幾何学と不変量 読書ノート 6/10¶
第 6 章 実射影平面¶
射影空間の準備として <初等的な平面射影幾何学> を議論する章。
6.1 無限遠点と無限遠直線¶
前章の極線定理では極点が円の中心にあってはマズかった。それは二接線がちょうど平行になって交点が生じないからであった。そこで、仮想的な交点が存在することにしてしまうというのが無限遠点の着想だ。
この節の後半では \(\RR^2\) に無限遠点を付け加えた平面を構成する(スクリーンと光源)。これは遠近法、透視図法の原理と同じものではないだろうか。
6.2 射影平面¶
定義 6.1: 射影平面 \({\mathbb P^2 (\RR) = (\RR^3 \minuszero) / \sim}\)
射影平面 \(\mathbb{P}^2 (\RR)\) とは、空間から原点を除いた集合上の点を、定数倍の同値関係で同一して得られる(無限遠点を含む)点全体のなす平面。
\[\begin{align*} (x, y, z) \sim (x', y', z') \iff \exists k \in \RR^\times \quad\text{s.t. } (x', y', z') = (kx, ky, kz) \end{align*}\]射影平面は 無限遠点 を含む。
射影平面の代表元をこの点の同次座標と呼んで、これを \((x, y, z)\) 形式で表記する。一方、射影平面の元は \([x : y : z]\) の形式で表記する。
「スクリーン」上の対応する点を非同次座標と呼んで、これを \((\xi, \eta)\) 形式で表記する。
無限遠点全体は原点以外の \((x, y, 0)\) と同値な点全体だ。言い換えると、xy 平面上の原点を通る直線全体の集まりだ。
射影直線 \(\mathbb P^1 (\RR)\) もこの要領で定義する。
射影直線は実数に無限遠点を一つ加えたもの(一点コンパクト化)。円周 \(S^1\) の半分と同型。半円弧の両端点を同一視してこれを無限遠点とする。
この手法で球面 \(\mathbb{P}^2 (\RR)\) を \(S^2\) から構成できる。球面と平面の切り口の円周上の対蹠点を同一視して半球に加える。
射影平面は向き付け不可能な閉曲面だ。
6.3 射影平面上の幾何¶
6.3.1 射影直線¶
射影直線とは射影空間内で \({ax + by + cz = 0}\) の表す図形だ。
\({a \ne 0}\) または \({b \ne 0}\) ならば無限遠点は \({[-b : a : 0]}\) のただ一点のみ(一点コンパクト化)。
\({a = b = 0}, {c \ne 0}\) ならば直線 \({z = 0}\) は 無限遠直線 だ。
このどちらも射影直線 \(\mathbb P^1 (\RR)\) と同型だ。
定理 6.2: \(\mathbb P^2 (\RR)\) の相異なる二点を通る直線がただ一つ存在する。
証明方針:二点の一次結合を考える。
定理 6.3: \(\mathbb P^2 (\RR)\) の相異なる二直線はただ一点で交差する。
証明方針:線形代数による。
平面射影幾何では、実は点と直線に関する全ての定理が、直線と点を入れ替えても成り立つ(双対性)。
「スクリーン」上の相異なる平行な二直線は無限遠点で交わる。線路の二本のレールがちょうど地平線上で交わるようなものだろう。
6.3.2 二次曲線¶
<双曲線の二つの分枝は二つの無限遠点を介してつながっている> (p. 133)
放物線と無限遠直線とは \([0 : 1 : 0]\) で交点(というか接点)を持つ。
6.4 射影変換¶
定義 6.4: 射影変換
写像 \({\fn{\pi_A}{\mathbb P^2 (\RR)}\mathbb P^2 (\RR)}\) を 3 次の実正則行列を用いて \(\pi_A([v]) = [Av]\) で定める。
射影平面上の射影変換を表現する実正則行列のなす群を \(PGL_3(\RR)\) と表記する。
<射影変換によって不変な幾何学的性質を研究するのが射影幾何学である> (p. 136)
演習 6.5: スカラー行列が誘導する全射準同型 \({GL_3(\RR) \longto PGL_3(\RR)}\) は同型ではない。
定理 6.6: 射影平面上の二本の直線を互いに写し合う射影変換が存在する。
証明方針:無限遠直線から写せるはずだ。
二次曲線 \({f(v) = {}^t\!vQv,\ Q = (q_{ij}) \in Sym_3(\RR)}\) について、いったん \(Q\) の定数倍は忘れるものとする。
演習 6.7: 上の式を同次座標の二次形式の形で書け。
演習 6.8: \({f(x, y, z) = 0}\) は、もし左辺が実一次式の積の形に因数分解できれば、この二次曲線は 退化 している。
射影変換の \({f(v) = 0}\) への作用は \({Q \longmapsto {}^t\!A\inv QA\inv \in Sym_3(\RR)}\) だ。
定理 6.9: \(\mathbb P^2 (\RR)\) 上の非退化二次曲線は射影変換によって単位円に写すことができる。
証明方針:線形代数の「正則な対称行列は対角化可能である」を利用する。さらに対角成分の絶対値を 1 に取れる。
結局 \({x^2 + y^2 + z^2 = 0}\) と \({x^2 - y^2 - z^2 = 0}\) を考えれば十分であることがわかるが、前者は空集合、後者は単位円を表す。
演習 6.11: 相異なる二つの非退化二次曲線を最も簡単な位置に写す射影変換とは何か。