『体とガロア理論』第二章章末問題 答案ノート 3 of 7
桂利行著『代数学 III 体とガロア理論』第二章章末問題の答案。
- $\zeta_n$ は $1$ の原始 $n$ 乗根を表すものとする。
- $\omega$ は $\zeta_3$ を表すものとする。
- $\mathfrak S_n$ は $n$ 次対称群を表すものとする。
$(10)$ 任意の有限群はある有限次 Galois 拡大の Galois 群と同型である。
検討:
- 単位群はさすがにダメだと思う。
- 群論の Cayley の定理が必要だ。
証明:$G$ を有限群とし、$n \coloneqq \lvert G \rvert$ とおく。 このとき次のような有限次拡大体 $L/K$ が存在することを示す:
\[\tag*{$\spadesuit1$} \operatorname{Aut}_K(L) \cong \mathfrak S_n.\]例えば p. 52 によると $K = \mathbb Q(s_1, \dotsc, s_n),$ $L = \mathbb Q(X_1, \dotsc, X_n)$ にとれる (ここで $s_i$ は不定元 $X_1, \dotsc, X_n$ の $i$ 次基本対称式を表す)。 したがって $\spadesuit1$ を満たす有限次拡大体 $L/K$ が存在することが示された。
ところで、群論によると $\mathfrak S_n$ のある部分群 $H$ が存在して $G$ と同型である:
\[G \cong H \subset \mathfrak S_n.\]ここで不変体 $M \coloneqq L^H$ を考える。Galois の基本定理により $L/M = L/L^H$ は Galois 拡大であって
\[\operatorname{Aut}_M(L) = H \cong G.\]したがって、$G$ は任意であるから、任意の有限群はある有限次 Galois 拡大の Galois 群と同型であることが示された。 $\blacksquare$
参考:Every finite group is isomorphic to some Galois group for some finite normal extension of some field. - Mathematics Stack Exchange
$(11)$ $\mathbb Q$ 上の Galois 拡大で Galois 群が Klein の四元数群と同型になるものを構成しろ。
検討:具体的なオブジェクトはこれまでに何度も見てきている。 それらを一般化したい。
解:$f(X) = (X^2 + aX + b)(X^2 + cX + d) \in \mathbb Q[X]$ を次の条件を満たす分離多項式とする: $K_1, K_2$ をそれぞれ $f(X)$ の各因子に対する $\mathbb Q$ 上の Galois 拡大とするならば $[K_i : \mathbb Q] = 2\;(i = 1, 2).$
$f(X)$ の Galois 拡大は合成体 $K_1K_2$ に含まれる。
$K_1 = K_2$ ならば合成体もこれらに等しい。このとき $f(X)$ の Galois 拡大 $K_1K_2 = K_1 = K_2$ は次数が $2$ である。 こうならないように $a, b, c, d$ を定めておく必要があった。
$K_1 \ne K_2$ ならば $[K_1K_2 : \mathbb Q] = 4.$ $f(X)$ の Galois 拡大 $K_1K_2$ は少なくとも二つの真部分体を含む。 これらに対応して、Galois 群は位数が $4$ であるから二つの位数 $2$ の部分群を含む。
位数が $4$ の群で真部分群を二つ含む群とは、すなわち Klein の四元群に他ならない。 $\blacksquare$
参考:Is the Galois group of a given polynomial always a subgroup of the Klein-$4$ group? - Mathematics Stack Exchange
$(12)$ 体を $K$ とし $L_1/K, L_2/K$ を有限次 Abel 拡大とする。 このとき合成体 $L_1L_2/K$ は有限次 Abel 拡大である。
検討:合成体の Galois 群が Abel 群であることを示すことになる。 急所は推進定理と交換子積の応用の二点。特に後者が思いつかなかった。
証明:この教科書に載っていないと思うので $L_1L_2/K$ が Galois 拡大であることから示す。
- 合成体の補題から $L_1L_2/L_2$ は Galois 拡大、特に分離拡大である。 仮定から $L_2/K$ は Galois 拡大である。 分離拡大は推移律が成立するので(どこかに書いた)$L_1L_2/K$ は分離拡大である。
- $L_1, L_2$ のどちらも $K$ の正規拡大であることから、合成体 $L_1L_2$ は $L_1, L_2$ のすべての $K$ 共役を含む。 したがって $L_1L_2/K$ は正規拡大である。
したがって $L_1L_2/K$ は Galois 拡大であることが示された。 $\Box$
$G \coloneqq \operatorname{Gal}(L_1L_2/K)$ とおく。 $G$ が Abel 群であることを示す。
合成体の補題より
