超限帰納法の証明ノート。Wikipedia の証明を持ってくる。

超限帰納法

元ネタ

主張

$(A, \le)$ を整列集合とし、$P(x)$ を $A$ 上で定義された命題関数とする。 もし次の条件が成立するならば、任意の $x \in A$ について $P(x)$ は真である。

条件: $a$ を $A$ の任意の元とする。 $x < a$ を満たす $A$ の全ての元 $x$ について $P(x)$ が真ならば、$P(a)$ も真である。

\[\tag*{$\bigstar$} \forall a(\forall x(x < a \implies P(x))) \implies P(a)\]

ただし、$\lt$ は

\[a < b \iff (a \le b \land a \ne b)\]

と読み替えるものとする。

証明

$\bigstar$ の $\forall a(\dots)$ 部分の括弧内の文を $Q(a)$ とおく:

\[Q(a) \coloneqq \forall x(x < a \implies P(x)).\]

主張はこう書き換えられる:

\[\forall a Q(a) \implies P(a).\]

(i) 整列集合の最小元について成り立つことを証明する

$A$ は整列集合であるから、その全順序について最小元 $a_0$ がある。 これについて $Q(a_0)$ の真偽を考える。示したいことは:

\[\tag*{$\bigstar\bigstar$} Q(a_0) \implies P(a_0).\]

最小元の性質により $x < a_0$ を満たす $A$ の元は存在しない。 それゆえ直ちに命題 $Q(a_0)$ は真である。従って、$\bigstar\bigstar$ が真であるには $P(a_0)$ も真である必要がある。

コメント: $Q(a_0)$ を真であるとする vaculous truth の考え方に注意。

(ii) 最小元でない元について背理法で証明する

条件 $Q(\cdot)$ を満たしても $P(\cdot)$ が偽となる元 $y \in A$ が存在すると仮定する:

\[\exists y(Q(y) \implies \lnot P(y)).\]

そのような元全ての集合を $A_f$ とする:

\[A_f \coloneqq \lbrace y \in A \,\mid\, Q(y) \implies \lnot P(y)\rbrace.\]

$A_f \subset A$ も整列集合の性質から最小元を持つ。これを $a$ とする。当然 $P(a)$ は $a \in A_f$ だから偽である。

条件 $Q(\cdot)$ を満たしている限り $A$ の最小元 $a_0$ について $P(a_0)$ は真であるから $a_0 \notin A_f$ であり $a \ne a_0.$ 従って、

\[A_a \coloneqq \{x \,\mid\, x < a\}\]

と置けば、$A_a$ は空ではない (少なくとも $a_0 < a$ だから $a_0 \in A_a$ だ)。

$a$ は $P(\cdot)$ が偽となる $A$ の最小元であるから、 $x \in A_a$ であれば、$P(x)$ は真である。 従って、定理の条件 $\bigstar$ により $P(a)$ は真とならねばならないが、これは前言と矛盾する。

ゆえに $A_f = \varnothing$ であり、超限帰納法の主張は正しい。