高崎金久著『常微分方程式』(日本評論社)ノートその九。

第 4 章 (残り)

§4.5 相空間上の力学系としての見方

  • Hamilton 運動方程式(正準方程式)Hamilton 系Hamilton 関数

    まず、保存力のある Newton 運動方程式を連立一階系に書き換える。

    \[m \frac{\mathrm{d}^2 x_i}{\mathrm{d} t^2} = -\frac{\partial U(\bm x)}{\partial x_i}, \quad(i = 1, \dotsc, n).\]

    ここで $y_i \coloneqq m \dfrac{\mathrm{d}x_i}{\mathrm{d}t}$ と置く(運動量)と、$2n$ 本の連立一階系が得られる:

    \[\frac{\mathrm{d}x_i}{\mathrm{d}t} = \frac{y_i}{m},\quad \frac{\mathrm{d}y_i}{\mathrm{d}t} = -\frac{\partial U(\bm x)}{\partial x_i}.\]
    • この $n$ を 自由度 という。

    次に、全 energy を $(\bm x, \bm y)$ の関数(これを Hamilton 関数という)の形に書き直す:

    \[H(\bm x, \bm y) = \sum_{i = 1}^n \frac{y_i^2}{2m} + U(\bm x).\]

    これらを使うと、次のような $2n$ 次元空間の関数 $H$ によって表される連立一階系が得られる。 これを Hamilton 系という:

    \[\frac{\mathrm{d}x_i}{\mathrm{d}t} = \frac{\partial H(\bm x, \bm y)}{\partial y_i},\quad \frac{\mathrm{d}y_i}{\mathrm{d}t} = -\frac{\partial H(\bm x, \bm y)}{\partial x_i}.\]
  • 保存力を受けない運動では、一般に Hamilton 関数は $t$ も変数にとる:

    \[H = H(t, \bm x, \bm y)\]

    このような Hamilton 系は非自励系という。さっきのは自励系という。

以下、自励 Hamilton 系を考察する。


  • 自励系において、Hamilton 関数は第一積分である。すなわち $t$ に関して定数である。
    • 等 energy 集合

      それゆえ、解軌道上 $H$ は一定である。言い換えると $E$ ごとに各軌道は次の集合に含まれる:

      \[\{(\bm x, \bm y)\,|\,H(\bm x, \bm y) = E\}\]
  • 一次元運動方程式における自励 Hamilton 系では軌道は曲線である。

    \[\frac{\mathrm{d}x}{\mathrm{d}t} = \frac{y}{m},\quad \frac{\mathrm{d}y}{\mathrm{d}t} = -\frac{\partial U}{\partial x}\]

    一本目に注目する。$y$ の符号と速度 $\dfrac{\mathrm dx}{\mathrm dt}$ の符号が一致する。

    • (E4.2) の図 4.14 のように、解曲線がプロット済みならば、 物体が数直線上を右に動くか左に動くかがただちに判別できる。 例えば、上半平面においては曲線に接線を引いて、直観的右方向に矢印をつける。
  • 正弦運動(バネ)と線形斥力の場合に当てはめて考える。

    \[H(\bm x, \bm y) = \frac{1}{2m}y^2 \pm \frac{k}{2}x^2.\]
    • 複号はプラスとマイナスがそれぞれバネと斥力を示す。
    • 解曲線 $H = E$ をプロットすると、バネと斥力はそれぞれ楕円、双曲線になる(コメント:二次式の形からもわかる)。
    • バネについては付言することはほとんどない。全てが閉軌道であり、周期的な運動をすることが見える。
    • 斥力については $E = 0$ の等 energy 曲線が原点で交差する直線であることが目を引く。
      • コメント:この直線の定義する開集合 4 つに関して、軌道を分類できるはず。 各同値類で運動の性質が同じになるだろう。
    • いずれのプロットにおいても原点が特異な感じがする。これは第 7 章で述べる。
    • コメント:ODE を解く過程で記号 $\pm$ が頻出するが、これはプロットを陰関数で考えることが自然であることを示唆していないか?
  • 振り子を考察する:

    \[\begin{aligned} H(\theta, y) &= \frac{1}{2}y^2 + U(\theta)\\ &= \frac{1}{2}y^2 + a(1 - \cos\theta).\\ \end{aligned} \\ \therefore \frac{\mathrm{d}\theta}{\mathrm{d}t} = \frac{\partial H}{\partial y},\quad \frac{\mathrm{d}y}{\mathrm{d}t} = -\frac{\mathrm{d}H}{\mathrm{d} \theta}.\]

