第 4 章 微分形式とベクトル場 1/4

アイソトピーの微分、ベクトル場、微分形式の関係について。

4.1 多様体上のフローとベクトル場

4.1.1 リー微分

以下、多様体 M はコンパクトであるとする。本節の冒頭は復習事項が多い。

  • フローはベクトル場によって生成される。

  • フローは常微分方程式 dφt(x)dt=ξ(φt(x)) の解で定義される。

  • 関数 f のフロー φt に沿う変化は (φtf)(x)=(fφt)(x)=f(φt(x)) でわかる。パラメーター t による微分が「変化率」であり、それは ξ(f) に等しい。

ここまでが復習。

  • 接空間の基底と余接空間の基底は双対基底である。次のように書く:

    dxj(xi)=δij
  • 定義 4.1.1: リー微分

    • 微分 1 形式のフローに沿う変化率を考える。α=fidxi とおくと、そのフローによる引き戻しは次のようになる:

      φtα=i=1nfi(φt(x))dφt(i).
    • ここで各係数の導関数の t=0 における式を見る:

      (ddt)t=0fi(φt(x))=j=1nfixjξj.
    • 一方、引き戻しの基底部分?はこうなっている:

      dφt(i)=j=1nφt(i)xjdxj.
    • 以上を組み合わせて、引き戻しの基底部分?の導関数の t=0 における式は:

      (ddt)t=0dφt(i)=j=1nξixjdxj.
    • フローによる引き戻しの変化率は次の 1 形式になる:

      (ddt)t=0φtα=i=1nj=1nfixjξjdxi+i=1nj=1nfiξixjdxj.

      上の式を Lξα と書いて、これをベクトル場 ξ による αΩ1(M) のリー微分という。

    • 以上の手続きを p 形式について考えると、同様の式で定まる p 形式が得られる。リー微分は p 形式から p 形式への写像である。

      Lξα=(ddt)t=0φtα.
  • 注意 4.1.2: フローで不変な部分多様体と包含写像

    • NM をフロー φt で不変な部分多様体であるとする。

    • ベクトル場 ξφt を、ベクトル場 ξNφt|N を生成するとする。

    このとき、

    1. Nξ=ιξN.

    2. (ddt)t=0(φt|N)ια=(ddt)t=0ι(φt|N)α.

    であるので LξN(α|N)=(Lξα)|N が成り立つ。

  • 問題 4.1.3: ライプニッツ則の確認

    • αΩp(M), βΩq(M)

    • ξX(M)

    のときに次の等式が成り立つ:

    Lξ(αβ)=(Lξα)β+α(Lξβ).

    以下を用いて示すことになる:

    1. φt の分配則。

    2. 微分 (ddt)t=0 のライプニッツ則。

    3. リー微分の定義。

  • 問題 4.1.4: リー微分と外微分の演算順序交換

    • αΩp(M)

    • ξX(M)

    のときに次の等式が成り立つ:

    d(Lξα)=Lξ(dα).

    以下を用いて示すことになる:

    1. リー微分の定義。

    2. 微分と外微分の順序交換と 定理 1.8.11 の外微分と引き戻しの順序交換。

    3. 再びリー微分の定義。

4.1.2 内部積

  • 定義 4.1.5: 内部積

    1. αΩ1(M) のベクトル場 ξ によるリー微分 Lξ(α) の書き換えを考えたい。

    2. M 上の関数として α(ξ)=fiξi のようなものが考えられる。

    3. ここで d(α(ξ)) を計算してみると、和の一部が 1. の和の一部と一致する。

    4. 1. と 3. の差 Lξαd(α(ξ)) をとると、 dαξ の成分から得られた積のように見える。

    5. 仮にその差を iξ(dα) とおく: Lξα=d(α(ξ))+iξ(dα). これは後ほどあたらめて定義する。

    pTxM の基底と TxM の基底の内部積として p1TxM の値を対応させる。

    ixk(dxi1dxip)={j=1p(1)j1dxi1(pop dxij)dxipif k=ij,0if k{i1,,ip}.

    一般のベクトル場 ξ による αΩp(M) の内部積 iξ:Ωp(M)Ωp1(M) を次のように定義する:

    iξα=i1<<ipj=1p(1)j1fi1ipξijdxi1(pop dij)dxipΩp1(M).

    特に αΩ1(M) の内部積はドット積に一致する:

    iξα=α(ξ).

    関数 fΩ0(M) の内部積はゼロとする:

    iξf=0.
  • 注意 4.1.6: 多様体の座標近傍に付随する概念を定義するときには、それが本当に座標近傍に依存するのかどうかを示す。

  • 問題 4.1.7: 内部積の定義は座標近傍のとり方に依存しない

    • (1) αΩp(M), βΩq(M) に対して次の式が成り立つ:

      iξ(αβ)=(iξα)β+(1)pα(iξβ).
      • 次数付きライプニッツ則とでも言えばよいか?

