Sylow の定理学習ノート
やっと Sylow の定理に取り組めるところまで来た。
定義
以下 $p$ を素数とする。
$p$ 部分群とは有限群の部分群であり、位数が $p$ のべき乗で表される値のものをいう。
- 指数は非負の数であるとする。
- 指数は共通でなくて構わない。
- コメント:単位群も $p$ 部分群であるとみなす?
Sylow $p$ 部分群とは極大な $p$ 部分群である。 つまり $G$ を位数 $mp^n,$ ただし $n \gt 0 \land \gcd(m, p) = 1$ である群とするとき、$G$ の部分群で
- 位数が $p^0, p^1, \dotsc, p^{n - 1}$ のものは Sylow $p$ 部分群ではない。
- 位数が $p^n$ のものが Sylow $p$ 部分群である。
- コメント:Sylow $p$ 部分群の真部分群は Sylow $p$ 部分群ではないことになる。
Sylow の定理
Sylow の定理は複数の主張から成るが、文献によって順番や構成がまちまちで困る。 教科書に準拠すると:
- $G$ の任意の部分群に対して、それを含む Sylow $p$ 部分群が存在する。
-
Sylow $p$ 部分群の個数を $n_p$ とおく。このとき $n_p$ は $\lvert G \rvert$ を割り切り、
\[n_p \equiv 1 \pmod{p}.\] - Sylow $p$ 部分群は互いに共役である。
定理を証明するのに利用する補題集を別ページにまとめる。
Sylow $p$ 部分群の存在定理
定理:$p$ を素数とし、有限群 $G$ は位数が $kp^n$ であるとする。 ここで $p$ が $k$ の約数ではないように $k$ と $n$ をとって表したとする。 $n \gt 0$ とする。
このとき、$G$ には Sylow $p$ 部分群が少なくとも一つ存在する。
検討:
- この定理の証明は部分群を決定する問題だ。有限群しか与えられていないが、それでも何らかの部分群を定義する必要がある。 そのために群作用と軌道を利用する。つまり何らかの群作用を定義する必要がある。 いったん軌道を見つければ、その固定部分群が条件を満たす部分群の候補だ。
- まず「要素数が $p^n$ に等しい $G$ の部分集合」の集合族 $\mathscr S$ を考える。 この集合族の要素数(=部分集合の個数)$N$ を数え上げる。
- $N \equiv k \pmod p$ を示す。これは証明の片手間にやる。
- 次に $\mathscr S$ に次のようにして $G$ を作用させる: 部分集合 $S \in \mathscr S$ に対して $g \cdot S \coloneqq \lbrace x \in G \,\mid\, \exists s \in S(x = gs) \rbrace.$ つまり $gS \coloneqq g\cdot S$ は $g$ による $S$ の左剰余類である。
-
この群作用による $\mathscr S$ の軌道分解(直和分解)を考える。軌道が $r$ 個あると仮定して:
\[\begin{aligned} \mathscr S &= \bigsqcup_{i = 1}^rO(S_i).\\ \lvert \mathscr S \rvert &= \sum_{i = 1}^r \lvert O(S_i) \rvert. \end{aligned}\]このとき、$\mathscr S$ の基数は $p^n$ で割り切れるが、右辺の軌道の位数のうちどれかは $p$ で割り切れない。 そのうちの一つを $O(S)$ とおく。
- 軌道・固定部分群定理により $\lvert G \rvert = \lvert G_S \rvert \cdot \lvert O(S)\rvert$ であるが、左辺は $p^n$ で割り切れ、$\lvert O(S)\rvert$ は $p$ で割り切れない。 つまり $\lvert G_S\rvert$ が $p^n$ で割り切れる必要がある。 特に $\lvert G_S \rvert \ge p^n.$
- 一方、$s \in S$ を固定し、写像 $g \longmapsto g \cdot x_0 \in S$ を考える。 これは単射であるから $\lvert G_S \rvert \le \lvert S \rvert = p^n.$ さきほどの結果と合わせて $\lvert G_S \rvert = p^n.$
- 固定部分群 $G_S$ は $G$ の部分群である。これが主張の条件を満たす。
証明: まず集合族 $\mathscr S$ を次により定義する:
\[\tag*{$\spadesuit0$} \mathscr S \coloneqq \{S \subset G\,|\, \lvert S \rvert = p^n\}.\]この集合族に含まれる集合の個数は $\dbinom{p^n k}{p^n}$ に等しい。 この値は $p$ を法として $k$ に合同である(二項係数の剰余に関する補題参照)。
