彌永昌吉・彌永健一著『岩波基礎講座 基礎数学 9 集合と位相 I』より。


  • §1.4 分出公理、共通部分、べき集合
    • $(S6)$ 分出公理

      集合とその要素に対する述語(性質)をそれぞれ $a, P(\cdot)$ とする。 このとき「$P(x)$ が真である $a$ の要素 $x$ の全体 $b$」は集合である:

      \[\tag*{$(S6)$} \forall a \exists b \forall x (x \in b \iff x \in a \land P(x)).\]
      • つまり $\lbrace x \in a\,\mid\, P(x)\rbrace$ は集合であるといっている。
        • しかも $a$ の部分集合である。
      • この公理のキモは $P(\cdot)$ がどんな言葉で表されているかにある。 そして、その仕様にバリエーションが多い……。
      • Russel の逆理を回避するための公理だそうだが、どういうことかわかるか。

        \[\{x \,|\, x \notin x\}\]
    • 共通部分べき等律交換律結合律等々の定義および性質。
    • 分配法則
    • 集合論的差 $a-b$
      • $a \setminus b$ のこと。
    • 補集合
      • $a^{c}$ の記号を採用する。
    • $(S7)$ べき集合の公理

      集合 $a$ には、$x \subset a$ ならば $x \in b$ を満たす集合 $b$ が存在する:

      \[\tag*{$(S7)$} \forall a \exists b \forall x (x \in b \iff x \subset a).\]
      • 部分集合全体からなる集合が存在することをいっている。
      • テキストによっては $\impliedby$ しか言わないものもあるが、他の公理 $(S1), (S6)$ から $\implies$ も成り立つ。
      • べき集合は本書では $\mathscr{P}(a)$ のような記号を採用しているが、このノートでは $2^a$ を採用する。
  • §1.5 自然数
    • 当分の間、$(S5)$ で取り扱った無限系譜に関して「$x$ は無限系譜である」という言明を $M(x)$ で表すことにする。
    • 無限樹とは、空でない集合 $a$ であって、$\forall x (x \in a \implies M(x))$ が成り立つものとする。
      • 例:$M(x)$ なる $x$ について $\lbrace x \rbrace.$
    • 以下、自然数全体の集合を構成する。

      1. $M(a)$ なる $a$ に対して $\tilde{a} = \lbrace x \in 2^a\,\mid\,M(x)\rbrace$ とおく。
      2. このとき $\tilde a$ は無限樹である。
      3. $\omega_a = \bigcap \tilde{a}$ とおくと、$M(\omega_a)$ が真であり、$\omega_a \in \tilde \omega$ が成り立つ。

      実は、任意の $M(b)$ なる $b$ に対して $\omega_a = \omega_{a\cap b} = \omega_b$ が成り立つ。 もう添字は要らないので、この集合を単に $\omega$ と書く。これが自然数全体の集合である。

      • コメント:パッと見た感じでは何のことだかわからない。
    • Peano の公理:後述の性質 (P1)-(P4) をそう呼ぶ。
      • ある集合 $a$ が Peano の公理を満たせば、それは算術的性質をもつという。
      • 上記 $\omega$ は算術的性質をもつ。
        • コメント:(P4) を示すのが難しい。
      • $\omega$ について (P3) が成り立つことから、数学的帰納法の定理が得られる:

        $n \in \omega$ に関する命題 $P(n)$ について、次が成り立てば $\forall n \in \omega P(n)$ である:

        \[\begin{aligned} \text{(i)} & \quad P(0),\\ \text{(ii)} & \quad \forall n (n \in \omega \land P(n) \implies P(n^+)). \end{aligned}\]
      • Peano の公理をここに記す:
        • (P1) 後継ぎの存在: $x \in a \implies \exists x’ \in a.$
        • (P2) 最小限の存在: $\exists \nu \in a (\forall x \in a x’ \ne \nu).$
        • (P3) 数学的帰納法の原理: $(b \subset a, \nu \in b, \forall x(x \in b \implies x’ \in b)) \implies b = a.$
        • (P4) 一致: $x \in a, y \in b, x’ = y’ \implies x = y.$