    とても自力ではプロットできない図 4.17 をみながら:

    • $E = 2a.$ コサインカーブに酷似しているが、曲線の向きに注意。
    • $E < 2a.$ 振り子のふつうの運動なので閉曲線(コメント:閉曲線すべては周期的運動を意味する)。
    • $E > 2a.$ 大車輪のケースだ。上半平面と下半平面とで車輪の回転方向が異なる。
    • 不動点が二種類あると考えられる。 $E = 2a$ の交点系と $E < 2a$ の縮退系とでは、何らかの性質が異なると考えられる。 これらの不動点周りで Hamilton 関数を Taylor 展開して高次の無限性をカットすると、いい近似が得られる。
  • 多項式 potential の場合、特に次数が 3 以上のものを考察する:
    • $U(x)$ の次数 3 以上の場合、等 energy 曲線はふつう楕円曲線になる。
    • 以下、次の potential を考える:

      \[U(x) = ax - 2x^3,\quad(a > 0).\]
    • Hamilton 関数はこうなる:

      \[H(x, y) = \frac{1}{2}y^2 + ax - 2x^3.\]
    • 等 energy 曲線 $U(x) = E$ は $U(x)$ の極値を境に性質が変化する。
    • プロットしたければ下の陰関数をがんばるしかない:

      \[\frac{1}{2}\!\left(\frac{\mathrm{d}x}{\mathrm{d}t}\right)^2 + ax - 2x^3 = E\\ \therefore \pm\int\!\frac{\mathrm dx}{\sqrt{2E - 2ax + 4x^3}} = t + C.\]
    • 極値を $E_1, E_2$ とおく。$E \ne E_1 \land E \ne E_2$ の場合は上記の左辺不完全楕円関数の逆関数が Weierstrass の $\wp$ 関数と呼ばれるものである:

      \[x = \wp(t + C).\\ \frac{1}{2}\wp^\prime(t) + a\wp(t) - 2\wp(t)^3 = E.\]
  • 被食者・捕食者方程式を考える。

    \[\frac{\mathrm{d}x}{\mathrm{d}t} = (a - qy)x,\quad \frac{\mathrm{d}y}{\mathrm{d}t} = (-b + rx)y,\\ a > 0, b > 0, q > 0, r > 0.\]

    個体数を意味する $(x, y)$ を $x > 0, y > 0$ に 限定する。 変数変換

    \[X = \log x,\quad Y = \log y\]

    を適用できる。元の方程式を次に書き換える:

    \[\frac{\mathrm{d}X}{\mathrm{d}t} = a - q \mathrm{e}^Y,\quad \frac{\mathrm{d}Y}{\mathrm{d}t} = -b + r \mathrm{e}^X.\]

    Hamilton 関数

    \[H(X, Y) = aY - q \mathrm{e}^Y + bX - r \mathrm{e}^X\]

    を導入して Hamilton 系に書き換える:

    \[\frac{\mathrm{d}X}{\mathrm{d}t} = \frac{\partial H}{\partial Y},\quad \frac{\mathrm{d}Y}{\mathrm{d}t} = -\frac{\partial H}{\partial X}.\]

    この Hamilton 関数は第一積分であるので、等 energy 曲線として解曲線が定まる。図 4.21 参照。

    • 閉曲線族の向きは直線 $x = \dfrac{b}{r},\,y = \dfrac{a}{q}$ を境に決まる。

以上で第 4 章ノート終わり。