Galois 論に入る前に体の基本的な性質を理解しようノート。部分体編。

性質

体の部分集合が部分体である条件

定理:$K$ を体とする。部分集合 $L \subset K$ が部分体であるには次の条件をすべて満たすときかつそのときに限る:

  • $L^\times \coloneqq L \setminus \lbrace 0_L \rbrace \ne \varnothing.$
  • $\forall x \in L \forall y \in L (x + (-y) \in L).$
  • $\forall x \in L \forall y \in L (xy \in L).$
  • $\forall x \in L^\times (x^{-1} \in L^\times).$

検討:体の公理に似ているので素直に検証すればいい。

証明: $\implies\colon$ 体の公理から上記条件がすべて自然に成り立つ。 $\Box$

$\impliedby\colon$ 上記条件すべてが成り立つと仮定する。 最初の三つの条件は部分集合 $L$ が $K$ の部分環であるための条件と同一である。 したがって $L$ は $K$ の部分環である。

最後の条件は任意の単元が逆元を有することを保証している。 二番目の条件と組み合わせれば、$(L^\times, \cdot)$ は群である。

以上より $(L, +, \cdot)$ は $K$ の部分環であり、かつ $L^\times$ のすべての要素が逆元をもつので $L$ は斜体を形成する。これは $L$ が体であることを示している。 $\blacksquare$

部分体の零元は体の零元

定理:体 $K$ の部分体 $L$ について $0_L = 0_K.$

証明:$(L, +)$ が加法群 $(K, +)$ に対して部分群であることを利用する。 $L$ と $K$ とで加法の単位元を共有するから、加法の単位元が等しい。つまり $0_K = 0_K.$ $\blacksquare$

部分体の単位元は体の単位元

定理:体 $K$ の部分体 $L$ について $1_L = 1_K.$

証明:前定理と同様。省略。 $\blacksquare$

体は自分自身の部分体である

定理:$K$ を体とする。$K$ は $K$ の部分体である。

証明:$K \subset K$ ゆえ部分体の条件をすべて満たすことは明らか。 $\blacksquare$

部分体の部分体は部分体

定理:$R$ を 1 を持つ可換環とする。$K_1 \subset R,\;K_2 \subset K_1$ をそれぞれ $R,\;K_1$ の部分体とする。

このとき $K_2$ は $K_2$ の部分体である。

検討:「~は~の部分体である」関係は推移律が成り立つという主張だ。

証明:集合の包含関係の推移律 $K_2 \subset K_1 \subset R$ から $K_2 \subset R.$ あとは $K_2$ の定義より $K_2$ は $R$ の部分体である。 $\blacksquare$

部分体の交差は部分体

定理:$K$ を体とし、$\mathscr K$ を $K$ の部分体を要素とする空でない集合族とする。

このとき $\bigcap \mathscr K$ は $K$ の部分体である。

証明:体はその定義から斜体でもある。斜体の交差は斜体である(証明略)ので $\bigcap \mathscr K$ は $K$ の部分斜体である。

$(\bigcap \mathscr K, +, \cdot)$ が体であることを示す。

$(K, +, \cdot)$ の乗法 $\cdot$ は $K$ のそれを $L$ に制限したものに過ぎない。 つまり乗法 $\cdot$ は $L$ 上で可換である。 したがって $(\bigcap \mathscr K, +, \cdot)$ は乗法が可換な斜体であり、すなわち体であることが示された。

以上により、$(\bigcap \mathscr K, +, \cdot)$ は $K$ の部分体であることが示された。 $\blacksquare$

最小の部分体

定理:$K$ を体とし、$S \subset K$ とする。 また $L \subset K$ を $S$ を部分集合として含むような部分体すべての交差集合とする。

このとき $L$ はそのような部分体のうち最小の部分体である。

検討

  • 最小の部分体の意味は、この真の部分体が存在しないということだ。
  • 斜体の性質を利用する。

証明:主張の「部分体」を「部分斜体」に置き換えた主張は成り立つ(証明略)。

あとは $L$ が最小部分斜体であることと、前定理より $L$ は $K$ の部分体であることから、 これが $S$ を含む最小の部分体であることが結論される。 $\blacksquare$

最大の部分体

定理:$K$ を体とし、$\mathscr K$ を $K$ の部分体を要素とする空でない集合族とする。

このとき $\bigcap \mathscr K$ はその要素集合のいずれにも含まれるような最大の部分体である。

証明:先述の定理により $\bigcap \mathscr K$ は $K$ の部分体である。 体は斜体であるので、$\bigcap \mathscr K$ はその要素集合のいずれにも含まれるような最大の部分斜体である。

ここで $\bigcap \mathscr K$ の乗法 $\cdot$ は $K$ のそれをここに制限したものに過ぎないから $\bigcap \mathscr K$ は体である。

以上により $\bigcap \mathscr K \subset K$ は $\mathscr K$ にある部分体のどれもが含む最大の部分体であることが示された。 $\blacksquare$

複素数体の部分体の標数は 0

定理:複素数体 $\Complex$ の任意の部分体の標数は 0 である。

証明:背理法で証明する。ある自然数 $n \in \N$ が存在して $\Complex$ のある部分体 $K$ が $\operatorname{Char}(K) = n$ を満たすと仮定する。

このとき標数の定義から単位元 $n$ 個の和はゼロである:$1 + \dotsb + 1 = 0.$ すなわち $n1 = 0.$ しかし $K \subset \Complex$ であるから標数の定義により

\[0 \lt \operatorname{Char}(\Complex) \le \operatorname{Char}(K) = 0.\]

これは $\operatorname{Char}(\Complex) = 0$ に矛盾する。 したがって $\operatorname{Char}(K) = 0$ が必要である。 $K$ は $\Complex$ の任意の部分体であるから、主張が成り立つことが示された。 $\blacksquare$

体の準同型写像は部分体を保存する

定理:$K_1, K_2$ を体とし、写像 $\varphi\colon F_1 \longrightarrow F_2$ を自明でない体の準同型写像とする。

このとき $K_1$ の任意の部分体 $K$ について $\varphi(K)$ は $K_2$ の部分体である。 特に $\operatorname{Im}(\varphi)$ は $K_2$ の部分体である。

検討:そもそも $\varphi$ が自明な準同型写像ならば像は $\lbrace 0_{K_2} \rbrace$ だから体ですらない。

証明:体の準同型写像は環の準同型写像の性質を満たすから $0{K_1}$ は $0{K_2}$ に写る。

一方体の準同型写像の性質から $1{K_1}$ は $1{K_2}$ に写る。

$0{K_2}, 1{K_2} \in \varphi(K)$ は成り立つ。

次に群の準同型写像の性質を部分体の加法群と乗法群に当てはめることで $(\varphi(K), +{K_2})$ と $(\varphi(K), \cdot{K_2})$ は $(K_2, +{K_2})$ と $(K_2, \cdot{K_2})$ のそれぞれ部分群である。

以上により $(\varphi(K), +{K_2}, \cdot{K_2})$ は $K_2$ の部分体であることが示された。

$K = K_1$ とすると $\operatorname{Im}(\varphi)$ は $K_2$ の部分体であることが示される。 $\blacksquare$

参考文献