『岩波基礎講座 基礎数学 集合と位相』学習ノート Part 5
彌永昌吉・彌永健一著『岩波基礎講座 基礎数学 9 集合と位相 I』より。実数論。
- §4.1 実数
- テーマ:実数を定義する。
- 説明のためにいくつか集合を定義する。
- $S = \lbrace f\,\mid\, f \in \mathbb Q^\omega\rbrace$: 有理数列全部の集合
- $(S, +, \cdot)$ は可換環となる。有理数列版の零元と単位元を含む。
- $\mathbb Q$ を $S$ の部分環とみなせる。$a \in \mathbb Q$ と $(a, a, \dotsc, a, \dotsc) \in S$ を同一視すればよい。
- $S$ は整域ではない。零元が何であるかと、$S$ における乗算の定義を少し考えれば解る。
- $B = \lbrace f \in S\,\mid\, \exists a \in \mathbb Q (a \ge 0 \land \forall n \in \omega(\lvert f(n)\rvert \le a))\rbrace \subset S$: 有界な有理数列全部の集合。
- 数列 $f \in B$ の絶対上界とは、集合 $\lbrace a (\in \mathbb Q) \,\mid\, \lvert f(n)\rvert \le a\rbrace$ の元である。
- $B \subset S$ は部分環である。
- コメント:加法と乗法について閉じている。
-
(Th 4.1) 任意の有理数に対して、それを押さえる 1 の逆数と整数の存在
\[\forall a \in \mathbb Q(a > 0 \implies \exists n \in \N \exists m \in \N (\\ n \ne 0 \land m \ne 0 \land 0 < \frac{1}{n} \le a \le m)).\]証明:仮定より $a = \dfrac{m}{n}\quad (m \ge 1, n \ge 1)$ とおける。 簡単な式変形で結論の不等式が得られる。
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(Th 4.2) (Th 4.1) のべき乗版
\[\forall k \in \N \forall a \in \mathbb Q \left( k > 1 \implies \left(\exists m \in \N \forall n \in \N\left( n \ge m \implies \left(\frac{1}{k^n} \le a \le k^n\right)\right)\right)\right).\]コメント:直観的には正しい。まず $k^n > n$ を証明する。それから (Th 4.1) を用いる。
ここで少し話が飛ぶ。$\displaystyle f(n) \coloneqq \sum_{i = 0}^n\dfrac{1}{k^n} \in S$ を考える。 実は $f \in B$ であり、さらに実は後にいう Cauchy 列である。
- 有理 Cauchy 列とは(略)である。
- $C \coloneqq \lbrace f \in S\,\mid\, f\text{ is Cauchy}\rbrace$ とおく。
- $C \subset B$ i.e. Cauchy 列は有界である。
- 実は部分環となっている。
- コメント:$g \in S$ がある $f \in B$ によって押さえられるとき、$g \in C.$
- 集合 $N \subset S$ を「0 に収束する有理数列全部の集合」と定義する。
- (Q 4.2) だが、$N \subset C$ はイデアルである。
- 実は $N \subset C$ は極大イデアルである(証明するのに準備がいる)。そうなると剰余環 $C/N$ は体であるということになる。 これを $\R = C/N$ と表して実数体と呼ぼうということだ。
- $\mathbb Q \subset C/N$ が部分体とみなせることにも注意。
-
極大イデアルであることを示す手順を記す:
- $f \in C/N$ を一つとる。このとき $0 < \exists a \in \mathbb Q \exists m \in \N \forall n \ge m \lvert f(n)\rvert \ge a.$
-
$g \in S$ を次のように定義すると $g \in C:$
\[g(n) = \begin{cases} 0, & n < m,\\ \dfrac{1}{f(n)}, & n \ge m. \end{cases}\]解析入門の証明問題であるかのように示す。
- $h = fg$ とおく。$h - 1 \in N.$
- $A$ が $C$ のイデアルであり、$N$ を真に含むならば $A \ni 1,$ すなわち $A = C.$
以上 1.-4. より、$N$ は $C$ の極大イデアルである。
- 極限とは、$f \in C$ に対して $f$ を代表元とする $\R$ の元であるとする。
- コメント:Cauchy 列で実数を定義したので、例えば $(\lim f)(\lim g) = \lim(fg)$ などの性質を証明するのが容易い。
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(Th 4.3) 実数を押さえる有理数の存在性