      • 直接計算で示す。

    • (2) F:UV をユークリッド空間の開集合間の微分同相写像、 αΩ1(V), ξX(V) のとき次が成り立つ:

      F(iξα)=iF1ξFα.
      1. 記号を次のようにおく:

        • F(y1,,yn)=(x1,,xn)V

        • α=fi,dxi

        • ξ=ξixi

      2. 与式左辺の一部を計算: iξα=fiξi.

      3. 与式右辺の一部を計算:

        Fα=injn(fiF)xiyjdyj.F1ξ=injn(ξiF)yjxiyj.
      4. 与式右辺を 3. を組み合わせて求める:

        injn(fiF)xiyj(ξiF)yjxi=in(fiF)(ξiF)=F(iξα).
    • (3) (2) の αΩp(V) としても与式が成り立つ。

      1. p=0 のときも確かめる必要があることに注意。両辺ゼロで成り立つ。

      2. トリッキーな帰納法を用いる。与式が αΩp(V),βΩq(V) に対して成り立つと仮定する。このとき、外積に対しても成り立つことを示せれば話が早い:

        F(iξ(αβ))=iF1ξF(αβ).

        式変形で直接示す。

        1. より p=1 のときには成り立つから、

        • 単項式 fi1ipdxi1xip に対して成り立ち、

        • その単項式の線形結合に対しても成り立つ

        から、一般の微分形式に対して成り立つと結論できる。

4.1.3 カルタンの公式

  • 命題 4.1.8: カルタンの公式

    αΩp(M), ξX(M) に対して次の等式が成り立つ:

    Lξα=d(α(ξ))+iξ(dα).

    問題 4.1.7 と同じように証明する:

    1. p=0,1 に対しては前節の議論によって示されている。

    2. 一般の p に対して示すために、与式が αΩp(M), βΩq(M) のときに成り立つと仮定し、外積に対して同等の等式:

      Lξ(αβ)=d(iξ(αβ))+iξ(d(αβ))

      が示せれば、同じ論理で一般の場合に対して成り立つことになる。

  • 復習だと思うが括弧積の成分表示:

    [ξ,η]=jnin(ξiηjxiηiξjxi)xj.
  • 問題 4.1.9: リー微分と括弧積に関する等式 1 形式版

    • αΩ1(M)

    • ξ,ηX(M)

    ならば、次が成り立つ:

    LξLηαLηLξα=L[ξ,η]α.

    証明は直接計算になる:

    1. α=fi,dxi とおく。

    2. Lξα をそれで表す:

      Lξα=injn(fixjξj+fjξjxi)dxi.
    3. LξLηαLηLξα を直接計算する。

    4. 3. の差を計算すると、本書の解答例の式で言うところの奇数項が打ち消し合って次のようになる:

      ikj(fixj(ηjxkξkξjxkηk)+fjxi(ηjxkξkξjxkηk))dxi.

      これは括弧積によるリー微分である。

  • 問題 4.1.10: リー微分と括弧積に関する等式 p 形式版

    問題 4.1.9 において αΩp(M) と仮定を一般の次数に緩めても同じ等式が成り立つ。

    こちらの等式もカルタンの公式である。

    1. p=0 のとき成り立つことを示す。つまり関数 fΩ0(M) で確認する:

      LξLηfLηLξf=ξ(η(f))η(ξ(f))=[ξ,η](f)=L[ξ,η]f.
    2. p=1 のときは既に 問題 4.1.9 において証明済みである。

    3. 与式が αΩp(M), βΩq(M) のときに成り立つと仮定し、問題 4.1.7 での証明技法を用いる。つまり、次の等式が成り立つことを示す:

      LξLη(αβ)LηLξ(αβ)=L[ξ,η](αβ).
  • 問題 4.1.11: 内部積とリー微分と括弧積

    • αΩp(M)

    • ξ,ηX(M)

    ならば、次が成り立つ:

    iξLηαLηiξα=i[ξ,η]α.
    1. p=1 のときを示す。α=fidxi に対して直接計算で示す。

    2. あとは 問題 4.1.7 での証明技法を用いる。直接計算で次を示せば十分:

      (iξLηLηiξ)(αβ)=i[ξ,η](αβ).
  • 問題 4.1.12: カルタンの公式の応用?

    • (1) ω=dx1dx2dx3Ω3(R3) とする。ξ=i,j=13aijxjxi によるリー微分 Lξω がゼロとなる条件とは何か。

      ポイントは dω=0 であるから、カルタンの公式が簡単になることを利用することだ。

      Lξω=d(iξω)+iξ(dω)=d(iξω)=d(ξ1dx2dx3ξ2dx1dx3+ξ3dx1dx2)=i=13ξixiω=i=13aiiω.