次に $\mathscr S$ に次のようにして $G$ を「作用」させる:
\[\tag*{$\spadesuit1$} \begin{aligned} L\colon G \times \mathscr S &\longrightarrow \mathscr S\\ (g, S) &\longmapsto \{x \in G \,|\, \exists s \in S(x = gs) \}. \end{aligned}\]ここで $g\cdot S = gS$ は $g$ による $S$ の左剰余類である (これが群作用になることについては素数べき位数の部分集合族補題参照)。
この群作用による $\mathscr S$ の軌道分解を考える。軌道が $r$ 個あると仮定して:
\[\begin{aligned} \mathscr S &= \bigsqcup_{i = 1}^rO(S_i).\\ \lvert \mathscr S \rvert &= \sum_{i = 1}^r \lvert O(S_i) \rvert. \end{aligned}\]このとき、$\mathscr S$ の基数は $p^n$ で割り切れるが、右辺の軌道の位数のうちどれかは $p$ で割り切れない。 そのうちの一つを $O(S)$ とおく。
軌道・固定部分群定理により $\lvert G \rvert = \lvert G_S \rvert \cdot \lvert O(S)\rvert$ であるが、左辺は $p^n$ で割り切れるが、右辺内 $\lvert O(S)\rvert$ は $p$ で割り切れない。 つまり右辺内 $\lvert G_S\rvert$ が $p^n$ で割り切れる必要がある。 このことから特に $\lvert G_S \rvert \ge p^n.$
一方、$s \in S$ を固定し、写像 $g \longmapsto g \cdot x_0 \in S$ を考える。 これは単射であるから $\lvert G_S \rvert \le \lvert S \rvert = p^n.$ すぐ先ほどの結果と合わせて $\lvert G_S \rvert = p^n.$
固定部分群 $G_S$ は $G$ の部分群である。これが主張の条件を満たすので、 $G$ には Sylow $p$ 部分群が少なくとも一つ存在することが示された。 $\blacksquare$
Sylow $p$ 部分群の個数に関する定理
定理: Sylow $p$ 部分群の個数 $n_p$ は $\lvert G \rvert$ を割り切り、
\[\tag*{$\spadesuit2$} n_p \equiv 1 \pmod{p}.\]検討:
- 存在定理の証明で使った推論と事実を利用する:
- 集合族 $\mathscr S$ およびその要素数。
- Sylow $p$ 部分群は $p$ で割り切れない長さの軌道と同じ数が存在することを軌道の長さと Sylow $p$ 部分群との関係補題の一つとして示す。
- 素数べき位数の部分群への群作用の性質によれば、軌道分解の長さの等式において、
全ての項が $k$ で割り切れ、あるいは $p$ でも割り切れる。
これも別の軌道の長さと Sylow $p$ 部分群との関係補題による。
- 前者のものは $n_r$ 個ある。
-
後者のものは未知の数 $m$ 個あると仮定するしかない。
\[\lvert \mathscr S\rvert = kn_r + mkp.\]
-
以上により次の関係式が得られる:
\[\binom{p^nk}{p^n} = kn_r + mkp.\]あとは $n_r \equiv 1 \pmod p$ を示す。 $n_r$ が 1 の場合と一般の場合とで場合を分けて推論する。 前者の場合には $G$ を具体的に決定できる(巡回群)。 後者の場合には前者の場合を利用して $m$ を消去する。
証明: 集合族 $\mathscr S$ を前定理の $\spadesuit0$ により定義する。 そこで示したように $\lvert \mathscr S \rvert = \dbinom{p^nk}{p^n}$ である。
$G$ の $\mathscr S$ への作用をやはり前定理の $\spadesuit1$ で定義する。 このとき、素数べきの集合の族上への作用の軌道の性質により、 長さが $p$ で割り切れない軌道 $O(S_i)$ が Sylow $p$ 部分群の個数 $n_r$ と同じだけ存在する。
一方、再び素数べきの集合の族上への作用の軌道の性質により、 軌道分解等式においてすべての項は $k$ で割り切れ、おそらく $p$ でも割り切れる。 軌道分解等式を
