群と環の中国剰余定理の証明を検討するためのノート。

中国剰余定理 1: 剰余群の直積の場合

定理:$m, n$ を互いに素な正の整数とする。このとき次が成り立つ:

\[\tag*{$\spadesuit1$} \def\S#1{ \Z/{#1}\Z } \S{mn} \cong \S{m} \times \S{n}.\]

ここで各剰余群は加法群とする。

検討

  • 群の準同型定理を用いて証明する。核と像の性質を利用する。
  • 実は逆も成り立つ。

証明

準同型写像 $\def\S#1{ \Z/{#1}\Z } f\colon \Z \longrightarrow \S{m} \times \S{n}$ を次で定める:

\[f(x) = (x + m\Z, x + n\Z).\]

この核が $mn\Z$ であるので(ここに $m, n$ が互いに素という条件を用いた)、準同型定理により $\Z/mn\Z \cong \operatorname{im}f.$ 以下、元の個数を確認することにより $\operatorname{im}f = m\Z \times n\Z$ を示す。

  • 準同型定理の同型関係より $\lvert \operatorname{im}f \rvert = mn.$
  • 準同型の像としての性質より $\operatorname{im}f \subset \Z/m\Z \times \Z/n\Z.$
  • $\lvert \Z/m\Z \times \Z/n\Z \rvert = mn.$

以上より $\operatorname{im}f = m\Z \times n\Z.$ これと準同型定理による同型関係により $\spadesuit1$ は成り立つ。 $\blacksquare$

中国剰余定理 2: 剰余群の直積複数の場合

定理:$r \ge 2$ とし、$m_1, m_2, \dotsc, m_r$ を互いに素な正の整数とする。 積を $m \coloneqq m_1 m_2 \dotsm m_r$ とおく。このとき次の関係が成り立つ:

\[\tag*{$\spadesuit2$} \def\S#1{ \Z/{#1}\Z } \S{m} \cong \S{m_1} \times \S{m_2} \times \dotsb \times \S{m_r}.\]

ここで各剰余群は加法群とする。

検討:二個の直積で成り立つことと、互いに素な条件と数学的帰納法を組み合わせて証明する。

証明:数学的帰納法により証明する。

$r = 2$ のときは前節の定理である。

一般の場合については、素数 $m_1$ と別の相異なる素数同士の積 $m_2 \dotsm m_r$ とが互いに素であるので、

\[\def\S#1{ \Z/{#1}\Z } \S{m} \cong \S{m_1} \times \S{(m_2\dotsm m_r)}.\]

数学的帰納法を右辺第二項に適用して:

\[\def\S#1{ \Z/{#1}\Z } \S{(m_2\dotsm m_r)} \cong \S{m_2} \times \dotsb \times \S{m_r}.\]

群の直積の同型は結合律が成り立つので、これらから $\spadesuit2$ が成り立つ。 $\blacksquare$

中国剰余定理 3: イデアルの直積の場合

定理:$A$ を 1 を持つ可換環とし、$I, J$ は $A$ のイデアルであって $I + J = A$ を満たす。写像 $\varphi\colon A \longrightarrow A/I \times A/J$ を

\[\varphi(x) = (x + I, x + J)\]

で定める。このとき写像 $\varphi$ は全射な環の準同型写像であり、次の同型を与える:

\[\tag*{$\spadesuit3$} A \cong A/I \times A/J\]

検討: 教科書にあるように $I + J = A \implies I \cap J = IJ.$

証明のプロット:まず写像が環の準同型写像であることを示す。 次に準同型定理を適用して、$\spadesuit3$ の式を導く。 準同型の核と像がどうなるかというのが本定理の急所だ。

証明: まず写像 $\varphi$ が環の準同型写像であることを示す。 任意の $x, y \in A$ に対して次が成り立つ:

\[\begin{aligned} \varphi(x + y) &= (x + y + I, x + y + J)\\ &= (x + I, x + J) + (y + I, y + J)\\ &= \varphi(x) + \varphi(y).\\ \varphi(xy) &= (xyI, xyJ)\\ &= (xI, xJ)(yI, yJ)\\ &= \varphi(x)\varphi(y).\\ \varphi(1) &= (1 + I, 1 + J) = 1_{A/I \times A/J}.\\ \end{aligned}\]

したがって写像 $\varphi$ は環の準同型写像である。

写像 $\varphi$ の核は $\ker\varphi = I \cap J = IJ.$

写像 $\varphi$ の像は $\varphi$ が全射ならば $A/I \times A/J$ であると言えるので、それを示す。

$(p + I, q + J) \in A/I \times A/J$ を任意にとる。ここで $p \in A, q \in A, p + I \in A/I, q + J \in A/J$ を意味するものとする。 以下、$A$ の元 $z$ で $\varphi(z) = (p + I, q + J)$ を満たすものが存在することを示す。

$I + J = A$ と仮定したので $a + b = 1$ を満たす $a \in I, b \in J$ が存在する。 ここで $z \coloneqq bp + aq$ とおく。このとき:

\[\begin{aligned} z - p &= (bp + aq) - p\\ &= (b - 1)p + aq\\ &= -ap + aq\\ &= a(q - p) = (q - p)a \in I. \end{aligned}\]

よって $z$ の剰余類と $p$ の剰余類はイデアル $I$ に関して等しい:$z + I = p + I.$ 同様に $z + J = q + J.$ したがって、

\[\varphi(z) = (z + I, z + J) = (p + I, q + J).\]

すなわち $\varphi$ は全射であることが示された。したがって $\operatorname{im}\varphi = A/I \times A/J.$

以上を環の準同型定理に適用して:

\[A/\ker\varphi = A/(IJ) \cong \operatorname{im}f = A/I \times A/J.\]

したがって $\spadesuit3$ が成り立つ。 $\blacksquare$

中国剰余定理 4: 標準的な中国剰余定理

定理:$n \ge 2$ とする。$A$ を 1 を持つ可換環、 $I_1, I_2, \dotsc, I_n$ は $A$ のイデアルであって、 任意の相異なる $i$ と $j$ に対して $I_i + I_j = A$ が成り立つ。

このとき次の環の同型が存在する:

\[\tag*{$\spadesuit4$} A/(I_1I_2\dotsm I_n) \cong A/I_1 \times A/I_2 \times \dotsb \times A/I_n.\]

検討

  • $n = 2$ のときの証明で本質的だった関係式の一般版 $\bigcap_i I_i = I_1I_2 \dotsm I_n$ を示す。
  • 写像 $\varphi\colon A \longrightarrow A/I_1 \times A/I_2 \times \dotsb \times A/I_n$ を、 核と像を吟味すれば準同型定理が $\spadesuit4$ の形に適用できるように定義する。

証明: 気が向いたらやる。

参考資料

  • 川口周著『代数学入門』