『体とガロア理論』第一章章末問題 答案ノート 1 of 6
桂利行著『代数学 III 体とガロア理論』の章末問題を見切り発車で何問か取り組んでみよう。 タイプの都合上、本書とは記号が一部異なる。
$(1)$ 整域 $R$ が体 $K$ を含み、$R$ を $K$ 上のベクトル空間として有限次元ならば $R$ は体である。
とくに有限整域は体である。
証明:$n \coloneqq \dim_KR$ とおく。このとき $R$ の相異なる任意の $n + 1$ 個の元は $K$ 上線形従属である。 したがって $0 \ne x \in R$ に対して $1, x, x^2, \dotsc, x^n$ は線形従属であるので、ある $a_1, \dotsc, a_n \in K$ に対して次が成り立つ:
\[\sum_{i = 0}^n a_ix^i = 0, \quad\exists i(a_i \ne 0).\]$a_0 = 0$ と仮定すると $-a_0 = \sum_{j = 1}^na_ix^j = x\sum_{j = 1}^n a_jx^{j - 1}$ より $\sum_{j = 1}^n a_jx^{j - 1} = 0.$ したがって $a_1a_2\dotsm a_n = 0.$ $a_i$ は先頭のいくつかは $0$ であるところで $0$ でないという性質があることがわかる。 したがって $a_0 = \dotsb = a_{j - 1} = 0,\;a_j \ne 0$ と仮定することができる。
\[\begin{aligned} -a_jx^j &= \sum_{i = 0}^{j - 1} a_ix^i + \sum_{i = j + 1}^{n} a_ix^i\\ &= \sum_{i = j + 1}^{n} a_ix^i.\\ -a_j &= x^{-j}\sum_{i = j + 1}^{n} a_ix^i\\ &= x(a_{j + 1} + \dotsb + a_nx^{n - j}).\\ \therefore 1 &= x \cdot (-a_j)\left(a_{j + 1} + \dotsb + a_nx^{n - j}\right)^{-1}. \end{aligned}\]したがって $0 \ne x \in R$ に対して逆元が存在するので、$R$ は体であることが示された。
有限整域 $D$ の元 $x \ne 0$ に対して $1, x, x^2, \dotsc x^n, \dotsc$ を考えるとこれらは有限個の集合に含まれる。 したがってある $n$ に対して $1 = x^n$ となる必要がある。 つまり $1 = xx^{n-1} = x^{n-1}x$ であり、これは $x$ が単元であることを意味する。 $x \ne 0$ は任意だから $D$ は体である。 $\blacksquare$
$(2)$ 体 $K$ が素体 $P$ を含むとする。$K$ の自己同型写像は $P$ 自己同型写像である。
検討:$P^{\operatorname{Aut}K} = P$ を両方向の包含関係が成り立つことを示すことで証明する。 そのときに $P$ が素体であることが効く。
証明:$\forall \alpha \in P\forall \sigma \in \operatorname{Aut}K(\sigma(\alpha) = \alpha)$ を示す。
$\operatorname{Aut}K$ で不変な $P$ の元全体を不変体の記号を流用して $P^{\operatorname{Aut}(K)}$ とする:
\[P^{\operatorname{Aut}K} \coloneqq \{ \alpha \in P\,|\,\forall \sigma \in \operatorname{Aut}(K)(\sigma(\alpha) = \alpha)\} \subset P.\]これは $K$ の部分体である(四則演算で閉じていることを示せばいい)。
$P$ は素体であるので $K$ の最小の部分体である。 したがって他の部分体よりも真に小さい:$P \subset P^{\operatorname{Aut}K}.$
以上のことから $P = P^{\operatorname{Aut}K}$ であり、したがって $\forall \sigma \in \operatorname{Aut}K \forall \alpha \in P(\sigma(\alpha) = \alpha)$ が示された。 $\blacksquare$
$(3)$ 体の乗法群の有限部分群は巡回群である。
検討:群論の基本的な知識を用いる。
証明:体 $K$ の乗法群を $K^\times$ とする。 $G$ を $K^\times$ の有限部分群とする。 $a \in G$ を最大位数を持つ元とし、$m \coloneqq \operatorname{ord}(a)$ とおく。 以下、$a$ が $G$ の生成元であることを示す。
$x \in G$ を任意にとると、$\operatorname{ord}(x) \mid m$ なので $x^m = 1.$ $x \in K$ からこの方程式の根の個数は高々 $m$ 個である。 したがって $\lvert G \rvert \le m.$
群の元の位数は群のそれを割り切ることから $m = \operatorname{ord}(a) \le \lvert G \rvert.$
