『岩波基礎講座 基礎数学 集合と位相』学習ノート Part 1
彌永昌吉・彌永健一著『岩波基礎講座 基礎数学 9 集合と位相 I』より。
本書で使われている記号と私がよく使う記号が衝突しているが、うまくごまかしてメモを取る。
- 集合論を記述するのに、その基礎となる論理的命題についての簡単な説明にとどめる。 形式論理学的記号は用いない。
- §1.1 対象、族、命題、論理学
- 排中律を仮定する。$P \lor \lnot P$ はつねに成り立つとする。
- この「または」は数学では珍しい(というか、直接的にはここにしか出てこない)論理的排他和の意味に取る。
- 命題とは、文章の一種であり、数学的対象について記号などを用いて記述されたものだ。
- 定理とは、命題の一種であり、論理的操作によりそれが成り立つことが示されたものだ。
- 証明とは、論理的操作の一種であり、ある定理が成り立つことを示すものだ。
- 公理とは、仮定の一種であり、証明のための出発点となるものだ。
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(1.1) 「ならば」を否定と「または」で言い換える
\[\forall P \forall Q (P \implies Q) \iff (\lnot P \lor Q).\]- 証明
- 十分条件:$P$ が成り立つことから、
- $\lnot P$ が成り立たない。排中律による。
- $Q$ が成り立つ。仮定に書いてある。
以上により $\lnot P \lor Q$ は成り立つ。
- 必要条件:$(\lnot P \lor Q) \land P$ のとき、明らかに $Q$ が成り立つことが必要。 すなわち $P \implies Q$ が成り立つ。
- 十分条件:$P$ が成り立つことから、
- 証明
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(1.2) これをみるといつも不思議に思う:
\[\lnot P \lor P \implies Q\]- (1.1) を用いて真理表を書くとわかる。
- $P \implies Q$ を考える。$\lnot P$ が真ならば $Q$ の如何を問わず $P \implies Q$ が成立する。
- 命題に関する各種ルール(二重否定は肯定、べき等律、交換律、結合律)
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(1.3) 対偶
\[(P \implies Q) \iff (\lnot Q \implies \lnot P)\] - 命題に関する性質(推移律、de Morgan の法則)
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帰謬法(背理法と同義だろう)
\[(P \implies Q \land \lnot Q) \implies \lnot P.\]- 証明:(1.3) を利用して、さらに排中律を適用する。
- $P$ を仮定すると「$Q$ であると同時に $Q$ ではない」という矛盾に陥る。 すなわち $P$ を仮定するべきではなかったのであり、$P$ は偽だということだ。
- 命題に関する性質(分配法則)
- 変数をとる命題を $P(x)$ などのように表す。
- この $x$ を変数という。
- $\forall x P(x)$ や $\exists x P(x)$ のような $x$ を束縛変数という。
- プログラミング用語のそれはここから拝借したのだろう。
- 記号 $\forall$ と $\exists$ を限定記号という。
- そうでない変数を自由変数という。
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(1.4) 限定記号のついた命題の否定
\[\lnot(\forall x P(x)) \iff \exists x \lnot P(x).\] - 大昔に習った(英語の)否定文の作り方は論理の問題だった。
- 排中律を仮定する。$P \lor \lnot P$ はつねに成り立つとする。
- §1.2 外延性公理、集合、§1.3 非順序対、合併、無限公理
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集合には 10 個からなる公理がある。今まで全然承知していなかった。 $(S1)$ から $(S10)$ までを記すが、最後の方の公理はもっと後になって出てくるようだ。
- $(S1)$ 外延性公理
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もし二つの集合が同じ要素(複数形)を含むならば、その二つの集合は等しい。
\[\tag*{$(S1)$} \forall a \forall b (a = b \iff \forall x (x \in a \iff x \in b)).\]
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- $(S2)$ 空集合の存在公理
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要素を何も含まない集合、空集合と呼ばれる集合が(ただ一つ)存在する。
\[\tag*{$(S2)$} \exists a \forall x (\lnot (x \in a)).\] - 一意性は $(S1)$ による。
- この述語部分はふだんは $x \notin a$ と記される。
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- $(S3)$ 非順序対の存在公理
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もし $a$ と $b$ が集合であるならば、それらを要素とする集合 $c$ が存在する:
\[\tag*{$(S3)$} \forall a \forall b \exists c \forall x (x \in c \iff x = a \lor x = b).\] - 非順序対とは、プログラミング用語でいうところの unordered pair そのものだ。
- これを $c = \lbrace a, b\rbrace$ と記す。
- $b = a$ のときは $c = \lbrace a\rbrace$ と記す。
- $\varnothing \ne \lbrace\varnothing\rbrace$ とする。一般の集合についても同様。
- テキストによってはもっと緩い定義になっていることがある。 それは、これら二つしか含まないとは言わない形で述べられている。 その場合でも、他の公理からここで言う順序対の一意的存在性は示せる。
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- $(S4)$ 合併集合の公理
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$a$ を集合とすると、$x \in c \in a$ を満たすような $x \in c$ が存在するときには必ず $x \in b$ となる集合 $b$ が存在する:
\[\tag*{$(S4)$} \forall a \exists b \forall x (x \in b \iff \exists c (c \in a \land x \in c)).\] - この $b$ を $\displaystyle \bigcup_{c \in a}c$ とか $\displaystyle \bigcup a$ とかで表す。
- この公理により $a \cup b$ の概念が定まった。
- 他の公理から、和集合は一意的に定まる。
- 先述の unordered pair の概念が unordered tuple の概念に拡張されている。 プログラミングの考え方が論理の理解に役立つのは面白い(本当は逆だろうが)。
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$(S5)$ 無限公理
無限公理に関してはバリエーションが多く、テキストによって言い回しが異なりがちだ。 この本では後で言う $\omega$ の存在を主張しているようだ:
\[\tag*{$(S5)$} \exists a (\varnothing \in a \land \forall x (x \in a \implies x^+ \in a)).\]- ただし $x^+ = x \cup \lbrace x\rbrace$ とする。後継ぎと呼ぶ。
- 後継ぎは集合 $x$ に対して得られる新しい集合と考えられる。
- この公理をみたす集合を無限系譜とよぶ(これは一意的に定まるか考えてみる)。
- $(S1)$ により真。
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