体論学習ノート 5 体の拡大編
Galois 論に入る前に体の基本的な性質を理解してゆくノート。今回は体の拡大を習う。
定義
体の拡大、拡大体 (field extension)
定義:$K$ を体とする。体 $F$ 上の拡大体とは体 $L$ であって $K \subset L$ をみたすものをいう。 つまり $K$ は $L$ の部分体である。
表し方:
- $L$ は $K$ 上の拡大体である。
- $L/K$ は体の拡大である。
拡大体の次数 (degree)
定義:拡大体 $L/K$ の次数とは、$L$ を $F$ 上のベクトル空間として見るときのその次元である。 これを記号 $[L:K]$ で表す。
有限体 (finite field) / 無限体 (infinite field)
定義:
- $L/K$ は有限拡大体である $\iff$ 次数 $[L:K]$ が有限の値である
- $L/K$ は無限拡大体である $\iff$ 次数 $[L:K]$ が有限の値でない
代数的 (algebraic) / 超越的 (transcedent)
定義:$K/L$ を拡大体とする。$\alpha \in K/L$ とする。
-
$\alpha$ が $L$ 上代数的であるとは、$L$ 上のゼロでないある多項式 $f(X)$ が存在してその根であることをいう:
\[\exists f(X) \in L[X]\!\setminus\!\{0\}\:(f(\alpha) = 0).\] - $K/L$ が代数的拡大体であるとは、$K$ のすべての要素が $L$ 上代数的であることをいう。
- $\alpha$ が $L$ 上超越的であるとは、$\alpha$ が $L$ 上代数的ではないことをいう。
- $K/L$ が超越的拡大体であるとは、$K/L$ が代数的拡大体でないことをいう。
生成された拡大体 (generated field extension)
定義:$K/L$ を拡大体とし、$S \subset K$ とする。
$S$ により生成された拡大体 $L[S]$ は $S$ を含むような $K$ の拡大体のうち最小のものである。 つまり $L[S]$ は $K$ の $S$ と $L$ を含むような部分体すべての交差である。
$S$ が $L[S]$ の生成集合であるとは、$L[S]$ が $S$ を含むような真の部分体を含まないことをいう。
単拡大 (simple field extension)
定義:$K/L$ を拡大体とする。$K$ が $L$ の単拡大であるとは、 ある $\alpha \in K$ が存在して $L[\alpha] = K$ が成り立つことをいう。 つまり、単一要素の集合による生成された拡大体であることをいう。
例
拡大体
拡大体の基本的な例を挙げる。
- $\Complex$ は $\R$ 上の有限拡大体であり、次数は $2$ である。
- $\mathbb Q (\sqrt{2}) \coloneqq {a + b\sqrt{2} \,|\, a, b \in \mathbb Q}$ は $\mathbb Q$ 上の次数 $2$ の有限拡大体である。
代数的数
代数的数の基本的な例を挙げる。
- $\sqrt{2} \in \R/\mathbb{Q}$ は $X^2 - 2 \in \mathbb{Q}[X]$ の根であるから代数的数である。
- 虚数単位 $i \in \Complex/\mathbb{Q}$ は $X^2 + 1 \in \mathbb{Q}[X]$ の根であるから代数的数である。
性質
拡大体の次数は乗法的
定理:$K, L, M$ を体とし、$K/L, L/M$ を有限拡大体とする。
このとき $K/N$ は有限拡大体であり、次数に関して次が成り立つ:
\[[K:N]=[K:M][M:N].\]検討:線形代数。
証明:拡大体の定義から、$K/M$ は $M$ 上の拡大体であると言える。 $m \coloneqq [K:M]$, $n \coloneqq[M:N]$ とおく。 $\alpha \coloneqq \langle \alpha_1, \dotsc, \alpha_m\rangle$ と $\beta \coloneqq \langle \beta_1, \dotsc, \beta_n\rangle$ とをそれぞれ $K/M,M/N$ の基底とする。
このとき $K/N$ の基底が次で与えられることを示せば十分だ:
\[\gamma \coloneqq \langle a_i b_j \,|\, i = 1, \dotsc, m,\;j = 1, \dotsc, n\rangle\]$K/M$ において任意の $c \in K$ は次のような線形結合の形に書ける:
\[\exists c_i \in M\left(c = \sum_{i = 1}^m c_i a_i\right).\]ここで $b \coloneqq \displaystyle \sum_{i = 1}^n b_i \in M$ を定義する。 $\beta$ はベクトル空間の基底であるから $b$ がゼロになることはない。 さらに $d_i \coloneqq c_i/b \in M$ とおく。 これを用いて $c$ を書き換えると:
\[\begin{aligned} c &= \sum_{i = 1}^m c_ia_i = \sum_{i = 1}^m \left(\frac{c_i}{b}\cdot b \cdot a_i\right)\\ &= \sum_{i = 1}^m\left(d_i \sum_{j = 1}^n b_j a_i \right)\\ &= \sum_{i = 1}^m \sum_{j = 1}^n b_j (a_i d_i). \end{aligned}\]これにより $\gamma$ はベクトル空間 $K/N$ を張ることがわかる。 以下 $\gamma$ が線形独立であることを示す。今ある $c_{ij} \in N$ が存在して次の等式を成り立たせるとする:
\[0 = \sum_{i = 1}^m \sum_{j = 1}^n c_{ij}a_i b_j.\]体の性質から各項は可換である。これによりすべての $c_{ij}$ がゼロであることを示す:
\[\begin{aligned} &\phantom{\implies}0 = \sum_{i = 1}^m \sum_{j = 1}^n c_{ij}a_i b_j.\\ &\implies \forall i \left(0 = \sum_{j = 1}^n c_{ij} b_j\right) && \because \alpha\\ &\implies \forall i \forall j (c_{ij} = 0) && \because \beta \end{aligned}\]したがってベクトル空間 $K$ を張る集合 $\gamma$ が基底であることが示された。 ゆえに:
\[[K:N] = \dim \gamma = mn = [K:M][M:N].\]これが示そうとしたものである。 $\blacksquare$
有限生成された代数的拡大体は有限
定理:$L/K$ を拡大体とし、$\alpha_1, \dotsc, \alpha_n \in L$ は $K$ 上代数的であるとする。
このとき $K(\alpha_1, \dotsc, \alpha_n)/K$ は有限拡大体である。
検討:
- $n$ に関する数学的帰納法による。
- 直前の定理を利用するために、拡大をバラす。
証明:$S \coloneqq \lbrace \alpha_1, \dotsc, \alpha_n \rbrace$ とおく。
$K(S)/K$ が有限拡大体であることを $n$ についての数学的帰納法により示す。
$n = 0$ のとき、$K$ を $K$ 自身の上の拡大体であるとみなすことで成り立つ。
今、$T \subset K$ は $n - 1$ 個の $K$ 上代数的な元からなる部分集合であると仮定する。 $K(T)/K$ は有限生成拡大体である。
\[K(S) = K(\alpha_1, \dotsc, \alpha_{n - 1})(\alpha_n)\]である。
帰納法の仮定により $K(\alpha_1, \dotsc, \alpha_{n - 1})/K$ は有限である。
単純代数的拡大体の性質(未)により $K(S)/K(\alpha_1, \dotsc, \alpha_{n - 1})$ は有限である。
したがって、前述定理の体の拡大が乗法的であることから $K(S)/K$ は有限である。
以上により、任意の $n$ について $K(\alpha_1, \dotsc, \alpha_n)/K$ は有限である。 $\blacksquare$