        コメント: (P1) について、$a = \omega$ のときは $x’$ を $x^+$ と書く。 直感的にはプラス 1 だから。(P2) の $\nu$ はゼロを意味する。(P3) の一番内側の括弧の言明は、 $b$ は $M(b)$ であるといっている。

      • 補題:$x, y \in \omega$ について $x \in y \iff x \ne y \land x \subset y.$
        • コメント:慣れないうちは、$1 \in 2$ は $\lbrace \varnothing, \lbrace \varnothing \rbrace \rbrace \in \lbrace \varnothing, \lbrace \varnothing, \lbrace \varnothing \rbrace \rbrace \rbrace$ であるとか、 いろいろ手で書いて試してみるといい。
  • §2.1 自然数の大小
    • ここで記号 $\le, \ge, <, >$ を導入する。意味は例えば $\le$ ならば、$m, n \in \omega$ について $m \le n \iff m \subset n$ のこととする。
    • $\min\omega = 0.$ 一方 $\max\omega$ は存在しない。$\because \forall n \in \omega \exists n^+ \in \omega.$
    • コメント:以下、写像を定義するために芋づる式に必要な概念を定義する。
    • 順序対 (ordered pair)
      • コメント:面白いことに非順序対で定義できる:

        \[(x, y) \coloneqq \{\{x\}, \{x, y\}\}.\]

        こうすることで $x \ne y \iff (x, y) \ne (y, x)$ が成り立つようにできる。

    • 直積:略。
    • 対応(関係):集合 $a, b$ に関する順序対 $(a \times b, f)$ のことである。 ただし、ここで $f$ とは $a \times b$ の部分集合である。
      • このとき $f$ をこの対応のグラフと呼ぶ。
      • $a, b$ を明示する必要のないときは、単に $f$ と書いて、ある対応として扱う。
    • :元に関するものと、集合に関するものがある。
    • 定義域:集合であり、対応 $f\colon a \longrightarrow b$ に対して確定する集合 $\lbrace x \in a\,\mid\,f(x) \ne \varnothing\rbrace$ である。
      • 記号 $\operatorname{Dom}f$ で表すことがある。
    • 写像:対応 $f\colon a \longrightarrow b$ であって、$\operatorname{Dom}{f} = a$ かつ $\forall x \in a, f(x) \in b$ が $b$ の元の singleton であるものをいう。
      • コメント:複数の元が対応しているものはダメだと言っている。
    • その他、雑多な定義と記号:
      • 対角線集合 $\varDelta_a \coloneqq \lbrace (x, y) \in a \times a\,\mid\, x = y\rbrace.$
      • 恒等写像 $1_a$
      • 標準的射影 $\operatorname{proj}_a$
      • おなじみの全射、単射、全単射、逆対応、制限・拡張、合成などの所概念(省略)。
      • 対等の概念だけ注意したい。一対一対応がつく集合同士の関係をそう呼ぶ。記号は $\approx$ を使う。
    • 有限集合とは、ある集合 $a$ であり、ある自然数 $n \in \omega$ と対等なものをいう: $a \approx n.$
      • この $n$ を集合 $a$ の個数、位数、基数、濃度などといい、絶対値の記号で表す。
      • 空集合の濃度はゼロとする。
    • 無限集合も定義できる(集合であって有限集合でないものとする)。
    • 記号 $\operatorname{Map}(a, b)$ でグラフ $f\colon a \longrightarrow b$ 全体の集合を表す。
    • 次のような対等が存在する:

      \[a \times b \approx \{f \in \operatorname{Map}(\{0, 1\}, a \cup b)\,\mid\,f(0) \in a \land f(1) \in b\}.\]
      • コメント:何を言っているのかわからない。
    • 添数集合添数添数付けられた集合:略。
    • 添数集合の直積:略。
      • コメント:あとで選出公理を議論するときの主役だ。