\[\tag*{$\spadesuit3$} \lvert \mathscr S \rvert = \sum_{i = 1}^{n_r}\lvert O(S_i)\rvert + \sum_{i = n_r + 1}^s\lvert O(S_i)\rvert\]とおく。前半の和が Sylow $p$ 部分群を含む軌道に対応するものとする。 ここで軌道・固定部分群定理により、各 $S_i\ (i = 1, \dotsc, n_r)$ に対して:
\[\begin{aligned} &\phantom{\therefore}\lvert G \rvert = \lvert O(S_i) \rvert \cdot \lvert G_{S_i} \rvert = p^n \lvert O(S_i) \rvert.\\ &\therefore \lvert O(S_i)\rvert = k. \end{aligned}\]よって Sylow $p$ 部分群の個数 $n_r$ が $\lvert G \rvert = kp^n$ を割り切ることが示された。
$\spadesuit3$ の後半の項は $k$ でも $p$ で割り切れるのだから
\[\lvert \mathscr S \rvert = kn_r + mkp.\]以上を整理すると:
- 項 $kr$ は Sylow $p$ 部分群を含む軌道に対応する。
- 項 $mkp$ は残りの軌道に対応していて、ここで $m$ はある整数である。
すなわち
\[\lvert \mathscr S\rvert = \binom{p^nk}{p^n} = kn_r + mkp.\]$n_r$ についての場合分けをする。
-
$n_r = 1$ のとき:
$G$ が位数が $p^nk$ である巡回群だと仮定する。すると $p^nk$ の各約数に対してちょうど一つの部分群が存在する。 特に位数 $p^n \cdot 1 = p^n$ の部分群がただ一つ存在する。 このような場合が $n_r = 1$ を満たす場合である。
-
$n_r \ne 1$ のとき:
$n_r = 1$ のときの $m$ を $m_1$ とおくと次の等式および合同式が成り立つ:
\[\begin{aligned} kn_r + mkp &= k + m_1kp\\ \iff n_r + mp &= 1 + m_1p\\ \iff n_r - 1 &= (m_1 - m)p\\ \implies n_r - 1 &\equiv 0 \pmod{p}\\ \iff n_r &\equiv 1 \pmod{p}. \end{aligned}\]
以上により $\spadesuit2$ が成り立つことが示された。 $\blacksquare$
Sylow $p$ 部分群の共役性
定理:有限群の Sylow $p$ 部分群は全て互いに共役である。
検討:
- Sylow $p$ 部分群が複数あれば、いずれもは長さは共通の $k, n$ を用いて $kp^n$ と書ける。
- Sylow $p$ 部分群の一つをとり $H$ とする。これによる $k$ 個の剰余類からなる剰余群 $G/H$ を考える。
- $G$ を $G/H$ に作用させる: $g\cdot g_iH \coloneqq gg_iH.$
-
TODO: 記号を追加:
\[\begin{aligned} G/H &= \{S_1, \dotsc, S_k\}.\\ g \cdot g_iH &= g \cdot S_i \coloneqq gS_i \in G/H. \end{aligned}\] - $H$ と各 $g_iH$ の固定部分群 $G_{g_iH}$ が共役であることを軌道・固定部分群定理から示す。
-
TODO: 記号を追加:
\[H_i \coloneqq G_{S_i} = G_{g_iH}.\]
-
- 軌道・固定部分群定理を軌道分解 $G = \bigsqcup H_i$ に適用すると $\lvert H_i \rvert = p^n.$
- 一方、$\exists g(gH = S_i) \implies gHg^{-1} \subset H_i$ を示す。 これは $\lvert gHg^{-1}\rvert = \lvert H \rvert = \lvert H_i \rvert$ から成り立つ。 これで $H \sim H_i = G_{S_i} = G_{g_iH}$ が示された。
-
- 別の Sylow $p$ 部分群 $H^{\prime} \ne H$ をとってこれを $G/H$ に作用させる。
- $p$ が $k$ を割り切らないことから、$p$ で割り切れない長さの軌道 $H^{\prime}_{g_xH}$が少なくとも一つ存在する。
- ある軌道を $\lbrace S_1, \dotsc, S_r \rbrace$ とおく。ここで $p$ は $r$ を割り切らない。
- $K \coloneqq H^{\prime}\cap G_{S_1}$ とおく。 すると $K$ は $H^{\prime}$ の作用での $S_1$ の固定部分群である:$K = H^{\prime}_{S_1}.$
