位数が 10 以下の有限群を分類する。

以下、位数 $n$ の巡回群を $Z_n$ で表し、同型 $\Z/n\Z \cong Z_n$ を断りなく利用する。

分類するために利用する定理

有限 Abel 群の基本定理

TODO: この定理だけは別のページで取り扱う。

定理:自明でない有限 Abel 群はいくつかの素数べきの巡回群の直積と同型である。

特に、素数 $p_1, \dotsc, p_r$ と正の整数 $e_1, \dotsc, e_r$ とが存在して次の同型が成り立つ:

\[G \cong (\Z/p_1{}^{e_1}\Z) \times \dotsb \times (\Z/p_r{}^{e_r}\Z).\]

証明:別のページで取り扱う。

定理:$p$ 群は巡回群

定理:位数が素数である群は巡回群に同型である。

証明:$G$ を位数が素数 $p$ である群とする。 今、任意に非単位元 $a \in G$ をとると $a$ が生成する $G$ の部分群 $\langle a \rangle$ の位数は Lagrange の定理により $\lvert G \rvert = p$ を割り切る必要がある。 $a \ne 1_G$ より $\lvert\langle a \rangle\rvert = p.$

$p = \lvert\langle a \rangle\rvert = \lvert G \rvert$ かつ $\langle a \rangle \subset G$ から $\langle a \rangle = G.$ したがって $G$ 自身が $a$ が生成する巡回群である。 $\blacksquare$

定理:$p^2$ 群の二つの同型

定理:$G$ を位数が素数 $p$ の平方である群とする:$\lvert G \rvert = p^2.$ このとき $G$ は Abel 群であり、$G$ は $Z_{p^2}$ または $Z_p \times Z_p$ に同型である。

証明:背理法で示す。$G$ が Abel 群でないと仮定すると群の中心は群自身と等しくない。 $Z(G) \subsetneq Z.$

Lagrange の定理より $\lvert Z(G)\rvert$ は $\lvert G\rvert$ を割り切る。 $\lvert G\rvert$ が素数べきであることから $\lvert Z(G) \rvert \ne 1.$ 今 $\lvert Z(G) \rvert = p$ しか可能性がない。

一方、剰余群 $G/Z(G)$ において、$\lvert G/Z(G)\rvert = p.$ 前述の定理によりこれは巡回群である。これは $G$ が Abel 群であることと矛盾する: $G$ が Abel ならば剰余群も Abel でなければならない。

背理法により、$G$ は Abel 群である。$\Box$

次に有限 Abel 群の基本定理により、ただちに次を得る:

\[G \cong Z_{p^2} \ \lor \ G \cong Z_p \times Z_p. \quad \blacksquare\]

定理:$2p$ 群の二つの同型

定理:$p$ を 3 以上の素数とする。このとき位数 $2p$ の群は二面体群 $D_{2p}$ か巡回群 $Z_{2p}$ と同型である。

証明:$G$ を位数 $2p$ の群であるとする。 Cauchy の定理(群論)により、$G$ には位数 p の元と位数 2 の元が存在する。 前者からは $\exists x \in G(\langle x \rangle \subset G \land \lvert\langle x \rangle\rvert = p)$ が、 後者からは $\exists y \in G(y^2 = 1_G)$ がそれぞれ言える。

これら $x, y$ により $G$ の要素を全て表現すると:

\[G = \{x^0 = 1_G, x^1, x^2, \dotsc, x^{p - 1}, y, yx, yx^2, \dotsc, yx^{p - 1}\}.\]

巡回群 $P$ は正規部分群でもあるから:

\[\tag*{$\spadesuit$} \begin{aligned} &yxy^{-1} \in P\\ &\implies \exists i(i > 0 \land yxy^{-1} = x^i) && \because \text{P is normal in G}\\ &\implies yxy^{-1}x = x^ix = x^{i + 1}\\ &\implies yxyx = (yx)^2 = x^{i+1} && \because y^2 = 1_G \iff y = y^{-1}. \end{aligned}\]

つまり

  • $yx$ の偶数べきは $x^j$ の形であり、
  • $yx$ の基数べきは $yx^k$ の形

である。

$yx \in G$ の位数は $G$ のそれを割り切るので、$yx \ne 1_G$ より $yx \in \lbrace 2, p, 2p\rbrace$ である必要がある。

$\spadesuit$ において $x^{i+1} = 1_G$ であるときを調べる。

\[\begin{aligned} yxy^{-1}x &= 1_G\\ yxy^{-1} &= x^{-1}\\ yx &= x^{-1}y.\\ \end{aligned}\]

