Sphinx 利用ノート

本稿は当読書ノートの基盤となる Python パッケージである Sphinx の利用に関するノートだ。

Sphinx is a documentation generator or a tool that translates a set of plain text source files into various output formats, automatically producing cross-references, indices, etc. That is, if you have a directory containing a bunch of reStructuredText or Markdown documents, Sphinx can generate a series of HTML files, a PDF file (via LaTeX), man pages and much more.

インストール

グローバルにインストールする場合と、プロジェクトの仮想環境にインストールする場合がある。両方説明する。更新手段は採用するパッケージマネジャーに従う。

グローバルの Python 環境はま共にあるものとする。

グローバルにインストールする

Miniconda も使えるが、以下 pip を利用する方法を記す。

$ pip install sphinx

プロジェクト個別にインストールする

グローバルにインストールしてから実施することを勧める。プロジェクトディレクトリーに移動して仮想環境を作成したら直ちにインストールするという想定で:

$ cd $PROJECT_DIR
$ python -m env .venv
$ pip install --upgrade pip
$ pip install sphinx

インストール成功を確認する

Sphinx のバージョンを確認する:

$ sphinx-build --version
sphinx-build 7.2.6

原稿ディレクトリーを初期化する

将来的に生成した HTML ファイル群を GitHub に配備するので、プロジェクトディレクトリーのルートにサブディレクトリー docs を作成し、そこを Sphinx 用作業場とする:

$ cd $PROJECT_DIR
$ mkdir docs
$ sphinx-quickstart
...

sphinx-quickstart 成功後、生成されたファイルを確認すること。

読者ノート

sphinx-quickstart は引数なしで実行すると対話的操作によりファイルを生成する。ヘルプにあるオプションを十分に指定すれば、ファイルを一気に生成する。

次にやる作業が何になるかは場合による:

  • ビルド構成を変える

  • 原稿を執筆する

  • テーマをいじる

  • 拡張を導入する

初期設定

以下の説明では sphinx-quickstart の入力は次を仮定する:

$ sphinx-quickstart --sep \
    --project 読者ノート \
    --author プレハブ小屋 \
    --release '1.0' \
    --language en \
    --ext-todo \
    --ext-mathjax \
    --ext-githubpages \
    --makefile \
    --no-batchfile

これらの内容は source/conf.py に反映される。以降、この構成ファイルを次の目的で手動で編集する:

  • Sphinx 構成項目を調整する

  • Sphinx 拡張を増減する

  • Sphinx 拡張の構成項目を調整する

ビルド

Makefile のあるディレクトリーに移動して:

$ make html

成果物はサブディレクトリー build/html 以下の内容すべてだ。

GitHub Pages

GitHub のリポジトリーに Sphinx 用原稿を格納する場合、GitHub Actions の力で push イベントで次のことを実現したいと考えるのが自然だ:

  • 最新の原稿をビルドして HTML ファイルを生成し、

  • それを GitHub Pages に公開する。

そのためのワークフロー YAML の記述方法は Appendix: Deploying a Sphinx project online にある。まとめておくと:

  • リポジトリーの Settings ‣ Pages ページで各種項目を設定する:

    • Publish を有効にする

    • SourceDeploy from a branch に設定にする

    • Branch を設定する:

      • 左ドロップダウンリストを gh-pages に設定

      • 右ドロップダウンリストを Makefile のあるほうのディレクトリーに設定

  • Makefile のあるディレクトリーに pip 用のファイル requirements.txt を置く。当読書ノートの場合は:

    Sphinx >= 7.0
    ipython >= 8.0
    sphinxcontrib-mermaid
    
  • リポジトリーにワークフローファイルを置く。例えば .github/workflows/sphinx.yml とし、本文の内容にする。

    読者ノート

    ステップ Upload artifacts では大容量サイズのファイルを生成することになる。開発ブランチのビルドアクションでは行わず、リリースブランチだけで行うように書き換えるのが望ましい。

