Cauchy の定理(群論)に関する学習ノート。

概要

Cauchy の定理(群論)は位数が素数倍である有限群が、ある性質を持つ元または部分群が存在することを主張するものだ (テキストによって主張が微妙に違う)。本稿では今読んでいる教科書のものを採用する。

定理

定理: $G$ が有限群で、$\lvert G \rvert$ が素数 $p$ で割り切れるとき、$G$ には位数が $p$ の元が存在する。

検討

  • Lagrange の定理が明らかに有用だ。
  • 結論が「$G$ には位数が $p$ の部分群が存在する」ということもあるようだ。
  • 与えられた仮定を緩くしたものを証明して、それからその仮定を外したものを証明するという手法を採る。
    • 「$G$ が Abel 群である」という仮定を加える。教科書では Abel 群の基本定理を利用する。
    • 一般の場合については、Abel 群の場合に何とか帰着させる。
    • どちらの場合にも特殊な帰納法(強い帰納法?)を用いる。
  • $G$ ではなく中心 $Z(G)$ を考える。$Z(G)$ に主張の元が存在する。
    • 群の中心は Abel 群かつ正規部分群であるという、ひじょうに良い性質がある。
    • 中心を利用するときは類等式も有用だ。

証明

まず $G$ が Abel 群であると仮定する。このとき位数 $p$ の元が存在することを $\lvert G \rvert$ についての強い帰納法で証明する。

任意の $a \ne e \in G$ をとり、これが生成する巡回群を $H$ とおく。

  • もし $p$ が $\lvert H \rvert$ を割り切るならば、$a^{\lvert H \rvert / p}$ は位数 $p$ の元である。 この元は $G$ の元でもあるので、主張は成り立つ。
  • もし $p$ が $\lvert H \rvert$ を割り切らないならば、Lagrange の定理により $p$ は剰余群 $G/H$ の位数 $[G\colon H]$ を割り切る。 帰納法の仮定により $G/H$ は位数 $p$ の元を含む。 その元に対して $\exists x \in G (\lvert xH \rvert = p)$ が成り立つ。

    ここで $m = \operatorname{ord}(x)$ とすると

    \[\begin{aligned} x^m &= e \in G.\\ \therefore (xH)^m &= eH \in G/H. \end{aligned}\]

    したがって $p$ は $m$ を割り切る。前述と同様に $x^{m/p}$ は $G$ の元であり位数が $p$ である。

    どちらの場合にも位数 $p$ の元が $G$ に存在する。 したがって $G$ が Abel 群であれば、位数 $p$ の元が存在することが示された。

次に $G$ が一般の有限群であるときに位数 $p$ の元が存在することを示す。 $\lvert G \rvert$ についての強い帰納法で証明する。

  • $\lvert G \rvert = p$ の場合:これは既に習ったように巡回群である。 生成群の位数が $p$ であるので成り立つ。

  • $\lvert G \rvert \gt p$ の場合:$G$ の中心 $Z(G)$ について主張が成り立つことを示すことにする。 そうすれば $Z(G) \subset G$ であるので、もとの主張も成り立つ。

    • $p$ が $\lvert Z(G) \rvert$ を割り切るときは、前述の Abel 群の場合で示したように、 $Z(G)$ は位数 $p$ の元を含む。この元は $G$ の元でもある。
    • $p$ が $\lvert Z(G) \rvert$ を割り切らないとき。 それでも $\lvert G \rvert$ を割り切るので、サイズが $p$ で割り切れない非中心元 $a$ の共役類が少なくとも一つは存在する。 それを示す。類等式:

      \[\tag*{$\spadesuit$} \lvert G \rvert = \lvert Z(G)\rvert + \sum_{i}[G\colon G_C(a_i)]\]

      において、ある $[G\colon G_C(a)]$ はその位数が $p$ で割り切れない。 Lagrange の定理によると

      \[\lvert G \rvert = [G\colon C_G(a)]\lvert C_G(a)\rvert\]