$G$ の表現を改めて表記すると:

\[G = \langle x, y \,|\, 1_G = x^p = y^2,\ yx = x^{-1}y\rangle.\]

これは二面体群 $D_{2p}$ の表現と一致している。よって $G$ は二面体群 $D_{2p}$ と同型である。

$\spadesuit$ において $x^{i+1} \ne 1G$ であるときを調べる。 すると $(yx)^2 \ne 1_G.$ 特に $\lvert yx \rvert \ne 2.$ $yx$ の基数べきは $yx^k$ の形であるから $(yx)^p \ne 1_G.$ 特に $\lvert yx \rvert \ne p.$ 消去法により $\lvert yx \rvert = 2p.$ 要素の位数に等しい位数の群は巡回群であることから、$G$ は巡回群 $Z{2p}$ に同型である。

以上より、位数が $2p$ の群 $G$ は $D_{2p}$ か $Z_{2p}$ のどちらかに同型である。 $\blacksquare$

位数が 10 以下の有限群

位数が 10 以下の有限群を分類する。巡回群 $Z_n$ やいくつかの巡回群の直積に同型だという表し方をする。

位数が 1 の群

単位元しか含まない集合の一つしかない。

\[G_1^1 \cong Z_1 \cong S_1.\]

位数が 2 の群

位数が素数である群は巡回群しかない。

\[G_2^1 \cong Z_2.\]

位数が 3 の群

位数が素数である群は巡回群しかない。

\[G_3^1 \cong Z_3.\]

位数が 4 の群

位数が素数の平方の有限群は Abel 群であり、 巡回群と同型であるか、または位数がその素数である巡回群二つの直積に同型だ。

$4 = 2^2$ より:

\[\begin{aligned} G_4^1 &\cong Z_4,\\ G_4^2 &\cong Z_2 \times Z_2 \cong K_4. \end{aligned}\]

ちなみに直積のほうは Klein の四元群 $K_4$ と同型だ。

位数が 5 の群

位数が素数である群は巡回群しかない。

\[G_5^1 \cong Z_5.\]

位数が 6 の群

位数が素数の倍であるような有限群はすでに分類が済んでいる。 二面体群に同型なほうは Abel 群でない。

\[\begin{aligned} G_6^1 &\cong D_{6} \cong S_3,\\ G_6^2 &\cong Z_{6} \cong Z_3 \times Z_2. \end{aligned}\]

ちなみに二面体群 $D_6$ と対称群 $S_3$ は同型だ。

位数が 7 の群

位数が素数である群は巡回群しかない。

\[G_7^1 \cong Z_7.\]

位数が 8 の群

位数 $8 = 2^3$ ということで、複数の同型が存在する。

Abel 群である同型から調べる。$8 = 2 \cdot 2 \cdot 2 = 4 \cdot 2.$ これに基本定理を適用する。 このタイプの同型が全部で $8, 2 \cdot 2, 4 \cdot 2$ のそれぞれに対応して存在する。

次に 非 Abel 群である同型を調べる。結論から言うと二つある。 一つはおなじみの四面体群に同型のものだ。 もう一つは四元数群 $Q_8$ というものに同型となる。

\[Q_8 \coloneqq \langle -1, i, j, k \,|\, i^2 = j^2 = k^2 = ijk = -1\rangle\]

以上により、次の 5 個の同型が存在する:

\[\begin{aligned} G_8^1 &\cong Z_8,\\ G_8^2 &\cong Z_4 \times Z_2,\\ G_8^3 &\cong D_8,\\ G_8^4 &\cong Q_8,\\ G_8^5 &\cong Z_2 \times Z_2 \times Z_2. \end{aligned}\]

位数が 9 の群

位数が素数の平方の有限群は Abel 群であり、 巡回群と同型であるか、または位数がその素数である巡回群二つの直積に同型だ。

$9 = 3^2$ より:

\[\begin{aligned} G_9^1 &\cong Z_9,\\ G_9^2 &\cong Z_3 \times Z_3. \end{aligned}\]

位数が 10 の群

位数が素数の倍であるような有限群はすでに分類が済んでいる。 二面体群に同型なほうは Abel 群でない。

\[\begin{aligned} G_{10}^1 &\cong D_{10},\\ G_{10}^2 &\cong Z_{10} \cong Z_5 \times Z_2. \end{aligned}\]

参考資料