単位的可換環、1 を持つ可換環(以下、単に環と書く)の極大イデアルについてまとめておく。

定義

$R$ を環とする。$R$ のイデアル $J$ が極大であるとは、次の条件をすべて満たすイデアルを言う:

  • $J \subsetneq R.$
  • $J \subsetneq K \subsetneq R$ を満たすイデアル $K$ が存在しない。

つまり、$R$ のすべての真イデアルを包含関係により一列に並べるとき、 $J$ がその極大元であることを意味する。

性質

極大イデアルによる剰余環は体と同値

定理: $R$ を環とし、$J$ を $R$ のイデアルとする。このとき次は同値である:

  • $J$ が極大イデアルである
  • 剰余環 $R/J$ は体である

検討

  • 同値命題の証明なので十分条件と必要条件を両方向とも示す。
  • 体、極大イデアル、剰余環、同値類の定義を丁寧に参照する。

証明: $\implies\colon$ $J$ が極大イデアルであると仮定する。$J$ は $R/J$ の零元であることに注意する。

今、任意に零でない $A \in R/J$ をとり、任意に $a \in A$ をとる。 $A$ のとり方から $a \notin J.$

ここで $K \coloneqq J + A$ を考える。これは $R$ のイデアルになる。 このイデアルは $\lbrace j + ra \,\mid\, j \in J, r \in R\rbrace$ を含む。

$J$ の極大性および $K$ はイデアルであることから $J \subsetneq K.$ すると $K = R$ が必要である。このとき $1 \in R$ であるのでイデアルの性質から $u + ra = 1$ を満たす $u \in J$ が存在する。

したがって

\[\begin{aligned} \bar r\cdot \bar a &= \overline{1 - u} && \because u + ra = 1\\ &= \bar 1 && \because u \in J. \end{aligned}\]

これは $\bar r$ が $\bar a$ の逆元であることを示している。 $A$, $a$ は任意だと仮定したので、$R/J$ は体である。 $\Box$

$\impliedby\colon$ $R/J$ を体と仮定し、$K$ を $J \subsetneq K \subset R$ を満たすイデアルと仮定する。 すると実は $K = R$ であることを以下に示す。

今 $x \in K\setminus J$ を任意にとる。すると $x \notin J$ であることから $\bar x \ne J.$

さらに $R/J$ が体であることから、$\bar x$ には逆元が存在する。それを $\bar s \in R/J$ とおく:

\[\bar x \cdot \bar s = \overline{xs} = \bar1.\]

群論の同値類に関する定理 $xH = yH \iff x^{-1}y \in H$ より

\[\tag*{$\spadesuit$} 1 - sx \in J \subsetneq K.\]

$K$ がイデアルであることから $x \in K, s \in R$ について $sx \in K.$ これと $\spadesuit$ により再び$K$ がイデアルであることから:

\[(1 - sx) + sx = 1 \in K.\]

イデアル $K$ が $1$ を含むことが示された。したがって $K = R.$ したがって $J \subsetneq K = R$ は極大イデアルであることがわかった。 $\blacksquare$

極大イデアルは素イデアル

定理: $R$ を環とし、$M$ を $R$ の極大イデアルとする。

このとき $M$ は $R$ の素イデアルである。

証明:先述の定理により剰余環 $R/M$ は体である。 定義より体が整域である。したがって $R/M$ は整域である。 素イデアルの性質で示したように、 剰余環 $R/M$ が整域であることと $M$ が素イデアルであることは同値である。 $\blacksquare$

参考資料