以上により $m = \lvert G \rvert.$ したがって $\langle a \rangle = G$ が示された。
したがって体の乗法群の有限部分群は巡回群であることが示された。 $\blacksquare$
$(4)$ $\mathbb Q[X]/(X^2 - 2)$ の構造を調べろ(体であるか)。
検討:これは剰余環の形から準同型定理の応用が透けて見えるので、一目で解けると思う。
解:写像 $\varphi \colon \mathbb Q[X] \longrightarrow \R$ を $\varphi(f) = f\left(\sqrt{2}\right)$ で定めるとこれは準同型写像であり $\ker\varphi = (X^2 - 2).$ 準同型定理により
\[\mathbb Q[X]/(X^2 - 2) \cong \operatorname{im}{\varphi} = \mathbb Q\left[\sqrt{2}\right].\]本文の議論から $\mathbb Q\left[\sqrt{2}\right] = \mathbb Q\left(\sqrt{2}\right).$ したがって与えられた剰余環は $\mathbb Q\left(\sqrt{2}\right)$ と同型な体である。 $\blacksquare$
$(5)$ $f(X) \in \R[X],\; \deg f(X) = 2$ とする。$\R[X]/(f(X))$ の構造を調べろ。
解: $f(X)$ の根の持ち方で分類できる。
- $f(X)$ が互いに共役な複素数を根にもつときは、そのうちの一方を $\alpha \in \mathbb C$ とおくと今まで見たきたことから $\R[X]/(f(X)) \cong \mathbb Q(\alpha).$ であり体である。
-
$f(X)$ が重根を持つときは、その根を $\alpha \in \R$ とおくと $\R[X]/(f(X)) \cong \mathbb Q[X]/(X - \alpha)^2$ である。
イデアル $((X - \alpha)^2)$ は素イデアルではないのでこれは体ではない。
-
$f(X)$ が相異なる実根 $\alpha, \beta \in \R$ を持つとき、中国剰余定理により
\[\R[X]/(f(X)) \cong \R[X]/(X - \alpha) \times \R[X]/(X - \beta).\]これは体ではない?
$(6)$ $f(X) \in \mathbb C[X]$ を $n$ 次多項式とする。 $\mathbb C[X]/(f(X))$ はいつ体になるか。
解:相異なる根を $\alpha_1, \dotsc, \alpha_m$ とし、それぞれの多重度を $n_1, \dotsc, n_m\;(n = n_1 + \dotsb + n_m)$ とすると
\[f(X) = (X - \alpha_1)^{n_1} \dotsm (X - \alpha_m)^{n_m}.\]中国剰余定理から
\[\mathbb C[X]/(f(X)) \cong \prod_{i = 1}^m \mathbb C[X]/((X - \alpha_i)^{n_i}).\]右辺が単項であるときかつそのときに限り体になる。つまり $n = 1$ が体である条件である。 したがって $f(X) = X - \alpha\;(\alpha \in \mathbb C)$ が条件である。 $\blacksquare$
$(7)$ $\Z\left[\sqrt{-1}\right]/\left(1 + \sqrt{-1}\right)$ の構造を調べろ。それは体であるか。
検討:与えられた剰余環への $\Z$ からの全射準同型を思いつくかどうかが急所だ。 残りはいつもの第一同型定理で適用で終わる。
解:$w \coloneqq 1 + \sqrt{-1}$ とおく。 写像 $\pi\colon\Z \longrightarrow \Z\left[\sqrt{-1}\right]/(w)$ を $\pi(m) = m + (w)$ とする。これは全射であるから $\operatorname{im}{\pi} = \Z\left[\sqrt{-1}\right]/(w).$
この写像の核は次により $\Z$ のイデアル $(2) = 2\Z$ である。
\[\begin{aligned} &\phantom{\iff}m \in \ker\pi\\ &\iff w \mid m\\ &\iff \frac{m}{w} = \frac{m\overline{w}}{w\overline{w}} = \frac{m\left(1 - \sqrt{-1}\right)}{2} \in \Z\left[\sqrt{-1}\right]\\ &\iff (2 \mid m) \land (2 \mid -m)\\ &\iff 2 \mid m. \end{aligned}\]準同型定理により次の同型が成り立つ:
\[\Z\left[\sqrt{-1}\right]/(w) = \operatorname{im}{\pi} \cong \Z/\ker\pi = \Z/2\Z = \mathbb F_2.\]したがって $\Z\left[\sqrt{-1}\right]/(w)$ は $\mathbb F_2$ と同型な体である。 $\blacksquare$