Galois 理論による代数学の基本定理の証明についてのノート。

代数学の基本定理

補題(奇数次数の実係数多項式は可約): 多項式 $h(X) \in \R[X]$ は次数が $3$ 以上かつ奇数であるとする。 このとき $h(X)$ は既約多項式ではない。

証明:$y = h(X)$ のグラフを考えれば明らか。$\blacksquare$

このことから $\R$ の奇数次の(真の)拡大体が存在しないことが言える。 $\blacksquare$


補題(複素係数二次多項式は可約): 多項式 $h(X) \in \mathbb C[X]$ は $\deg h(X) = 2$ をみたす。 このとき $h(X)$ は既約多項式ではない。

証明:仮定された $h(X)$ が一次因子の積に分解することを示す。

$h(X) = aX^2 + bX + c,\;(a \ne 0, b, c \in \mathbb C)$ とする。

\[\alpha \coloneqq \frac{-b + \sqrt{b^2 - 4ac}}{2a} \in \mathbb C\]

とおくと $h(X) = (X - \alpha)(X - \bar\alpha).$ したがって $h(X)$ が一次因子の積に分解することが示された。 $\blacksquare$

特に $\mathbb C$ の二次拡大が存在しないことがわかる。


定理:$\mathbb C$ は代数的閉体である。

検討:$f(X) \in \mathbb C[X]$ の $\mathbb C$ 上の最小分解体が $\mathbb C$ であることを示すのが本線だ。

$\R$ 上の Galois 拡大を何か作ってそれを調べる。

Sylow の定理と上述の補題を応用する。

位数が $2$ のべき乗の群が指数 $2$ の正規部分群をもつことを利用して、 この Galois 群の部分群に対応する不変体の性質を調べる。

証明:$f(X) \in \mathbb C[X]$ の $\mathbb C$ 上の最小分解体が $\mathbb C$ であることを示す。

$g(X) \coloneqq (X^2 + 1)f(X)\overline{f(X)} \in \R[X]$ とおく。 $g(X)$ の $\R$ 上の最小分解体を $K$ とおく。この構成から $\mathbb C \subset K$ かつ $K/\R$ は Galois 拡大である。

$G \coloneqq \operatorname{Gal}(K/\R)$ の位数は $2^n k$ の形に表される。 $k$ は奇数とする。

$P$ を $G$ の Sylow $2$-群とする。 この $P$ に Galois 対応する不変体 $K^P$ の $\R$ 上の拡大次数を考えれば $[E^P : \R] = k.$

$k$ が奇数であることと、上述の補題(奇数次数の実係数多項式は可約)から $k = 1.$ したがって $G = P, \lvert G \rvert = 2^n$ が成り立つ。

$\lvert G \rvert = 2^n$ から $[G : H] = 2$ なる(正規)部分群 $H$ が存在する。 ある実係数二次既約多項式

\[f(X) \coloneqq X^2 + aX + b \in \R[X],\;a \ne 0\]

が存在して、$f(X)$ の $\R$ 上の最小分解体が不変体 $K^H$ であることを意味する。

$K^H$ を求める。$f(X)$ の既約性から $D \coloneqq a^2 - 4b \lt 0.$ $f(X) = 0$ の根を明示的に記すと:

\[-\frac{a}{2} \pm \frac{\sqrt{-1}\sqrt{-D}}{2}\]

である。よって

\[H^K = \R\left(-\frac{a}{2} + \frac{\sqrt{-1}\sqrt{-D}}{2}\right) = \R\left(\sqrt{-1}\right) = \mathbb C.\]

$n = 1$ の場合は $H$ に真の部分群が存在しないので、ここで結論が出る。

$n \gt 1$ の場合は、さらに $[H : H^{\prime}] = 2$ なる部分群 $H^{\prime}$ が存在する。 拡大 $K^{H^{\prime}}/H^K = K^{H^{\prime}}/\mathbb C$ が $2$ 次拡大であることになる。 しかし上述の補題(複素係数二次多項式は可約)により $\mathbb C$ の $2$ 次拡大は存在しないから矛盾である。 したがって $n \gt 1$ はあり得ない。

したがって $f(X) \in \mathbb C[X]$ の $\mathbb C$ 上の最小分解体は $\mathbb C$ であり、$\mathbb C$ は代数的閉体であることが示された。 $\blacksquare$

参考

  • 桂利行著『代数学 III 体とガロア理論』
  • 堀田良之著『環と体 2』
  • 雪江明彦著『環と体とガロア理論』