『体とガロア理論』第二章章末問題 答案ノート 5 of 7
桂利行著『代数学 III 体とガロア理論』第二章章末問題の答案。
- $p$ を素数とする。
- $\mathfrak S_n$ を $n$ 次対称群とする。
$(18)$ $\mathbb F_{2^3}$ の元で $\mathbb F_2$ には入らない元 $\alpha$ の $\mathbb F_2$ 上の最小多項式を求めろ。
検討:有限体の性質をおさらいしておく。 $p$ を素数、$q = p^n\;(n \in \N)$ とする。
- $\mathbb F_q$ は $\mathbb F_p$ の拡大体である。
- $\mathbb F_q$ の形の体はただ一つしかない。
- $\mathbb F_q$ は $X^q - X$ の分解体である。
- $\mathbb F_q^\times \cong Z_{q - 1}.$
- $\mathbb F_q = \mathbb F_p(\alpha).$ ここで $\alpha$ は
$\mathbb F_q^\times$ の生成元とする。
- $\mathbb F_q/\mathbb F_p$ は単拡大である。
- $\operatorname{Gal}(\mathbb F_q/\mathbb F_p) \cong Z_n.$ この巡回群の生成元は次数 $q$ の Frobenius 写像である。
本問で主に用いるのは分解体の事実である。
解: $\mathbb F_8$ は $X^8 - X \in \mathbb F_2[X]$ の分解体である。 $\alpha$ の最小多項式は $3$ 次式であるので、この多項式の $3$ 次因子を調べる。
\[\begin{aligned} X^8 - X &= X(X^7 - 1)\\ &= X(X - 1)(X^6 + X^5 + X^4 + X^3 + X^2 + X + 1).\\ \end{aligned}\]右辺を $X(X - 1)f(X)$ とおく。 $f(X)$ の既約元分解を求めるために可能性のある $3$ 次式を列挙する:
\[\begin{aligned} &X^3,\\ &X^3 + 1, X^3 + X, X^3 + X + 1,\\ &X^3 + X^2, X^3 + X^2 + 1, X^3 + X^2 + X, X^3 + X^2 + X + 1. \end{aligned}\]これらに対して $X = 0, 1$ をそれぞれ代入して、値がどちらに対してもゼロにならないものを探す。 次の二つである:
\[X^3 + X + 1,\quad X^3 + X^2 + 1.\]したがって $\alpha$ の最小多項式は上のいずれかである。 $\blacksquare$
参考:Irreducible factors of $x^8 - x$…
$(19)$ 有限体 $\mathbb F_p$ 上の多項式 $X^2 + 1$ の既約性を判定しろ。
検討:整数論的な問題なので具体的な $p$ でカンをつかんでみる。 面倒なので Python にやらせる:
>>> from sympy import primerange
>>> for p in primerange(2, 50):
mods = [(X**2 + 1) % p for X in range(1, p)]
if 0 in mods:
print('{: >2} {}'.format(p, mods))
2 [0]
5 [2, 0, 0, 2]
13 [2, 5, 10, 4, 0, 11, 11, 0, 4, 10, 5, 2]
17 [2, 5, 10, 0, 9, 3, 16, 14, 14, 16, 3, 9, 0, 10, 5, 2]
29 [2, 5, 10, 17, 26, 8, 21, 7, 24, 14, 6, 0, 25, 23, 23, 25, 0, 6, 14, 24, 7, 21, 8, 26, 17, 10, 5, 2]
37 [2, 5, 10, 17, 26, 0, 13, 28, 8, 27, 11, 34, 22, 12, 4, 35, 31, 29, 29, 31, 35, 4, 12, 22, 34, 11, 27, 8, 28, 13, 0, 26, 17, 10, 5, 2]
41 [2, 5, 10, 17, 26, 37, 9, 24, 0, 19, 40, 22, 6, 33, 21, 11, 3, 38, 34, 32, 32, 34, 38, 3, 11, 21, 33, 6, 22, 40, 19, 0, 24, 9, 37, 26, 17, 10, 5, 2]
$p$ が $4n + 1$ 型の素数であるときは $X^2 + 1 = 0$ は $\mathbb F_p$ 上で根を持つようだ。 $p = 2$ はいつでも例外になりがちで、今回もそのようだ。
証明:$p = 2$ のときは $X^2 + 1 = (X + 1)^2$ で可約。
平方剰余の相互法則・第一補充法則により $4n + 1$ 型の素数 $p$ は
\[X^2 + 1 = X^2 + 1^2 \in (p)\]と表すことができ、これは逆も成り立つ。 したがって $p = 2,$ または $p \equiv 1 \pmod 4$ のとき、かつそのときに限り $X^2 + 1 \in \mathbb F_p[X]$ は可約である。 $\blacksquare$
参考: 平方剰余の相互法則 - Wikipedia
$(20)$ 既約多項式 $f(X) \coloneqq X^n + a_{n-1}X^{n-1} + \dotsb + a_0 \in \Z[X]$ に対して、各係数を $p$ で割った余りに差し替えた $\mathbb F_p$ 上の多項式を $\bar f(X)$ とする。
$\bar f(X)$ は重複因子を持たないとし、$f(X)$ の $\mathbb Q$ 上の最小分解体を $L,$ $\bar f(X)$ の $\mathbb F_p$ 上の最小分解体を $K$ とする。
このとき $\operatorname{Gal}(K/\mathbb F_p)$ は $\operatorname{Gal}(L/\mathbb Q)$ の部分群とみなせる。
検討:$G \coloneqq \operatorname{Gal}(L/\mathbb Q)$ について言えること:
-
