ガロア論に絡んで 1 のべき乗根、原始べき乗根、円周等分多項式、円分体に関するノート。

円分体など

まずは roots of unity 各種の定義を確認。整数論と同じだ。

定義

  • $1$ の $m$ 乗根とは $\zeta^m = 1$ を満たす数 $\zeta$ をいう。
  • $1$ の原始 $m$ 乗根とは、$1$ の $m$ 乗根であって $1 \le d \lt m$ なる $d \in \Z$ について $\zeta^d \ne 1$ となるものをいう。

感覚としては「$m$ 乗して初めて $1$ になる数」と覚えていてよいだろう。

定義に従えば $m$ が何であっても $1$ 自身は原始 $m$ 乗根ではない。


整数論が苦手なので掲載されている補題を真面目にやる。

補題:代数的閉体 $\Omega$ の標数を $p$ とすると次は同値である:

  • $(1)$ $1$ の $m$ 乗根全体は位数 $m$ の巡回群をなす。
  • $(2)$ $1$ の原始 $m$ 乗根が存在する。
  • $(3)$ $(p, m) = 1.$

証明: $(1) \implies (2):$ 巡回群の定義なので成り立つ。 正確に言うと~の全体に $1$ を加えた集合が位数 $m$ の巡回群になると言いたい。 $\Box$

$(2) \implies (3):$ 互いに素でなければ原始根が存在しないことを示す。

$n \in \N$ として $m = pn$ であると仮定する。$\zeta^m = 1$ から $1 = (\zeta^n)^p$ ゆえに $\zeta^n = 1.$ $1 \lt n \lt m$ であるからこれは原始 $m$ 乗根ではない。 $\Box$

$(3) \implies (1):$ $f(X) \coloneqq X^m - 1$ とおく。

$f(X) = 0$ と $f^{\prime}(X) = mX^{m - 1} = 0$ には共通根がないから $f(X) = 0$ には重根がない(分離拡大のノートを思い出せ)。 したがって $f(X) = 0$ の相異なる $m$ 個の根が位数 $m$ の Abel 群をなす(群論)。

$m$ を割り切るような $d \in \N$ についても同様にして $G \coloneqq \lbrace a \in \Omega \,\mid\, a^d = 1\rbrace \subset \Omega$ は位数 $d$ の Abel 群である。 したがって $G \cong Z_m.$ $\blacksquare$


拡大体 $K(\zeta_m)/K$ についての基本的な性質か?

定理($K(\zeta_m)/K$ は Abel 拡大): $K$ を体とする。$\zeta_m \in \overline{K}$ とすると

  • $K(\zeta_m)/K$ は Abel 拡大であり、
  • $\operatorname{Gal}(K(\zeta_m)/K) \subset Z_m^\times.$

証明:まず、前の補題の証明で言及したことから $K(\zeta_m)/K$ は分離拡大である。

次に $X^m - 1 = 0$ の根は $\zeta_m^j$ の形の元で尽くされるから $K(\zeta_m)$ は $X^m - 1$ の分解体であり、したがって $K(\zeta_m)/K$ は正規拡大である。 したがって $K(\zeta_m)/K$ は Galois 拡大であることが示された。

最後に $G \coloneqq \operatorname{Gal}(K(\zeta_m)/K)$ が Abel 群であることを示す。 $\sigma \in G$ について次をみたす $s \in \Z$ が法を $m$ として決まる。

\[\sigma(\zeta_m) = \zeta_m^s.\]

この対応を写像 $\pi\colon G \longrightarrow Z_m^\times$ と考えると群の準同型写像であることを示す。

  • $\sigma, \tau \in G$ に対して $\sigma(\zeta_m) = \zeta_m^s,$ $\tau(\zeta_m) = \zeta_m^t$ とすると

    \[\tau\sigma(\zeta_m) = \tau(\zeta_m^s) = (\zeta_m^s)^t = (\zeta_m^t)^s = \sigma\tau(\zeta_m).\]
  • $\sigma(\zeta_m) = \zeta_m \implies \sigma = \operatorname{id}_{K(\zeta_m)}$ だから $\pi$ は単射。

したがって $G \subset Z_m^\times$ であり $G$ が Abel 群であることが示された。 $\blacksquare$


定義:$m \in \N$ に対して $1, \dotsc, m$ のうち $m$ と互いに素な数の個数を対応させる関数を $\varphi\colon\N\longrightarrow\N$ とし、これを Euler の関数という。

\[\varphi(m) \coloneqq \sum_{\substack{1 \le n \le m\\(n, m) = 1}}1.\]

便宜上 $\varphi(1) = 1$ とする。

補題: $\varphi(m) = \lvert Z_m^\times\rvert.$ $(p, m) = 1$ ならば $\varphi(m)$ は $1$ の原始 $m$ 乗根の個数に等しい。

