第 3 章 微分形式の積分 2/3¶
3.3 単体的ドラーム理論(展開)¶
目標は次のとおり:
の 次元コホモロジー群と単体複体のコホモロジー群は一致する。単体複体のコホモロジー群とホモロジー群は同次元の双対空間である。
これらが言えれば
3.3.1 単体複体¶
有限単体複体を定義するために、記号と用語をいくつか導入する。
読者ノート
本書では頂点の記号に
次元単体 次元単体とは 内の 個の頂点で構成される凸包であり、各点は一般の位置にあるものとする。「各点が一般の位置にある」とは、例えば次のベクトルが一次独立であることを意味する:
-
次元単体の点を で表したときの基底に対する係数を組にした を重心座標と呼ぶ。各座標成分が非負であることと、座標成分の和が 1 であることに注意。
次元単体の内部とは、重心座標のどの成分も正となるような点のなす部分と解釈する。特に境界は内部に含まれない。
定義 3.3.1: 有限単体複体
単数または複数の
次元単体からなる有限集合で、さらに次の条件を満たすものを有限単体複体という:境界を構成するすべての
単体も に含まれる。この規則が再帰的に適用されるので、自動的に全頂点までも
に含まれることになる。 のどの二つの単体についても、それらの共通部分が に含まれる。
を 幾何的実現 という。ユークリッド空間の部分集合、点の集まりとして素朴に解釈すればよい。
したがって元は重心座標で表される。
チェイン チェインとは有限単体複体 を決めたときの、その 単体の実係数有限線形結合である。記号 で表す。 は 単体の個数と同じ次元のベクトル空間である。その個数を とすると、次のように書ける:
境界、境界準同型
単体
の境界 を次で定義する:0 単体(頂点、点)の境界はゼロ、
1 単体(辺、線分)の境界は 0 単体(頂点、点)、
2 単体(面)の境界は 1 単体(辺、線分)、
……となる。というわけで
境界準同型 or 境界演算子
が定義される。 という性質がある。
このゼロ準同型の性質より、複体
が得られる:さらに実係数ホモロジー群が得られる:
例によって
をサイクル、 をバウンダリーと呼ぶ。実係数であることは、チェインを実係数で構成したことから来ている。
コチェイン の 単体のなす有限集合上の実数値関数を コチェインという。 コチェインからなる有限次元ベクトル空間を と書く。 は の双対ベクトル空間である。
を次で定義する: が成り立つ。これは による。
のコホモロジー群は のコチェイン複体 のコホモロジー群として定義される:

定義 3.3.2: オイラー標数
は 単体の個数 である。 の単体の次元が高々 であるとき次の値を のオイラー(・ポアンカレ)標数という:
問題 3.3.3:
複体
においては と準同型定理
を利用する。複体
においても、上の二つに対応する性質を利用する。
命題 3.3.4:
こちらの証明は線形代数。内積を利用するようだ。
の基底を何かとって が列ベクトル表示されるものとする。境界準同型
を行列 を用いて表すものとする。このとき から を満たす。同時に
は行ベクトル表示されるものとする。これはコチェインが 上の微分形式であることによる。準同型 は行ベクトルに作用するとみなせば同じ で表される: と の間の「積」をユークリッド空間の内積として定義する。直交補空間の性質をこの証明で利用したい。
行列
を行ベクトル を縦に並べたものとすると、行列
を列ベクトル を横に並べたものとすると、
以上より次が成り立つ:
一方、
以上より次が成り立つ:
ここで
とおくと、
すなわち
が成り立つ。したがって である。
注意 3.3.5:
と との間の積は と との間の積を引き起こす。
3.3.2 単体複体上の微分形式¶
定義 3.3.6:
を次の二点で定義する: のすべての単体から、その上の 形式への対応である: 単体 とその面である 単体 に対して となる。
外微分
についてが定義される。
2.10 節の理論を
のドラーム複体 に適用することができる。その結果 と結論できる。開星状体
の定義中にある「単体の内部の和集合」がわからない。これは を意味する?