      である。$\lvert G\rvert$ が $p$ で割り切れて $\lvert[G\colon G_C(a)]\rvert$ が $p$ で割り切れないのだから $\lvert C_G(a)\rvert$ は $p$ で割り切れる必要がある。

      この非中心元 $a$ について $\lvert C_G(a) \rvert \lt \lvert G \rvert.$ 帰納法の仮定により、この真部分群は $p$ で割り切れる位数の元を含む。

    したがって $Z(G)$ には位数 $p$ の元が存在する。

以上により $G$ に位数 $p$ の元が存在する。 $\blacksquare$


別証:教科書では上記証明の前半を Abel 群の基本定理を応用して示している。

まず $G$ が Abel 群であると仮定する。Abel 群の基本定理より正の整数 $r$ と素数と正の整数の対 $(p_1, e_1), \dotsc, (p_1, e_r)$ が存在して次が成り立つ:

\[\def\S#1{ \Z/p_{#1}^{e_{#1}}\Z } G \cong \S{1} \times \S{2} \times \dotsb \S{r}.\]

このとき $\lvert G \rvert = p_1^{e_1}p_2^{e_2}\dotsm p_r^{e_r}.$ 仮定により $\lvert G \rvert$ は $p$ で割り切れるので $p_1, \dotsc, p_r$ のうちの少なくとも一つが $p$ に等しい。 $p = p_1$ と仮定すると、

\[\def\S#1{ \Z/p_{#1}^{e_{#1}}\Z } x \coloneqq (p^{e_1 - 1}, 0, \dotsc, 0) \in \S{1} \times \S{2} \times \dotsb \S{r}.\]

は $x \ne 0 \land px = 0.$ ゆえに $\operatorname{ord}(x) = p.$

  • コメント:ここは答案作成上の注意点。Abel 群なので $x^p$ ではなく $x + x + \dotsb + x$ と書くこと。

$p \ne p_1$ の場合でも上のように議論できるので、結局 $G$ には位数 $p$ の元が存在する。 これで $G$ が Abel 群であれば、位数 $p$ の元が存在することが示された。 $\blacksquare$

類等式

$\spadesuit$ の証明を記す。

定理:有限群 $G$ には共役類がちょうど $N$ 個あり、 それらを $x_1^G, x_2^G, \dotsc, x_N^G$ とする。ここで共役類の順序を位数の小さい順にソートし添字を付け替え、

\[\lvert x_i^G \rvert \begin{cases} = 1, & i = 1, \dotsc, r,\\ \gt 1, & i = r + 1, \dotsc, n \end{cases}\]

であるとする。このとき $\spadesuit$ が成り立つ。

検討

\[\begin{aligned} \lvert G \rvert &= \sum_{i = 1}^N \lvert x_i^G\rvert && \because G = \bigsqcup_{x = 1}^N x^G\\ &= \left(\sum_{i = 1}^r + \sum_{i = r + 1}^N\right)\lvert x_i^G\rvert\\ &= r + \sum_{i = r + 1}^N\lvert x_i^G\rvert&& \because \lvert x^G \rvert = 1 \iff x \in Z(G)\\ &= \lvert Z(G) \rvert + \sum_{i = r + 1}^N\lvert x_i^G\rvert && \because Z(G) = \{x_1, \dotsc, x_r\}\\ &= \lvert Z(G) \rvert + \sum_{i = r + 1}^N [G\colon C_G(x_i)] && \because \text{orbit-stabilizer theorem} \\ \end{aligned}\]

急所は $Z(G)$ の決定にあると見た。

\[\begin{aligned} Z(G) &= \{x_i \in G\,|\, \lvert x_i^G\rvert = 1\}\\ &= \{x_1, \dotsc, x_r\}. \end{aligned}\]

証明:検討で気が済んだので省略。

参考資料