GitHub Actions がわからない場合や、ビルド時間が上限を超えるまでに文書が肥大化した場合は、ローカルで Sphinx ビルドをし、得られる生成ファイルを gh-pages ブランチに対して git push することになるだろう。

reStructuredText

ブラウザーに URL <https://www.sphinx-doc.org/en/master/usage/restructuredtext/> をブックマークしておく。Markdown に較べるとマークアップが複雑なので覚え切れない。

reStructuredText の基本

基本はさすがに丸暗記するほうが効率的だ。

  • パラグラフは空行と空行の間のテキストの塊が相当する。

  • インラインマークアップ三種類

    • 斜体は米印で囲む。

    • 太字はダブル米印で囲む。

    • コード片はダブルバッククオートで囲む。この三種の中でもっともよく使う。

  • リストは行の先頭に米印を付け、空白を挿れ、テキストを配置したものを縦に並べる。

    • 米印の代わりに #. を使うと番号リストになる。

    • リストを入れ子にするときには、空行を挟む。ここは Markdown と異なる。

  • HTML で言う <dl>, <dt>, <dd> を reST で実現可能。Markdown に優る。

  • 引用パラグラフは二種類ある。

    • 周囲のパラグラフに対してインデントしたパラグラフは引用パラグラフとなる。当ノートではボックス枠左をピンクで塗る。なるべくこちらを使いたい。

    • 行頭に | を付けた引用は改行文字を維持する。

  • 当ノートでは :: によるリテラルブロックを書かない。

  • 表はなるべく csv-table を用いたい。

  • ハイパーリンクのマークアップはよく忘れる。

  • 節(セクション)で使う飾り文字は既存の原稿に準拠する。

  • 画像は .. image:: 指令を使う。

    • オプションが重要。VS Code の reST モードに補完 snippets を仕込むといい。

    • SVG ファイルを表示する場合にはこれではなく、HTML の <object> タグを使いたい。方法は Inkscape 利用ノートの原稿を参照。

  • 置換はほとんど使わない。書くのが面倒だ。

  • コメントアウトは覚えておくと便利。

役目

相互参照

:doc:

頻出。ページパスを指定してリンクする。

:ref:

たまに用いる。アンカー .. _anchor-name: を手動で定義する必要がある。これが面倒で多用しない。

:envvar:

環境変数をマークアップするのに使いたくなるが、本来はインデックスが生成される。

:option:

コマンドオプションをマークアップするためのものだ。対になる指令 .. option:: がある。

:term:

本来は術語集指令 .. glossary:: と対で用いるマークアップだ。

コードと数式

:code:

使わない。ダブルバッククオートで事足りる。

:math:

LaTeX コードをマークアップする。別途 MathJax に数式を描画させるように仕込む。

語義に関するもの

:abbr:

頻繁に使うはずなのだが、健忘症かと思うくらいに忘れる。そもそも面倒。自分用の備忘録に HTML などといちいちタイプしないほうが自然だろう。

:command:

Sphinx 公式によると、OS 水準のコマンドをマークアップするのに使うとのこと。 cf. :program:.

:dfn:

術語を、その定義時にマークアップする。ダブル米印でマークアップしたいときに思い出すべき役目。

:file:

ファイルもしくはディレクトリーパスをマークアップする。中括弧で括られた部分文字列は可変であることを示すそうだ。私はこれまで大文字でごまかしていた。

:guilabel:

ツール利用ノートで :menuselection: と共に頻繁に使う。

:kbd:

キーボードのキーを示すのに用いる。例: Home C-x C-f Control-x Control-f

:menuselection:

ツール利用ノートで :guilabel: と共に頻繁に使う。タイプするのが面倒なので VS Code キーバインドを両者それぞれに設定するといい。

:program:

:command: の実行形式版として使うという認識でいい。

:regexp:

この役目は何かクセがあったと記憶している。

指令

Sphinx に搭載されている指令のうち、本ノートで用いるものを記す。

.. toctree::

インデックス系のページで利用。オプションが重要で、VS Code の reST モードにおける補完 snippets を用意することが望ましい。

  • :caption: を付けるほうが価値が高くならないか一考すること。

  • :maxdepth: を大きくしないこと。

.. seealso::

関連文書を列挙するのに利用。

.. rubric:: title

便利である可能性が高い。見出しリンクの要らない見出し。

.. code-block:: [language]

