高崎金久著『常微分方程式』(日本評論社)ノートその七。第 4 章を順次読み進める。 ハミルトン系を学習したら、再び第 7 章の後半に戻る予定だ。

第 4 章 求積可能な力学の方程式

§4.1 保存力を受ける物体の運動方程式

  • (復習)運動方程式とは、次の形の二階線形 ODE をいう:

    \[m \frac{\mathrm{d}^2\bm x}{\mathrm{d}t^2} = \bm f.\]
    • スカラー $m$ を物体の質量という。
    • ベクトル $f$ をという。
    • 独立変数 $t$ は時間を表現している。
  • (復習)保存力とは、力 $\bm f(\bm x)$ であって、次の等式が成り立つような関数 $U(\bm x)$ が存在するものをいう:

    \[\bm f(\bm x) = -\nabla U(\bm x)\]
    • この関数 $U(\bm x)$ を potential と呼ぶ。
    • 積分可能条件が成立することと、potential が存在することは同値である。
  • 仕事量とは、力ベクトルと変異ベクトルとの内積の線積分として表される量である。 曲線 $C$ に沿う仕事量は次で与えられる:

    \[\int_C\!\bm f(\bm x) \cdot \mathrm d\bm x.\]
    • $\bm f$ が保存力の場合は、その potential を $U(\bm x)$ とし、 曲線 $C$ の始点と終点をそれぞれ $\bm a, \bm b$ とすると次で得られる(経路によらない):

      \[\int_C\!\bm f(\bm x) \cdot \mathrm d\bm x = U(\bm a) - U(\bm b).\]
    • 物理的には potential とは energy である。

  • 最初の運動方程式に戻る。この ODE には第一積分が存在する:

    \[H \coloneqq \sum_{i = 1}^n \frac{m}{2}\!\left(\!\frac{\mathrm{d}x_i}{\mathrm{d}t}\!\right)^2 + U(\bm x).\]

    したがって定数 $E$ が存在して $H = E$ が成り立つ(物理的に言えば全 energy に相当)。

    • 運動の許容範囲とは、$H(\bm x) \le E$ で与えられるベクトル $\bm x$ の条件である。
      • $H(\bm x) = E$ なる $\bm x$ においては、運動する物体の速度がゼロになる。
  • (E 4.1) 一次元的等加速度直線運動

    $U(x) = -ax\quad(a \ne 0)$ の下での運動方程式 $m \dfrac{\mathrm{d}^2x}{\mathrm{d}t^2} = a$ を考える。

    • 許容範囲は次のようになる:

      \[\begin{cases} x &\ge -\dfrac{E}{a}, \quad a > 0,\\ x &\le -\dfrac{E}{a}, \quad a < 0. \end{cases}\]
    • $H = E$ を解く。正規形に直して変数分離型に変形し、積分する:

      \[\begin{aligned} \frac{m}{2}\!\left(\!\frac{\mathrm{d}x}{\mathrm{d}t}\!\right)^2 - ax &= E.\\ \frac{\mathrm{d}x}{\mathrm{d}t} &= \pm\frac{\sqrt{2E + 2ax}}{\sqrt{m}}.\\ \pm \int\!\frac{\sqrt{m}}{\sqrt{2E + 2ax}}\,\mathrm dx &= t + C.\\ \pm \frac{1}{a}\sqrt{2m(E + ax)} &= t + C.\\ \therefore x &= \frac{a}{2m}(t + C)^2 -\frac{E}{a}. \end{aligned}\]
      • コメント:加速度の符号によって凹凸が決まる放物線だ。頂点(極値)は $x(-C) = -\dfrac{E}{a}$ であり、 先に得た許容範囲と合致する。

§4.2 例:正弦振動の運動方程式

ここで取り扱うのは Hooke の法則に基づく単純なバネの運動だ。

\[\begin{aligned} U(x) &= \dfrac{k}{2}x^2,\quad (k > 0),\\ m \dfrac{\mathrm{d}^2x}{\mathrm{d}t^2} &= -kx. \end{aligned}\]

第一積分 $H$ は次のようになる:

\[\begin{aligned} H &= \frac{m}{2}\left(\!\frac{\mathrm{d}x}{\mathrm{d}t}\!\right)^2 + U(x)\\ &= \frac{m}{2}\left(\!\frac{\mathrm{d}x}{\mathrm{d}t}\!\right)^2 + \dfrac{k}{2}x^2. \end{aligned}\]

$E$ を定数として ODE $H = E$ を解く(やはり正規形を経て変数分離型として解く):

\[\begin{aligned} \frac{\mathrm{d}x}{\mathrm{d}t} &= \pm\frac{\sqrt{2E - kx^2}}{\sqrt{m}}.\\ \pm\int\!\frac{\sqrt{m}}{\sqrt{2E - kx^2}}\,\mathrm dx &= t + C.\\ \pm\sqrt{\frac{m}{k}}\arcsin\sqrt{\frac{k}{2E}}x &= t + C.\\ \therefore x &= \pm\sqrt{\frac{2E}{k}}\sin\left(\sqrt{\frac{k}{m}}t + C\right). \end{aligned}\]
  • $\displaystyle A \coloneqq \sqrt{\frac{2E}{k}}$ とおく。この値は振動の振幅 (amplification) と呼ばれる。
  • $\displaystyle \omega \coloneqq \sqrt{\frac{k}{m}}$ とおく。この量は振動の角振動数と呼ばれる。

  • 複号$\pm$ は正規形の行を見ると $\dfrac{\mathrm{d}x}{\mathrm{d}t}$ の符号と合うことがわかる。 したがって、積分定数を次のように分けて解釈するのがいい:

    \[x = \begin{cases} A \sin(\omega t + C_+), \quad x > 0,\\ A \sin(\omega t + C_-), \quad x < 0. \end{cases}\]
    • ここで $C_- = C_+ + \pi$ とすれば単一の式で書ける: $x = A\sin(\omega t + C).$
  • 許容範囲 $H \le E$ を検討する:

    \[\begin{aligned} H \le E \iff \frac{k}{2}x^2 \le E \iff -A \le x \le A. \end{aligned}\]

    まさにバネについた物体の変位のとり得る値だ。

  • ところで、運動方程式を二階線形 ODE として扱うと、解の一般形は次のようになるだろう:

    \[x = A\cos C \sin \omega t + A \sin C \cos \omega t.\]

    これは三角関数の加法定理によれば、先ほどの単一の式と同じものだ。


次回、§4.3 から。