第 8 章 多様体上のベクトル場(前編)

  • 微分法を多様体上で考える。

  • 多様体上の変化の対象はフローとするのが自然だ。

8.1 フローと関数

  • フロー \(F_t\)\(C^\infty\) 級関数 \(f\) について、フローの軌道に沿う変化が考えられる。すなわちフローを生成するベクトル場を \({\displaystyle X = \diff{F_t}{t} \circ F_t\inv}\) とすると

    \[\diff{(f \circ F_t)(x)}{t} = (Xf)(F_t(x)).\]

    ベクトル場による関数の微分とは、ベクトル場が生成するフローの軌道に沿った変化率ということか。

  • \(\fn{Xf}{M}\RR\)\(C^\infty\) 級である。

  • \(\fn{X}{C^\infty(M)}C^\infty(M)\) は線形写像かつライプニッツ則を満たす (cf. 問題 5.1.6)。

  • \({Xf = 0 \implies f(F_t(x)) = f(x).}\)

  • 問題 8.1.1: \({X = \dfrac{\partial}{\partial x} + \alpha \dfrac{\partial}{\partial y},\ \alpha \in \RR \setminus \QQ}\)\({\RR^2/\ZZ^2}\) 上のベクトル場を与える。このとき \({f \in C^\infty(M)}\)\({Xf = 0}\) であるならば \(f\) は定数関数である。

    • まず \(X\) のフロー \(\varphi_t\)\(\RR^2\) で計算する。

      • \(x, y\) ごとに単純に微分方程式を解くと \({x = t + x_0,\ y = \alpha t + y_0}\) のようになる。

      • \({\varphi_t(x0, y0) = (x_0, y_0) + (t, \alpha t)}\) で初期値をそのまま変数の文字に置き換えて \({\varphi_t(x, y) = (x + t, y + \alpha t)}\) となる。これは \({\varphi_t \circ \varphi_s = \varphi_{t + s}}\) を満たすのでフローになっている。

    • 次に \({\varphi_t(x, y) = (x + t, y + \alpha t) \pmod{\ZZ^2}}\)\({\RR^2/\ZZ^2}\) 上のフローとなっていることを確認する。

    • 軌道は \({G(x, y) = \set{(x + t, y + \alpha t) \in \RR^2/\ZZ^2 \sth t \in \RR}}\) と書ける。この集合は稠密なので、ベクトル場によりゼロになる関数は定数関数となる。

      • だから本題はこの軌道の稠密性の証明だ。この軌道は \({\RR^2/\ZZ^2}\) の上下左右の縁で無限ループする傾きが \(\alpha\) の直線だ。図に描くといい。

      • 稠密でないと仮定して矛盾を導く。適当な \({\eps \gt 0}\) が存在して開円板 \(D_\eps\)\({\subset \RR^2/\ZZ^2 \setminus G(x, y).}\) となるようなものがある。

      • そのような正の数で最大のものを改めて \(\eps\) とする。

      • (?) \({\closure{D_\eps} \supset \closure{G(x, y)}.}\)

      • このとき各 \({\varphi_{2n\eps}(D_\eps)\quad(n \in \ZZ)}\) は互いに交わらない。

      • \({\varphi_{2n\eps}(D_\eps)}\) の面積の和を \({n \in \ZZ}\) についてとると、これは \(\infty\) に発散する。しかし、これは \({\RR^2/\ZZ^2}\) の面積 1 を超えるので矛盾となる。

  • 問題 8.1.2: コンパクト多様体上のベクトル場 \(X\) と多様体上の \(C^\infty\) 級関数 \(f\) について \({Xf = 0 \implies f = 0}\)

    \[\diff{(f \circ \varphi_t(x))}{t} = (Xf)(\varphi_t(x)) = f(\varphi_t(x)).\]

    これを解くと \({\varphi_t(x) = \mathrm{e}^t f(x).}\)

    • \({f(x) \ne 0}\) とすると \({f \to \infty\ (t \to \infty)}\) となるが、これは多様体がコンパクトであることに矛盾する(本書ではわざわざこれに言及していない)。したがって \({f(x) = 0.}\)