\[\forall \alpha \in \R (\alpha > 0 \implies \exists a \in \mathbb{Q} \exists b \in \mathbb{Q} ( 0 < a \le \alpha \le b )).\]証明:Cauchy 列を基にして淡々と示す。
- 以上、実数体が構成でき、その基本的な性質が明らかになった。
- §4.2 有理数と実数
- テーマ:$\R$ が $\mathbb{Q}$ を真に含むことを見ていく。
- コメント:補集合の元を無理数と呼んでいる。
- コメント:$\sqrt{2} \notin \mathbb{Q}$ と $\sqrt{2} \in \R$ を両方とも示すようだ。
- (Th 4.5) 上限の存在
- 結論:$\R$ の空でない部分集合 $S$ が上に有界であるとき、上限 $\sup S$ が存在する(意訳)。
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証明:$f \in S \cap C$ をとる。その極限が $S$ の上界であることを示す。 その値は $S$ の任意の上界よりも大きくない必要があることを示す:
- $\alpha \in S$ を何かとり、$\beta \in \R$ を $S$ の上界とする。 このとき $\exists a \in \mathbb Q \exists b \in \mathbb Q (a \le \alpha \land \beta \le b).$
-
次の有理数列 $f$ を考える。帰納定理によれば、このような数列は一意的に定まる。
\[f(n) = \begin{cases} a, & n = 0,\\ f(n - 1) - \dfrac{b - a}{2^{n-1}}, & f(n - 1) \text{ is an upper bound of S,}\\ f(n - 1) + \dfrac{b - a}{2^{n-1}}, & f(n - 1) \text{ is not an upper bound of S,}\\ \end{cases}\] - $f$ が Cauchy であることを示す(解析入門の要領で)。
- $s \coloneqq \lim f(n)$ は $S$ の上界であることを示す。背理法による。
- $s$ の決め方から、これは上界の最小限である。
- 実数値連続関数を定義する(略:解析入門参照)。
- 連続関数同士の和や積もまた連続である。
- コメント:だから多項式の形の関数は連続である。
- (Th 4.6) 中間値の定理(略:解析入門参照)
- コメント:どの教科書も同じ証明になると思う。
- テーマ:$\R$ が $\mathbb{Q}$ を真に含むことを見ていく。
- §4.3 収束列と Cauchy 列
- テーマ:さきほど $\mathbb{Q}$ から $\R$ を構成した。同様の手口を $\R$ に適用すると、何か新しい集合が得られるか?
- 答えは否。実 Cauchy 列全部の集合をゼロ数列全部の集合からなる剰余環は $\R$ 自身になる。
- (Th 4.7) 実数列 $f$ が収束することと $f$ が実 Cauchy であることは同値である。
- 証明:解析入門で習ったとおり、$\impliedby$ の証明が本質的系だ。
- 以下、$S$, $C$, $B$, $N$ の「実数版」をチルダをつけて表すことにする。
- $f \in \tilde{C}$, $n \in \omega$ に対して $f(\omega\setminus n)$ が上下に有界である。
- $\sup{f(\omega\setminus n)}, \inf{f(\omega\setminus n)}$ を考える。両者が一致することを示したい。
- 一方 $f - g \in \tilde N$ を示す。これにより $f - \alpha = (f - g) + (g - \alpha) \in \tilde N.$ ゆえに $\lim f = \alpha.$
- 証明:解析入門で習ったとおり、$\impliedby$ の証明が本質的系だ。
- 関数が C 型であるとは、関数による Cauchy 列の像がまた Cauchy であるものをいうことにする。
- コメント:$C^0$ 級関数は C 型である。
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ここでその反対の状況を考える。C 型関数は連続であるか? 言葉を替えると関数 $F\colon\R \longrightarrow \R$ は一点 $a \in R$ で不連続であるというだけで C 型たり得ないか?
例として $F$ を原点で不連続な関数とする。$\forall \varepsilon > 0$ に対して、 次の集合 $S_n$ はいずれも空集合でない:
\[S_n = \{ x \in \R \,|\, \lvert x\rvert < \frac{1}{2^n} \land \lvert F(x) - F(0)\rvert > \varepsilon \}\]実数列 $f$ を $\exists s_n \in S_n (f(n) = s_n)$ のように定義できるか? この例では不可能なのだ:
$\lvert s_n \rvert < \dfrac{1}{2^n}$ より $f$ は収束し、$F(0) = \lim(F \circ f)$ ではある。 一方、$S_n$ の定義から $\forall n \in \N \lvert F\circ f(n) - F(0)\rvert > \varepsilon.$
一般的な状況では $s_n$ がとれるかどうかが明らかではない。 そこで次の節に続く。