複数行プログラムコードを示すのに利用。

.. literalinclude:: filename

テキストファイルの中身を reST 原稿内に丸々写す。有用なオプションがある。

.. glossary::

術語集を構成する。:term: と共に用いるはずだ。

.. math::

LaTeX コードを記すことで、MathJax に数式を描画させる。オプション :nowrap: を常時指定したい。

ビルド構成

構成ファイル conf.py で指定したい項目と目的を述べる。

Note

  • conf.py の他に docutils.conf も使える。

  • rst_epilog, rst_prolog は何かいい用途がありそうだ。

プロジェクト情報

基本的には sphinx-quickstart が生成した値を採用する。ただ一箇所、コピーライト表示にビルド時の日付を反映させたいので改造する:

from datetime import date

copyright = f'1999-{date.today().year}, {author}'

項目 version および release は手動で編集するのがいいだろう。

全般

まず、Sphinx 拡張に手動追加するものがあるのでサブディレクトリーにパスを通す:

import sys
import os

# If extensions (or modules to document with autodoc) are in another directory,
# add these directories to sys.path here. If the directory is relative to the
# documentation root, use os.path.abspath to make it absolute, like shown here.
sys.path.append(os.path.abspath('./_extension'))

当読者ノートにおける本稿執筆時点での拡張の編成は次のようなものだ:

extensions = [
    'disablesearchindex',
    'IPython.sphinxext.ipython_console_highlighting',
    'IPython.sphinxext.ipython_directive',
    'japanesesupport',
    'sphinx.ext.githubpages',
    'sphinx.ext.mathjax',
    'sphinx.ext.todo',
    'sphinxcontrib.mermaid',]

拡張それぞれについての構成方法は後述する。

その他の項目は次のとおり:

templates_path

リストに '_templates' を含ませる。

HTML 出力

もっとも神経を使うのはこの構成区分の設定だ。以下、当ノートの用途を意識した値を述べる。生成コード量を少なくしたいことと、ライブラリー文書を指向していないことにより、ここに挙げる設定が妥当だとみなしている。

html_theme

HTML5 に対応しているテーマを指定するべきだ。既定値の alabaster はそれを満足する。

html_theme_options

この辞書の値を Alabaster の文書を見ながら決めろ。設定値は後述する。

html_js_files

自作 JavaScript ファイルをリストに列挙する。

html_sidebars

テーマが Alabaster なので明示的に指定する必要がある。 html_theme_options['nosidebar']True にした場合にはテキトーでいい。

html_use_index

False とする。

html_copy_source

False とする。reST 原稿を配備したくない。

html_show_sourcelink

配備しないものに Sphinx はリンクしないようだが、明示的に False とする。

html_show_search_summary

False とする。ライブラリー文書でないので。

html_show_sphinx

False とする。HTML コードを減らしたいので。

拡張別構成

sphinx.ext.mathjax

mathjax_path

ラッパースクリプトのファイル名を設定する。例えばそれが source/_static/mathjax-v3.js であるとすると:

mathjax_path = "mathjax-v3.js"

See also

MathJax 利用ノート

sphinx.ext.todo

この拡張は重要ではないのだが、取り除く機会がないのでそのままにしてある。

todo_include_todos

True に設定すると HTML に Todo 囲み記事が現れる。

Todo

ノートじゅうに散乱している TODO 項目を一掃する。

sphinxcontrib.mermaid

mermaid_version, mermaid_init_js

どちらにも空文字列を代入する。その代わり構成項目 html_js_files にラッパースクリプトのファイル名を追加する。例えばそれが source/_static/mermaid.js であるとすると:

html_js_files = ['mermaid.js']

拡張

当ノートで利用している拡張について記す。

sphinx.ext から始まる名前の拡張は Sphinx 組み込みの拡張だ。conf.py 内のリスト extensions に含まれるだけで利用可能だ。

pip でインストールされない拡張については、前述の構成上、サブディレクトリー source/_extensions に拡張用 Python ファイルを手動で追加する必要がある。

sphinx.ext.githubpages

この拡張は GitHub の文書配置ルート位置にダミーファイルを配置する。HTML ファイルを置く場所で Jekyll が働かないようにする意味がある。

This extension creates .nojekyll file on generated HTML directory to publish the document on GitHub Pages.

sphinx.ext.mathjax

This extension puts math as-is into the HTML files. The JavaScript package MathJax is then loaded and transforms the LaTeX markup to readable math live in the browser.

