(X)^G}\) の逆写像を線形同型となるように構成できるかが問題となる。 定理 7.8 参照。
例 7.30: 例 7.1 の双曲線作用。
原点付近の位相のため、連続かつ不変な \(f(x, y)\) は座標軸上で定数関数。
例 7.31: \((e^t x, e^t y)\)
\({X/G = S^1 \cup \set{A_{0,0}}}.\)
原点の開近傍は \(X/G\) しかない。ゆえに定数関数となる。
最後の軌道を分離する二つの関数という考え方はまたどこかで出て来るはず。