『体とガロア理論』第二章章末問題 答案ノート 6 of 7
桂利行著『代数学 III 体とガロア理論』第二章章末問題の答案。
- $p$ を素数とする。
- $\mathfrak S_n$ を $n$ 次対称群とする。
$(21)$ $K$ を有限体とし、多項式 $f(X) \in K[X]$ は重複する零点を持たないとする。 $f = f_1f_2 \dotsm f_r$ を $K$ 上の既約分解とし、$n_i \coloneqq \deg f_i$ とする。
このとき方程式 $f(X) = 0$ の Galois 群は次のような型の置換が生成する巡回群であることを示せ:
$n_1$ 次の巡回置換 $\circ$ $n_2$ 次の巡回置換 $\circ \cdots \circ$ $n_r$ 次の巡回置換
証明:
\[\begin{aligned} f_i(X) = (X - \alpha_{i,1})\dotsm(X - \alpha_{i,n_i}) \end{aligned}\]と書くと零点に関する仮定から $\alpha_{i,j} \ne \alpha_{i,k}, \alpha_{i,j} \ne \alpha_{k, l}.$
$K_i = K(\alpha_{i,1}, \dotsc, \alpha_{i,n_i})$ とおくと $K$ が有限体であることから $K_i/K$ は $n_i$ 次の巡回拡大である。 $H_i \coloneqq \operatorname{Gal}(K_i/K)$ は位数 $n_i$ の元から生成される巡回群である: $H_i \cong Z_{n_i}.$
言い換えると任意の $\sigma_i \in H_i$ は $n_i$ 次の巡回置換であり $\lbrace\alpha_{i1}, \dotsc, \alpha_{i{n_i}}\rbrace$ の上に推移的に作用する。
$f(X) = 0$ の根を $K$ に添加して得られる体を $L$ とおく。 このような拡大体は巡回拡大であるので、$G \coloneqq \operatorname{Gal}(L/K)$ は巡回群である。 $L/K_r/\dots/K_2/K_1/K$ と考えてよい。 $G$ の生成元 $\sigma$ はある $\sigma_i \in H_i\;(i = 1, \dotsc, r)$ が存在して
\[\sigma = \sigma_1\!\circ\!\sigma_2\!\circ\!\dotsm\!\circ\!\sigma_r\]の形の位数 $n = n_1 + \dotsb + n_r$ の元である必要がある。 したがって主張は正しいことが示された。 $\blacksquare$
少し言葉が足らないかもしれない。
$(22)$ $\mathbb Q$ 上の方程式 $X^5 - X - 1 = 0$ の Galois 群は $\mathfrak S_5$ に同型である。
検討:
- Van der Waerden の著作によると $f(X) \coloneqq X^5 - X - 1$ は非可解である。 発見したのは Artin だとか。
- $f(X)$ は $\bmod 2$ でも $\bmod 3$ でも既約因子分解に一次式が現れない。
- $f(X) = 0$ のグラフを描くと、有理数でない実数根がちょうど一つ存在し、残りは非実数根である。
証明:$f(X)$ の Galois 群が $\mathfrak S_5$ であることを示す。
問 $(20)$ より、Galois 群の素数を法とする剰余は $\mathbb Q$ 上の Galois 群の部分群に同型である。
$f(X)$ を $\mathbb F_2$ 上で因数分解すると $(X^2 + X + 1)(X^3 + X^2 + 1)$ である。 $f(X)$ の Galois 群の $2$ を法とする剰余は位数 $6$ の巡回群である。
$f(X)$ を $\mathbb F_3$ 上で因数分解すると一次式の因子も二次式の因子も持たない。 よって $f(X)$ は $3$ を法とする剰余でも既約である。 したがって $f(X)$ の Galois 群の $3$ を法とする剰余は位数 $5$ の要素を含む。
問 $(21)$ より、位数 $6$ と位数 $5$ の元を含む $5$ 個の物の置換群が求めるものである。 そのような置換群は対称群 $\mathfrak S_5$ でなければならない。 したがって $f(X)$ の Galois 群は $\mathfrak S_5$ であることが示された。 $\blacksquare$
参考:Galois theory - Wikipedia
$(23)$ $\mathbb Q$ 上 $p$ 次の既約多項式 $f(X)$ が $p - 2$ 個の実数の零点と $2$ 個のそうでない零点を持つとする。
このとき $f(X)$ の $\mathbb Q$ 上での最小分解体を $K$ とすれば $\operatorname{Gal}(K/\mathbb Q)$ は $\mathfrak S_p$ と同型である。
検討:ある意味前問より楽かもしれない。 $G \coloneqq \operatorname{Gal}(L/\mathbb Q)$ とおく。
- $n$ 次方程式の根の Galois 群に関する一般論から $G$ は $\mathfrak S_n$ の部分群である。
- 「そうでない零点」同士は複素共役でもある。 今までさんざん見てきているように、この種の根のペアには他の根を固定し、当該複素共役同士を入れ替えるような同型写像が存在する。 $G$ では位数 $2$ の元である。 $\mathfrak S_p$ で考えると互換に相当する。
- $f(X)$ の仮定から $f(X) = 0$ の任意の根 $\alpha$ について $[\mathbb Q(\alpha) : \mathbb Q] = p.$
- $\lvert G \rvert = [L : \mathbb Q] = [L : \mathbb Q(\alpha)][\mathbb Q(\alpha) : \mathbb Q]$ から $G$ は位数 $p$ の元を含む。$\mathfrak S_p$ で考えると $p$-cycle に相当する。
- 群論により $p$-cycle と互換が生成する群とはすなわち $\mathfrak S_p$ である。
- 厳密に言うと $G \subset \mathfrak S_p$ と $G \supset \mathfrak S_p$ を両方示す必要がある。 しかし前者が本文中に既に示されているのでここ書くことはしない。
証明:$G \coloneqq \operatorname{Gal}(L/\mathbb Q)$ とおく。 $G \cong \mathfrak S_p$ を示す。
$G$ が置換群における互換と $p$-cycle に相当する元をそれぞれ含むことを示す。
互換が $G$ に同型な置換群に含まれることを示す(以下「~に同型な置換群」を省略する)。 $f(X)$ の零点のうちちょうど二個だけが非実数根であるという仮定から、 これらの根は互いに複素共役である。Galois の基本定理からある $\sigma \in G$ が存在して $\sigma$ はこれらの根を入れ替える $\mathbb Q$ 自己同型写像である。 $\sigma^2 = \operatorname{id}_G$ であるから、これは位数 $2$ の互換に相当する。 したがって $G$ は互換を含むことが示された。
ある $p$-cycle が $G$ に含まれることを示す。 $f(X)$ が $\mathbb Q$ 上 $p$ 次の既約多項式であるという仮定から $f(X) = 0$ の任意の根 $\alpha$ について $[\mathbb Q(\alpha) : \mathbb Q] = p.$
一方 $\lvert G \rvert = [L : \mathbb Q] = [L : \mathbb Q(\alpha)][\mathbb Q(\alpha) : \mathbb Q]$ から $G$ は位数 $p$ の元を含む。つまり $G$ は $p$ 個の根を置換する $\mathbb Q$ 自己同型写像 $\tau$ を含む。 $\tau^p = \operatorname{id} _ {G}$ であるから置換群で考えると $p$-cycle に相当する。 したがって $G$ はある $p$-cycle を含む。
したがって $G$ は互換、および $p$-cycle に相当する元を含むことが示された。
互換と $p$-cycle が生成する群とは $p$ 次対称群 $\mathfrak S_p$ である。 したがって $G \cong \mathfrak S_p$ が示された。 $\blacksquare$