- したがって
- $[H^\prime\colon K] = r$
- $\lvert H^\prime\rvert = p^n$
- $p$ は $r$ を割り切らない
から $r = 1$ および $K = H^{\prime}$ が従う。
- したがって $\lvert K \rvert = \lvert H^{\prime} \rvert = \lvert G_{S_1} \rvert = p^n.$ 結局 $H^\prime = K = G_{S_1}.$ ゆえに $H^{\prime}$ と $H$ は共役である。
証明: 有限群を $G$ とし、その位数を $kp^n, p \nmid k, n \gt 0$ とおく。 $G$ の Sylow $p$ 部分群を一つ取って $H$ とおく。すなわち次の等式が成り立つ:
\[\tag*{$\spadesuit4$} \lvert H \rvert = p^n,\ [G \colon H] = k.\]$G$ の $H$ による左剰余群 $G/H = \lbrace S_1, \dotsc, S_k\rbrace$ を考える。 ここで $G$ を次のように $G/H$ に作用させる:
\[\tag*{$\spadesuit5$} G \times G/H \ni (g, S) \longmapsto gS \in G/H.\]$H_i$ で $S_i$ に対する固定部分群を表す:$H_i \coloneqq G_{S_i}.$
軌道・固定部分群定理により、$\lvert H_i \rvert = \lvert G \rvert/\lvert O(S_i)\rvert = p^n.$ $\spadesuit4$ と $\spadesuit5$ より $\lvert H \rvert = \lvert H_i \rvert = p^n$ がわかる。
一方、剰余類 $S_i$ の定義から $S_i = gH$ なる $g \in G$ が存在する。すぐ上に示したように $\lvert gHg^{-1} \rvert = \lvert H_i \rvert = p^n$ なので、
\[\tag*{$\spadesuit6$} gHg^{-1} \subset H_i.\]次に、$H^{\prime}$ をもう一つの $G$ の Sylow $p$ 部分群とする。 ここでは $H^{\prime}$ を $G/H$ に $\spadesuit5$ のように作用させる。
\[\tag*{$\spadesuit5^{\prime}$} H^{\prime} \times G/H \ni (g, S) \longmapsto gS \in G/H.\]$p$ は $k$ と素であるので、$H^{\prime}$ による群作用に関する、$p$ の倍数ではない長さの軌道が少なくとも一つは存在する。 $p$ と素である各 $r$ について、長さが $r$ の軌道を
\[O_r \coloneqq \{S_1, \dotsc, S_r \}\]とおく。 そして $K \coloneqq H_1 \cap H^{\prime} = G_{S_1} \cap H^{\prime}$ とおく。すると $K$ もまた $H^{\prime}$ の作用に関する $S_1$ に対する固定部分群である。 ゆえに
\[[H^\prime\colon K] = \lvert H^{\prime}\rvert/\lvert K\rvert = \lvert O_r\rvert = r.\]ところが $\lvert H^{\prime}\rvert = p^n$ かつ $p\nmid r$ から $r = 1$ である必要があり、 すなわち $K = H^{\prime}$ である。
以上を位数に関して整理すると:
\[\begin{aligned} &\phantom{\therefore}\lvert K \rvert = \lvert H^{\prime} \rvert = \lvert H_1 \rvert = p^n.\\ &\therefore H^{\prime} = K = H_1. \end{aligned}\]これと $\spadesuit4, \spadesuit6$ より $H^\prime$ は $H$ と共役であることが示された。 $\blacksquare$
参考資料
- 川口周著『代数学入門』
- 志賀浩二著『群論への 30 講』: 第一定理のみ紹介。簡潔でわかりやすい。
- Sylow theorems - Wikipedia
- タイトルが複数形になっていることに注意。
- ProofWiki
- First Sylow Theorem
- Fourth Sylow Theorem: congruent
- Third Sylow Theorem: conjugate