3.3.3 単体的ドラームの定理¶
単体上の積分が
の と の関係を与える。 から への写像をやはり同じ記号で記す:写像
は の コチェインを与える。 は 定理 3.2.1 により、 が成り立つコチェイン写像である。
定理 3.3.7: 単体ドラームの定理
は と の間の同型写像を誘導する。コチェイン写像
で を満たすものを考える。次の事実を利用する:
は値 を対応させる写像であり、 である。 は準同型写像 を誘導する。さらに および次元が有限であることから同型写像である。 は準同型写像 を誘導し、 を満たす。
に対し の何が対応するのか、どのような 上の関数であればよいのかを考える。それは頂点 で値 をとる関数を線形に拡張するのがよい: 上で である。 の計算をする:上の式変形には p. 107 の式やシグマの展開を行なう。
ここで
としておく。上の式が の像であるには であることから に対して次のように定義できることが必要である:一般の
に対しては次のように を定義する: を示す。そのために を示す。最初の等号は上記
の定義に外微分を分配することによる。二番目の等号は標準
形式の外微分の定義 (p. 108) による。三番目の等号はシグマの展開か。
四番目の等号は
の定義 (p. 102) を当てはめる。最後の等号は上記
の定義で を に置き換えると得られる。
を 上で積分するには、 を含む任意の単体 で次のようにする:
3.3.4 多様体の三角形分割と単体的ドラーム理論¶
同相写像
が各単体上で 級となるものを の 級 三角形分割 という。次の三点により
が と の同型を与えている: 3.3.2 節参照。 の存在。
と のコホモロジー群の同型も単体に沿う積分から誘導される。 の生成元 に対し、 となる を満たす。三角形分割のとり方に依らないので
と が等しい?オイラー標数は多様体に対して定まる量になっている。
3.4 向きを持つ多様体上の積分¶
直方体あるいは単体からの写像には自然に向きが定まっている。
コンパクト
次元多様体は 次元単体からの 級の写像の像でうまく覆うことができる。多様体に向きが定まっているときは、積分をすることができる。
定義 3.4.1: 向き付けを持つ or 向き付け可能である多様体
幾何学 I 3.6 節 参照。
定義 3.4.2: 向き付けられている多様体
ユークリッド空間には、その座標の順による向きが定まっている。例えば直方体の積分の定義にそれが表れている。
向き付けを持つことと、向き付けられていることは別の概念であるらしい。上記のリンク先も参照。
定義 3.4.3: 微分形式の台
関数の台と定義は似ているが、
という式が気になる。
これを
定義 3.4.4:
のコンパクト部分 に台を持つ の に沿う積分
以下、多様体は向き付けられているものとする。
命題 3.4.5: 座標近傍の取り方に依らない
座標近傍
の共通部分のコンパクト部分集合 に台を持つ の積分の値は等しい: から見て と表す。座標変換
を考える:ここまではよく見かける論証。
積分は次のようになる:
最初と最後の等号は 定義 3.4.4 による。
二番目の等号は重積分の変数変換か?
三番目の等号は多様体が向き付けられていることにより、絶対値を取らなくても行列式の符号が正であることによる。
命題 3.4.6: 向き付けられた二つの座標近傍系にそれぞれに従属する 1 の分割についての等式
証明は、開被覆
およびそれに従属する 1 の分割 を考えて 命題 3.4.5 を用いる。
定義 3.4.7: コンパクトで向き付けられた多様体上の微分形式の積分
に従属する 1 の分割を用いている。この定義が well-defined であることは、命題 3.4.6 による。
定理 3.4.8: ドラーム・コホモロジー群の性質
コンパクト・向き付けを持つ・連結
次元多様体 について写像
は同型写像 を誘導する。
これがまともな準同型であることをまず示す。
が向き付けを持つ 上に台を持ち、非負関数を用いて の形に書けるとする。このときに
となるから、ゼロ準同型ではない。
あとは
を示す。
例題 3.4.9: モース関数を利用した 定理 3.4.8 の証明
2.8 節 で多用した技法を採用する。
のとき は空集合であるか、
と微分同相であり、
は と微分同相である。定理 2.8.1 のマイヤー・ビエトリス完全系列を見ると、
のときよって
至るところゼロでない微分形式が存在するならば、多様体は向き付け可能である。
命題 3.4.10:
が境界なし・向き付け不可能・コンパクト・連結ならば は向き付け不可能であるが、幾何学 I 3.6 節 にあるように次のような多様体 と写像 がとれる: は向き付け可能・連結であり、写像
は向きを反対にし、不動点がない。
ここで
をとり、射影を とおく。 ゆえ したがって:写像
の反変性により:この二つの等式より:
ここで 定理 3.4.8 により、
(外微分をオメガの元と見るのが新鮮) に対して、 より
が単射だからか となる。