      ただし ξ1=j=13a1jxj などとした。

      よって求める条件は aii=0 となる。

    • (2) α=x1dx2dx3x2dx1dx3+x3dx1dx2Ω2(R3) についてはどうか。

      直接計算による方法と dα=3ω を利用する方法がある。 Lξω=0Lξα=0 を示す。

      1. 直接計算により dα=3ω がわかる。

      2. Lξα=0Lξα=0 を示す:

        d(Lξα)=0問題 4.1.4 の順序交換を適用して Lξ(dα)=0.

        ここで 1. を利用すると Lξ(dα)=Lξ(3ω)=3Lξω.

        ゆえに Lξα=0Lξα=0 が成り立つ。

      3. Lξω=0Lξα=0 を示す:

        まず ε=i,j=13δijxjxi とおくと次の等式が成り立つ:

        • [ε,ξ]=0

        • iεα=0

        問題 4.1.11 により次の等式が成り立つ:

        iεLξωLξiεω=i[ε,ξ]ω.
        • [ε,ξ]=0 なので、右辺、結局両辺ともにゼロである。

        • 一方 Lξω=0 であることから、左辺は Lξiεω=Lξα に等しい。

        以上より Lξω=0Lξα=0 が成り立つ。

      4. 主張の同値性が 2. と 3. により示された。従って、求める条件とは (1) のそれと同じである。

ここで微分形式の演算をまとめておく。

微分形式の演算

演算

写像

外積

:Ωp(M)×Ωq(M)Ωp+q(M)

外微分

d:Ωp(M)Ωp+1(M)

リー微分

Lξ:Ωp(M)Ωp(M)

内部積

iξ:Ωp(M)Ωp1(M)

4.1.4 微分形式のベクトル場における値

冒頭、外積代数 pTM は余接束 TM のベクトル束だと言っている?

  • 定義 4.1.13: 微分形式のベクトル場における値

    α(ξ1,,ξp)=iξpiξ1α.

    内部積で定義される値のようだ。

    これを逆に使えば内部積を微分形式の値として表現できる:

    iξpα(ξ1,,ξp1)=α(ξp,ξ1,,ξp1).
  • 注意 4.1.14: 上記の右辺を p! で割った値を定義とする流儀もあるらしい。

  • 問題 4.1.15: 外積の微分形式のベクトル場における値

    αΩp(M), βΩq(M) のとき、外積のベクトル場における値は次のとおり:

    (αβ)(ξ1,,ξp+q)=j1<<jpk1<<kqsign(1pp+1p+qj1jpk1kq)α(ξj1,,ξjp)β(ξk1,,ξkq)
    1. 定義 4.1.13 の右辺を 問題 4.1.7 に基いて軽く計算すると、おおまかには次の形になる:

      iξp+qiξ1(αβ)=(1)?(iξjpiξj1α)(iξkqiξk1β).
    2. iξiη=iηiξ なので iξkqiξk1iξjpiξj1(αβ) における (iξjpiξj1α)(iξkqiξk1β)sign はプラス。

    3. よって 1. の左辺における 2. 最終式の符号は主張の置換の符号に等しい。

  • 問題 4.1.16: 外微分とリー微分の性質(あるいは定義)

    • (1) αΩ1(M) に対して次の等式が成り立つ:

      (dα)(ξ1,ξ2)=ξ1(α(ξ2))ξ2(α(ξ1))α([ξ1,ξ2]).
      1. 問題 4.1.11 の等式にカルタンの公式 命題 4.1.8 を適用する。

      2. 定義 4.1.13 を用いて書き換えれば示される。

    • (2) αΩp(M) に対して次の等式が成り立つ:

      (dα)(ξ1,,ξp+1)=i=1p+1(1)i1ξi(α(ξ1,(pop i),ξp+1))+i<j(1)i+jα([ξi,ξj],ξ1,(pop i,j),ξp+1).

      これは難しい。問題 4.1.11 の拡張版と(ふつうの)帰納法による。

    • (3) αΩp(M) に対して次の等式が成り立つ:

      (Lξα)(ξ1,,ξp)=ξ(α(ξ1,,ξp))i=1pα(ξ1,,[ξ,ξi],,ξp).

      左辺からひたすら計算する。

      iξpiξ1Lξα=iξpiξ2i[ξ1,ξ]α+iξpiξ2Lξiξxα=iξpi[ξ1,ξ]α+iξpiξ3i[ξ2,ξ]iξ1α+iξpiξ3Lξiξ2iξ1α==i=1niξpi[ξi,ξ]ixi1α+Lξiξpixi1α=ξ(α(ξ1,,ξp))i=1pα(ξ1,,[ξ,ξi],,ξp).
      • 最後の等号で、直前の二項が入れ替わった。

    本によってはこちらが外微分・リー微分の定義として採用されているらしい。