Sphinx 原稿内の math directives/roles を変換後 HTML ファイルで数式を描画させるためにこの拡張を導入している。

sphinx.ext.todo

Sphinx 原稿内に todo および todolist 囲み記事を書けるようにする拡張だ。これがなくても問題ない。

IPython.sphinxext.ipython_*

原稿に ipython 指令を記述すると、HTML 変換時によく描画してくれる。

In [1]: x = 2

In [2]: x**3
Out[2]: 8

拡張モジュールはビルド時の Python 環境にインストールされている必要がある。先述の requirements.txt に関する記述を参照。

sphinxcontrib.mermaid

原稿に mermaid 指令を記述すると HTML 変換時に Mermaid が図式を描画する。

stateDiagram-v2 [*] --> Still Still --> [*] Still --> Moving Moving --> Still Moving --> Crash Crash --> [*]

Mermaid 動作確認

拡張モジュールはビルド時の Python 環境にインストールされている必要がある。先述の requirements.txt に関する記述を参照。

japanesesupport

現象を正確に記述するのは難しいのだが、本稿 reST ファイルには通常日本語の文をタイプする。私の場合は 70 文字打って改行する。日本語の文字と日本語の文字の間に改行文字が入ることが普通にある。これが最終的に HTML ファイルになり、ブラウザーで読む。そこでは改行文字だったものが空白文字に置き換わったかのように描画される。

それの回避策として、<http://sphinx-users.jp/reverse-dict/html/japanese.html> で入手した japanesesupport.pysource/_extensions に追加し、Sphinx 拡張としてロードしている。

Todo

執筆中に次の拡張が存在することに気づく:

sphinxcontrib-trimblank · PyPI

こちらを使用するほうが良いか?

disablesearchindex

当ノートでは Sphinx の枠組で搭載されている検索機能を完全に排除する。そのための自作拡張だ。

テーマ

先述の理由で Alabaster を採用する。

Alabaster is a visually (c)lean, responsive, configurable theme for the Sphinx documentation system.

レスポンシブとあるので、出力 HTML ファイルは PC でも携帯電話でもブラウザーでいい感じに表示される。

オプション

構成ファイルで html_theme_options の値を辞書で指定する:

html_theme = 'alabaster'
html_theme_options = {
    # ...
}

特に重要な項目は次のものだと思う:

github_button

False とする。True にしておくと、ページを修正したくなるだろう。

github_repo

リポジトリーの名前にする。本ノートならば文字列 'notebook' だ。

github_user

リポジトリーの所有者名にする。本ノートならば文字列 'showa-yojyo' とする。

nosidebar

サイドバーを使わないことにするので False とする。

show_powered_by

False とする。

show_relbars

サイドバーを使わない代わりにここを True とする。ページの天井か柱またはその両方に nextprevious リンクが示される。

スタイルシート

構成ファイルで指定されるオプションでは対応できない CSS 項目をカスタマイズしたい場合には、ファイル source/_static/custom.css を自分で用意してスタイルを定義する手法を採る。

オリジナルの CSS は Python ディレクトリーのファイル lib/site-packages/alabaster/static/alabaster.css_t に定義されている。

テンプレート

サブディレクトリー source/_templates に Alabaster を構成する HTML テンプレートファイルと同名のファイルを置くことで、対応する内容を上書きすることが可能だ。

当ノートではフッターを描画するための layout.html を次のように改造してある(一部略):

{% extends "alabaster/layout.html" %}

{%- block footer %}
<div class="footer">
  <ul>
    <li id="footer_logo">
      ...
    </li>
    <li id="footer_copyright">
      Copyright &copy; {{ copyright }}.
    </li>
  </ul>
</div>
{%- endblock %}

オリジナルの Jinja2 テンプレートファイルは Python ディレクトリーのサブディレクトリー lib/site-packages/alabaster に配置されている。

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