$f$ も重複因子を持たないから分離多項式のはず。$f$ の根を $\alpha_1, \dotsc, \alpha_n \in L$ とおく:
\[\begin{aligned} f(X) &= (X - \alpha_1)\dotsm(X - \alpha_n),\\ L &= \mathbb Q(\alpha_1, \dotsc, \alpha_n). \end{aligned}\] -
また、本文にあるように $G$ は $\mathfrak S_n$ の部分群である (この問題全体を通して、Galois 群は置換群であるという見方をする)。
$H \coloneqq \operatorname{Gal}(K/\mathbb F_p)$ について言えること:
- 重複因子がないという $\bar f$ の作り方から $\deg \bar f = \deg f = n.$
ここからの検討はパクリ。次のような多項式 $F$ を考える。
\[F(X, T_1, \dotsc, T_n) \coloneqq \prod_{\sigma \in \mathfrak S_n}\left(X - \sum_{i = 1}^n \alpha_{\sigma(i)}T_i\right).\]ここで各 $T_i\;(i = 1, \dotsc, n)$ は不定元とする。 この多項式はあり得るすべての置換を含んでおり、したがって任意の置換に対して不変である。 特に、$G$ を $\mathfrak{S}_{n}$ の部分群とみなせば、それに対しても不変である。
仮に $\mathbb Q$ 上で $F = F_1\dotsm F_k$ と 既約因子分解されるならば $F_i$ のそれぞれが $G$ の剰余類に対応する。それはなぜか。
$X - \displaystyle \sum_{i = 1}^n\alpha_iT_i$ が $F_1$ を割り切るとすると
- $G$ が $F_1$ を固定することから、どの $\sigma \in G$ に対しても $X - \displaystyle \sum_{i = 1}^n\alpha_{\sigma(i)}T_i$ が $F_1$ を割り切る。
- $\displaystyle \prod_{\sigma \in G}\left(X - \sum_{i = 1}^n \alpha_{\sigma(i)}T_i\right)$ が $\Z$ 多項式である。
Galois 理論から、$F_1$ が既約多項式であるので $F_1$ は次で与えられる:
\[F_1(X, T_1, \dotsc, T_n) = \prod_{\sigma \in G}\left(X - \sum_{i = 1}^n \alpha_{\sigma(i)}T_i\right).\]同じ議論により $F_1$ 以外の既約因子 $F_i$ も $G$ 剰余類と対応する(この状況で「対応」と言えるか?)。 ということは、ただ一つの既約因子 $F_1$ の分解体での既約元分解を見れば $G$ がわかるということだ。
$f$ の仮定から、各 $F_i$ を $\Z$ 多項式であるように表すことができる。 $\overline{F_i} \coloneqq F_i \bmod p$ とすると、$\overline{F_i}$ は $\mathbb F_p$ 上の分解体 $K$ で可約な多項式である。
$X - \displaystyle \sum_{i = 1}^n\alpha_iT_i$ が $\overline{F_1}$ の既約因子の一つであるので、 $F_1$ の因子の部分集合に対応する因子を持つ。
したがって $\operatorname{Gal}(L/\mathbb Q)$ がこの既約因子から得られることが示され、 $\operatorname{Gal}(K/\mathbb F_p)$ からの中への単射準同型が存在することがわかる。
証明:$f(X)$ のすべての根を $\alpha_1, \dotsc, \alpha_n \in L$ とおく。 $T_1, \dotsc, T_n$ を不定元として次のように多項式 $F$ を定義する:
\[F(X, T_1, \dotsc, T_n) \coloneqq \prod_{\sigma \in G}\left(X - \sum_{i = 1}^n\alpha_{\sigma(i)}T_i\right).\]ここで多項式 $F_1(X, T_1, \dotsc, T_n)$ を
\[X - \sum_{i = 1}^n\alpha_iT_i\]で割り切ることができる $\Z$ 上の $F$ の既約因子とする。 $\operatorname{Gal}(L/\mathbb Q)$ が $F_1$ の一次因子に対応する要素から構成されていることを証明できる(TODO: 検討に書いたのをここに持ってくる)。
多項式 $F_1$ を $\mathbb F_p$ 上に写したものを $\overline{F_1}$ とおく。 $\mathbb F_p$ 上での $\overline{F_1}$ の既約因子分解を次のようにおく:
\[\overline{F_1} = \overline{F_{11}} \dotsm \overline{F_{1l}}.\]$\overline{f}$ の根すべて $\beta_1, \dotsc, \beta_n \in K$ の置換で $\operatorname{Gal}(K/\mathbb F_p)$ に含まれるものは $\overline{F_{1i}}$ を同じ $\overline{F_{1i}}$ に写す。
したがって、$\overline{F}$ が重複因子を含まないことから $\beta_1, \dotsc, \beta_n$ の同じ置換は多項式 $G(X, T_1, \dotsc, T_n)$ を $F(X, T_1, \dotsc, T_n)$ の別の既約因子に写すことができない。
したがって $\operatorname{Gal}(K/\mathbb F_p)$ は $\operatorname{Gal}(L/\mathbb Q)$ の部分群とみなせることが示された。 $\blacksquare$
参考:
- Victor V. Prasolov, Polynomials (Springer Science & Business Media, 2009)
- Reduction modulo p in Galois Theory - Tom Lovering’s Blog