体論学習ノート 2
Galois 論に入る前に体の基本的な性質を理解しようノート。
性質
体は Euclid 整域である
定理:体は Euclid 整域である。
証明:任意の $a \in K,:0_K \ne b \in K$ について
\[a = bq + r \land (r = 0_K \lor 0 \lt \nu(r) \lt \nu(b))\]を満たす $q, r \in K$ が存在することを示す。
$r = 0_K \in K$ とする。
$b \ne 0_K$ より $b \in K^\times$ であるから $b^{-1} \in K^\times \subset K$ が存在する。 $q = b^{-1}$ とおけばよい。 $\blacksquare$
体には二つしかイデアルがない
定理:体 $K$ には $K$ 自身と $(0)$ の二つしかイデアルがない。
証明: 任意の $a \in K^\times$ が生成するイデアル $I$ が $K$ に等しいことを示す。
任意の $x \in K$ と $a^{-1} \in K^\times$ との積を考える。 体が乗法に関して閉じていることと、イデアルの性質から次のことが成り立つ:
\[\begin{aligned} x a^{-1} &\in K\\ (xa^{-1})a &\in I\\ \therefore x &\in I. \end{aligned}\]$x \in K$ は任意であるから $I = (a) = K.$ したがって単元が生成するイデアルはすべて $K$ に等しいことが示された。
そして $\lbrace 0_K \rbrace = K\setminus K^\times$ が生成するイデアルは $(0)$ である。
以上を合わせて、主張が成り立つことが示された。 $\blacksquare$
イデアルが二つしかない環は体
定理:$R$ を 1 をもつ可換環とする。$R$ が $(0)$ と自分自身以外にイデアルをもたないとする。 このとき $R$ は体である。
検討:前述の定理の逆だ。
証明:$0_R \ne a \in R$ を任意にとる。単項イデアル $(a)$ は $(0)$ ではなく $R$ に等しい。
このとき $1_R \in (a) = R.$ 単項イデアルの性質により $xa = 1_R$ を満たす $x \in R$ が存在する。 すなわち $a$ は単元である:$a \in R^\times.$
$0_R \ne a \in R$ は任意であるから、$R \setminus \lbrace 0 \rbrace = R^\times.$ このことと $R$ が 1 をもつ可換環であることから、$R$ は体である。 $\blacksquare$
体の標数は 0 か素数
定理:体の標数は 0 か素数である。
証明:整域の標数は 0 か素数である。 また、上で示したように、体は (Euclid) 整域である。 したがって体の標数は 0 か素数である。 $\blacksquare$
標数 0 の体には唯一つの素部分体がある
TODO: これは少々難しい。
体の乗法群の有限部分群は巡回群
定理:体 $(K, +, \cdot)$ の乗法群 $(K^\times, \cdot)$ の任意の有限部分群を $C$ とする。
$C$ は巡回群である。
検討:乗法群が Abel 群であることに注意する。その部分群もまたそうだ。
証明: $C$ が Abel 群であるので、有限 Abel 群の基本定理(TODO: そういえばまだ証明していない)により $C$ は位数が素数べきの巡回群 $H_1, \dotsc, H_r$ の内部直積として表される。
内部直積と外部直積は同型であるから、$C$ と $H_1 \times \dotsb \times H_r$ は群の同型である。
互いに素な数のべき同士もまた互いに素であるので、$H_1, \dotsc, H_r$ の位数は互いに素である。 位数が互いに素である巡回群同士の直積群は巡回群であるので直積群 $H_1 \times \dotsb \times H_r$ は巡回群であり、それに同型な $C$ もまた巡回群である。 $\blacksquare$
体上の多項式は Euclid 整域を形成する
実数上の多項式環は体ではない
定理:$\R$ 上の多項式環 $\R[X]$ は体ではない。
検討:適当な多項式には逆元が存在しないことを示すわけだが、次数に注目するのがいい。
証明:$0 \ne X + 1 \in \R[X]$ が単元でないことを示す。 つまり次の等式を満たす $f(X)$ が存在しないことを示す:
\[(X + 1)f(X) = 1.\]両辺の次数を調べると、左辺は $\deg((X + 1)f(X)) \ge 1.$ 右辺は $\deg 1 = 0.$ よって等式に矛盾する。 したがって $\R$ 上の多項式環 $\R[X]$ は体ではないことが示された。 $\blacksquare$
体から環への環準同型は単射かゼロ
定理:$K$ と $R$ をそれぞれ体、1 をもつ可換環とする。 写像 $\varphi\colon K \longrightarrow R$ を環の準同型写像とする。
このとき $\varphi$ は単射な準同型写像であるか、$0_R$ への定数写像のどちらかである。
証明:$\varphi$ が単射でないと仮定すれば、ゼロ写像であることを示す。
このとき $a, b \in K$ が $a \ne b$ かつ $\varphi(a) = \varphi(b)$ を満たすように存在する。
まず $k \coloneqq a - b$ の像を考えると:
\[\begin{aligned} \varphi(k) &= \varphi(a) + \varphi(-b)\\ &= \varphi(a) - \varphi(b)\\ &= 0_R. \end{aligned}\]$k \ne 0$ より $k^{-1} \in K.$ これを用いて任意の $x \in K$ を $x = k(k^{-1}x)$ と表せる。これの像を考えると:
\[\begin{aligned} \varphi(x) &= \varphi(k(k^{-1}x))\\ &= \varphi(k)\varphi(k^{-1}x)\\ &= 0_R \varphi(k^{-1}x)\\ &= 0_R. \end{aligned}\]$x$ は任意であるから、$\varphi$ が単射準同型写像でなければゼロ写像であることが示された。 $\blacksquare$