彌永昌吉・彌永健一著『岩波基礎講座 基礎数学 9 集合と位相 I』より。

自然数の話題が続くようだ。


  • 特性関数:関数であって、引数が $a$ の元ならば 1 を、そうでなければ 0 をとるものをいう。 教科書の表現とは異なるが、次の式で覚えることにする:

    \[\chi_a(a) = \begin{cases} 0, & x \notin a,\\ 1, & x \in a. \end{cases}\]
    • 写像 $\alpha \in 2^a \longmapsto \chi_\alpha \in \operatorname{Map}(a, \lbrace 0, 1\rbrace)$ は全単射。
  • 変換とは、$\operatorname{Map}(a, a)$ の元のことをいう。
    • コメント:定義域と値域が同じ写像を言い換えた。
  • §2.3 自然数の和、積
    • (Th 2.5) 帰納定理
      • コメント:ある写像の一意的存在定理だ。
      • 仮定:
        • $A \ne \varnothing$
        • $a \in A$
        • $f\colon A \longrightarrow A$ を変換とする。
      • 結論:次を満たす写像 $F\colon\omega \longrightarrow A$ が存在する:

        \[\begin{aligned} \text{(i)} & \quad F(0) = a,\\ \text{(ii)} & \quad \forall n \in \omega F(n^+) = f(F(n)). \end{aligned}\]
      • 証明:概要だけ言う。
        1. 結論の条件を満たす対応 $F$ が存在することをまず示す。
        2. その $F$ が実は写像であることを示す。

        まず 1. だが、次の集合 $S$ を考える:

        \[S = \{x \in \omega \times A\,\mid\, (x \ni (0, a) \land x \ni (n, \alpha)) \implies x \ni (n^+, f(\alpha))\}.\]

        $\omega \times A \in S \ne \varnothing$ より集合族 $F \coloneqq \bigcap S$ が確定する。 $F \in 2^{\omega \times A}$ ゆえに $F$ はグラフ $((\omega, A), F)$ である。 このことから、 $F \ni (0, a) \land F \ni (n, \alpha) \implies F \ni (n^+, f(\alpha)).$

        次に 2. だが、次に注目する: $x_0 \in 2^{\omega \times A}$ で、

        \[x_0 \ni (n, \alpha) \iff (n, \alpha) = (0, \alpha) \lor (n, \alpha) \in (\omega\!\setminus\!\{0\}) \times A\]

        を満たすものは $x_0 \subset S$ となる。 これで $F \subset x_0$ がいえて、さらに $F(0) = a$ となる。残りは:

        \[n \in \omega, F(n) = \alpha \implies F(n^+) = f(\alpha)\]

        を示すことだ。これを言えれば Th 1.8 より $F$ は写像であることが示せる。

        証明は背理法による(TODO: 消化していないので後回し)。

    • この (Th 2.5) より和、積、べきが写像として確定する。常識的な演算規則が成り立つことが証明できるようになる。 いったん省略。
      • 和:$f\colon n \longmapsto n^+$ を用いて、写像 $\alpha_a$ を次のようにとる:

        \[\alpha_a(x) = \begin{cases} a, & x = 0,\\ \alpha_a(n)^+, & x = n^+. \end{cases}\]

        そして $\alpha_a(n)$ を $a + n$ と表す。

        • コメント:例えば $\alpha_a(1) = \alpha_a(0)^+ = a^+$ すなわち $a + 1.$
      • 積:和を用いて次のように写像 $\mu_a\colon\omega \longrightarrow \omega$ を定義する:

        \[\mu_a(x) = \begin{cases} 0, & x = 0,\\ \alpha_a(\mu_a(n)), & x = n^+. \end{cases}\]

        記法として $\mu_a(n)$ を $an$ だとか $a \cdot n$ などと表す。

      • べき:積を用いる:

        \[\pi_a(x) = \begin{cases} 1, & x = 0,\\ \mu_a(\pi_a(n)),& x = n^+. \end{cases}\]
    • (Th 2.6) $a, b \in \omega$ について $a \ge b \iff \exists c (c \in \omega, a = b + c).$
      • コメント:小学生でも知っている事実ではある。
    • 約数、倍数、素数
      • 省略。
    • 加法、乗法
      • 例えば $(a, b) \in \omega^2$ に和を対応させる写像が定まることが示されたが、このときこの写像を $\omega$ の加法と言って、$+$ の記号で表す:$a + b.$
  • §2.4 代数系、半群、群
    • 代数系 $(A, O)$ とは、平たくいえば集合と演算の組をパッケージにしてとらえたものだ。
      • この集合 $A$ を代数系の台集合と呼ぶ。空集合ではないものとする。
      • 算法(族) $O$ は $\operatorname{Map}(A \times A, A)$ の部分集合である。
    • 代数系の算法が一種しかない ($O = \lbrace \alpha \rbrace$) とき、これを $(A, \alpha)$ と略記するものとし、$\alpha$ 系と呼ぶ。
    • 交換法則、可換、可換系、結合法則、結合的、半群などの諸概念を一気に定義する。
    • 積の順序に関する議論(略)
    • 準同型写像、同型写像、同型の諸概念の定義。
      • コメント:二つの群にではなく、同類である二つの代数系に関する概念らしい。 同類というのは $(A, O)$ に対する $(A, O’)$ のような関係だ。これを $O \approx O’$ と表す。
    • ~について閉じている、包含写像、部分代数系の定義(略)。
    • 単位元、単位的、正則(元)、逆元の諸概念の定義(略)。
    • 群、対称群、部分群、置換群、変換半群、$n$ 次対称群 $\mathfrak{S}_n$ の諸概念の定義。
      • コメント:群は単位的半群として定義。
    • 作用、~からの作用の定義(略)。
      • コメント:作用は写像に対する概念であり、左作用・右作用は半群に対する概念。
    • $A$-空間:順序対 $(A, B)$ であって、$A$ が $e$ を単位元とする群であり、 $B$ に左から作用して、つねに次が成り立つものいう:

      \[\forall x (x \in B \implies e(x) = x).\]
    • コメント:この章でやったことは、数学的帰納法の原理をベースにして、自然数全体の集合、自然数同士の大小関係、算術を定義する作業だ。 たまに $1 + 1 = 2$ がわからないで悩む子供がいるという話を聞くが、それは当然だった。