証明:最初の等式の右辺は既約剰余類の全ての個数、$Z_m$ の単数群の元の個数を意味する。 $p$ がその元である条件はまさに $(p, m) = 1$ であるので、この等式は正しい。

$(p, m) = 1$ であるから原始 $m$ 乗根 $\zeta_m$ が存在する。先ほどと同様の推論をすると:

$\zeta_m^s$ が原始根でない $\iff$ ある整数 $1 \le d \lt m$ が存在して $(\zeta_m^s)^d = 1$ $\iff$ ある整数 $1 \le d \lt m$ が存在して $m$ は $sd$ を割り切る $\iff$ $(m, s) \ne 1.$

対偶を考えると $\zeta_m^s$ が原始根 $\iff$ $(m, s) = 1.$

$\iff$ $(m, s) = 1$ を満たす $s$ の個数とはすなわち $\varphi(m)$ である。 $\blacksquare$


定義:多項式 $\varPhi_m(X)$ が円周等分多項式であるとは、

  • 最高次の係数が $1$ で
  • 根のすべての集合が $1$ の原始 $m$ 乗根すべての集合と等しい

ものをいう。

円周等分方程式とは方程式 $\varPhi_m(X) = 0$ のことをいう。

  • 複素平面でいうと、単位円の上に $1$ の $m$ 乗根が等分点に位置して正 $m$ 角形を構成している。

$\Omega$ を代数的閉体、$P \subset \Omega$ を素体とする。

  • $\operatorname{Aut}(\Omega)$ は素体の元を固定する: $\sigma \in \operatorname{Aut}(\Omega)$ をとる。 $\sigma$ によって動かない $\Omega$ の元すべてを $P^\sigma$ と書くと、これは当然 $P$ の部分である:$P \subset P^\sigma \subset \Omega.$ しかも $P^\sigma$ は体である。

  • $\varPhi_m(X)$ は $\operatorname{Aut}(\Omega)$ の元により不変: $\zeta_m$ は $P$ 上の方程式 $X^m - 1 = 0$ の原始根であるから、 $\sigma(\zeta_m)$ も同様である:$\sigma$ は $1$ の原始 $m$ 乗根の置換を引き起こす。

    よって $\varPhi_m(X)$ は $\operatorname{Aut}(\Omega)$ の元で不変であり $\varPhi_m(X) \in P[X].$

以上の議論と $1$ の $m$ 乗根が $m$ の約数 $d$ に対して $1$ の原始 $d$ 乗根でもあることを踏まえて次を得る:

\[\begin{aligned} X^m - 1 &= \prod_{d \mid m}\varPhi_d(X),\\ m &= \sum_{d \mid m}\varphi(d). \end{aligned}\]

以降、体の標数を $0$ とする。$\varPhi_m(X) \in \mathbb Q[X].$

$\varPhi_m(X) = 0$ の任意の根が $1$ の原始 $m$ 乗根であり、そのうちの一つを $\zeta_m$ として扱う。


例(次数の低い円周等分多項式)

\[\begin{aligned} \varPhi_1(X) &= X - 1.\\ \varPhi_2(X) &= X + 1.\\ \varPhi_3(X) &= X^2 + X + 1.\\ \varPhi_4(X) &= X^2 + 1.\\ \varPhi_5(X) &= X^4 + X^3 + X^2 + X + 1.\\ \varPhi_6(X) &= X^2 - X + 1.\\ \varPhi_7(X) &= X^6 + X^5 + X^4 + X^3 + X^2 + X + 1.\\ \varPhi_8(X) &= X^4 + 1. \end{aligned}\]

$m$ が素数 $p$ のときは $\varPhi_p(X)$ は $X^p - 1$ 既約元分解から $X - 1$ を除いたものに等しい。

\[\varPhi_p(X) = X^{p-1} + X^{p - 2} + \dotsb + X + 1.\]

$m = 4$ のときは $X^4 - 1 = (X - 1)(X - i)(X + 1)(X + i).$ 根のうち $4$ 乗して初めて $1$ になるのは $\pm i$ しかない。これに対応する因子を残すと上を得る。 公式を使うと $4$ を割り切るのは $1, 2, 4$ だから

\[\begin{aligned} X^4 - 1 &= \varPhi_1(X)\varPhi_2(X)\varPhi_4(X).\\ \varPhi_4(X) &= \dfrac{X^4 - 1}{\varPhi_1(X)\varPhi_2(X)}\\ &= \frac{(X - 1)(X - i)(X + 1)(X + i)}{(X - 1)(X + 1)}\\ &= (X - i)(X + i)\\ &= X^2 + 1. \end{aligned}\]