\[\operatorname{Gal}(L_1L_2/L_2) \cong \operatorname{Gal}(L_1/K)\]右辺は Abel 群であるので $\operatorname{Gal}(L_1L_2/L_2)$ も Abel 群である。
$G$ とこの部分体の Galois 群それぞれの交換子積の包含関係から:
\[\begin{aligned} G = \operatorname{Gal}(L_1L_2/K) &\subset \operatorname{Gal}(L_1L_2/L_2).\\ \therefore [G, G] &\subset [\operatorname{Gal}(L_1L_2/L_2), \operatorname{Gal}(L_1L_2/L_2)]\\ &= \operatorname{Gal}(L_1L_2/L_2). \end{aligned}\]$L_2/K$ 側でも同様にして
\[[G, G] \subset \operatorname{Gal}(L_1L_2/L_1).\]$\operatorname{Gal}(L_1L_2/L_1) \cap \operatorname{Gal}(L_1L_2/L_2) = \operatorname{id} _ {K}$ より $[G, G] = \operatorname{id} _ {K}.$ したがって $G$ は Abel 群であることが示された。
したがって $L_1L_2/K$ が有限次 Abel 拡大であることが示された。 $\blacksquare$
$(13)$ $K$ を体とし $L_1, L_2$ を $\overline{K}$ に含まれる $K$ の有限次拡大で $L_1 \cap L_2 = K$ と満たす体とする。
このとき合成体 $L_1L_2$ について
\[\tag*{$\spadesuit2$} [L_1L_2 : K] = [L_1 : K][L_2 : K]\]が成り立つか。とくに、$K$ が有限体のときはどうか。
検討:この時点で言い切れることは $[L_1L_2 : K] \le [L_1 : K][L_2 : K].$
今までの演習問題から使えそうなのを拾ってくる。 例えば $K = \mathbb Q, L_1 = \mathbb Q\left(\sqrt[5]{2}\right), L_2 = \mathbb Q\left(\sqrt[5]{2}\zeta_5\right)$ とするといいだろう。 急所はこれらが Galois 拡大でないことだ。
そして有限体の有限次拡大は Galois 拡大であることをどこかで習っていること。
解:成り立たない:
$K = \mathbb Q, L_1 = \mathbb Q\left(\sqrt[5]{2}\right), L_2 = \mathbb Q\left(\sqrt[5]{2}\zeta_5\right)$ を考える。 このとき $L_1L_2 = \mathbb Q\left(\sqrt[5]{2}, \zeta_5\right).$
$\zeta_5 \notin L_1$ だから $L_1 \ne L_2.$ ゆえに $\mathbb Q \subset L_1 \cap L_2 \subsetneq L_1.$ $[L_1 : \mathbb Q] = 5$ が素数であることと $5 = [L_1 : \mathbb Q] = [L_1 : L_1 \cap L_2][L_1 \cap L_2 : \mathbb Q]$ より $[L_1 \cap L_2 : \mathbb Q] = 1.$ したがって $L_1 \cap L_2 = \mathbb Q.$
同様にして $[L_2 : \mathbb Q] = 5.$
次に下の図式から拡大次数を計算する。
\[\begin{array}{c} L_1L_2 & = & \mathbb Q\left(\sqrt[5]{2}, \zeta_5\right)\\ \vert&&\vert\\ L_1 & = & \mathbb Q\left(\sqrt[5]{2}\right)\\ \vert&&\vert\\ L_1 \cap L_2 & = & \mathbb Q \end{array}\] \[\begin{aligned} [L_1L_2 : L_1 \cap L_2] &= [L_1L_2 : L_1][L_1 : L_1 \cap L_2]\\ &= 4 \times 5\\ &= 20. \end{aligned}\]一方、$[L_1 : L_1 \cap L_2][L_2 : L_1 \cap L_2] = 5^2 = 25.$ $\Box$
再び合成体の補題によると $L_1/K$ が Galois 拡大ならば $L_1L_2/L_2$ も Galois 拡大であり、その拡大次数 $[L_1L_2 : L_2]$ は最初の Galois 拡大の次数 $[L_1 : K]$ の約数である。 したがって、さらに $L_2/K$ が Galois 拡大ならば $\spadesuit2$ が成り立つ。
$K$ を有限体とすると、この有限次拡大 $L_1/K, L_2/K$ はすなわち Galois 拡大である。 したがって $\spadesuit2$ が成り立つことが言える。 $\blacksquare$
参考: Mathematics Stack Exchange
- Degree of composition extension field, given disjoint subfields
- Every finite extension of a finite field is Galois