$m = 6$ のものを計算する(分子の因数分解がだんだん面倒になる)。

\[\begin{aligned} \varPhi_6(X) &= \dfrac{X^6 - 1}{\varPhi_1(X)\varPhi_2(X)\varPhi_3(X)}\\ &= \dfrac{(X - 1)(X^2 + X + 1)(X + 1)(X^2 - X + 1)}{(X - 1)(X + 1)(X^2 + X + 1)}\\ &= X^2 - X + 1. \end{aligned}\]

SymPy に cyclotomic_poly() という関数がある。これを利用すると便利だ。


次の定理は $m$ が素数でなくても既約だと主張していることに注意:

定理(円周等分多項式は $\mathbb Q$ 上既約):$\varPhi_m(X) \in \mathbb Q[X]$ は既約である。

検討:示したいことは、$1$ の原始 $m$ 乗根のすべてが、原始 $m$ 乗根の一つ $\zeta$ の最小多項式 $f$ の根であることだ。 このとき $\varPhi_n(X)$ のすべての一次の因子が $f$ の因子となり、 したがって $\varPhi_n\mid f$ で $f = \varPhi_n$ を結論でき、最小多項式だから既約であることが示される。

証明:$\zeta \coloneqq \zeta_m$ の $\mathbb Q$ 上の最小多項式を $f(X)$ とする。 $f(X)$ が $\varPhi_m(X)$ の因子であると仮定して矛盾を導く。

$\varPhi_m(X)$ は $\Z$ 係数なので $f(X)$ もそうである。

$f(X) = 0$ の根ではない $1$ の原始 $m$ 乗根 $\zeta^r$ のうち、$r \ne 0$ が最小のものをとる。

素数 $p$ を $r$ の約数とする。$(m, r) = 1$ であることから $(p, m) = 1.$

$\zeta_1 \coloneqq \zeta^{r/p}$ は $f(X) = 0$ の根である。

$\zeta_1^p = \zeta^r$ の最小多項式を $g(X)$ とする。 $(f(X), g(X)) = 1$ だから $f(X)g(X) \mid \varPhi_m(X).$ したがって $f(X)g(X) \mid (X^m - 1).$

$g_1(X) \coloneqq g(X^p)$ とおけば

\[g_1(\zeta_1) = g(\zeta_1^p) = g(\zeta^r) = 0.\]

したがってある $h(X) \in \Z[X]$ が存在して $g_1(X) = f(X)h(X).$

これを $p$ を法として考えて次を得る:

\[g(X)^p \equiv g(X^p) \equiv g_1(X) = f(X)h(X) \pmod p.\]

(最初の $\equiv$ は何?)

この式は多項式を $\mathbb F_p[X]$ 上で考えると $\bar f(X) = 0$ と $\bar g(X) = 0$ に共通根があることを意味する。

ところが $\mathbb F_p[X]$ において

\[\bar f(X) \bar g(X) \mid (X^m - 1)\]

であり、$(p, m) = 1$ であることから $X^m - 1 = 0$ は $\overline{\mathbb F_p}$ において重根を持たない。すると $\bar f(X) = 0$ と $\bar g(X) = 0$ に共通根がなく、上記に矛盾する。

背理法により $\varPhi_m(X) = f(X)$ であり $\varPhi_m(X)$ は $\mathbb Q$ 上既約であることが示された。 $\blacksquare$

:$\operatorname{Gal}(\mathbb Q(\zeta_m)/\mathbb Q) \cong Z_m^\times.$

証明:「円周等分多項式は $\mathbb Q$ 上既約」定理から

\[\lvert \operatorname{Gal}(\mathbb Q(\zeta_m)/\mathbb Q) \rvert = [\mathbb Q(\zeta_m) : \mathbb Q] = \varphi(m).\]

一方「$K(\zeta_m)/K$ は Abel 拡大」定理からこの Galois 群は Abel 群であり

\[\lvert \operatorname{Gal}(\mathbb Q(\zeta_m)/\mathbb Q) \rvert \le \lvert Z_m^\times\rvert = \varphi(m).\]

したがって $\operatorname{Gal}(\mathbb Q(\zeta_m)/\mathbb Q) \cong Z_m^\times.$ $\blacksquare$


定義

  • 円の $m$ 分体とは、体 $\mathbb Q(\zeta_m)$ のことをいう。
  • 円分体とは、ある円の $m$ 分体の部分体のことをいう。

円分体 $K$ について $\mathbb Q/K$ は Abel 拡大である。拡大次数は $K$ が $m$ 分体の部分体ならば $\varphi(m)$ に等しい。 実はこの逆が成り立ち、$\mathbb Q$ 上の Abel 拡大はすべて円分体である (Kronecker)。

参照

  • 桂利行著『代数学 III 体とガロア理論』
  • 松坂和夫著『代数系入門』

以上