  • フローに沿う微分は偏微分であると考える。

    • \(\RR^2\) で定義された \(C^\infty\) 級関数のような \({\displaystyle \frac{\partial^2 f}{\partial x \partial y} = \frac{\partial^2 f}{\partial y \partial x}}\) が成り立つこととは事情が違って、ベクトル場二つを順に作用させる結果は、その作用の順序に依存する。

8.2 フローとベクトル場

  • ベクトル場 \(X\) とそれが生成するフロー \(F_t\) との関係は次のとおり:

    \[((F_t)_*X)(F_t(x)) = (F_t)_*X(x).\]
  • 定義 8.2.1: ブラケット積 or 括弧積

    \(X, Y\) をベクトル場、\(X\) の生成するフロー \(F_t\) について次の値を定義する:

    \[[X, Y] = \left.\diff{}{t}\right|_{t = 0}(F_{-t})_*Y\]
    • \({[X, Y]}\) もベクトル場となる。

    • \(X, Y\) どちらについても線形である \({\because [Y, X] = -[X, Y]}\)

    • ヤコビ恒等式 が成り立つ。すなわち \(Z\) もベクトル場とすると \({[[X, Y], Z] + [[Y, Z], X] + [[Z, X], Y] = 0.}\)

    • ベクトル場は関数空間から関数空間への微分作用素でもある。

    • \({[X, Y]f = X(Yf) - Y(Xf)}\) 計算しやすい。

    • 式で書き下してみる:

      \[\begin{split}[X, Y] = \sum_{i, j}\left( X_i \frac{\partial}{\partial x_i} Y_j \frac{\partial}{\partial x_j} -Y_j \frac{\partial}{\partial x_j} X_i \frac{\partial}{\partial x_i} \right),\\ \text{ where } X = \sum_{i}X_i \frac{\partial}{\partial x_i},\ Y = \sum_{i}Y_i \frac{\partial}{\partial x_i}.\end{split}\]
    • 幾何的解釈は「ベクトル場 \(Y\)\(F_{-t}\) で動かしたときの変化率」である。

  • 例題 8.2.2: \(n\) 次元ユークリッド空間上の線形ベクトル場の括弧積

    1. 式で書き下す。

      \({\displaystyle X = \sum_{i, j}^n a_{ij} x_j \frac{\partial}{\partial x_i}}\), \({\displaystyle Y = \sum_{i, j}^n b_{ij} x_j \frac{\partial}{\partial x_i}}`と置いてひたすら式を展開する。最終的に :math:\)sum` 記号が三つ並ぶ。

    2. \(X\)\(\varphi_t\) を生成するとして \({(\varphi_{-t}Y)}\) を書いて、それに基いて \({[X, Y] = \left.\diff{}{t}\right|_{t = 0}((\varphi_{-t})_*Y)}\) を求める。

      • \({A = (a_{ij}), B = (b_{ij})}\) とする。\(X\) のフローは微分方程式を解いて \({\varphi_t(\bm x) = \mathrm e^{tA} \bm x}\) であるから、 \({((\varphi_{-t})_*Y)(\bm x) = \mathrm e^{-tA}B \mathrm e^{tA} \bm x}\)

        \[\begin{split}\begin{align*} \diff{}{t}((\varphi_{-t})_*Y)(\bm x) &= \diff{}{t}(\mathrm e^{-tA}B \mathrm e^{tA} \bm x)\\ &= -A \mathrm e^{-tA}B \mathrm e^{tA} \bm x + \mathrm e^{-tA}BA \mathrm e^{tA} \bm x\\ &= -\mathrm e^{-tA}(AB - BA)\mathrm e^{tA} \bm x \\ \therefore \left.\diff{}{t}\right|_{t = 0}((\varphi_{-t})_*Y) &= -(AB - BA). \end{align*}\end{split}\]

    なお、微分同相写像 \(\varphi_t\) とベクトル場 \(Y\) に対してベクトル場 \({{\varphi_t}_*Y}\) を次の式で定義する:

    \[\begin{split}\begin{align*} ({\varphi_t}_*Y)(\varphi_t(x)) &= {\varphi_t}_*(Y(x)), \quad\text{or }\\ ({\varphi_t}_*Y)(x) &= {\varphi_t}_*(Y(\varphi_{-t}(x))). \end{align*}\end{split}\]
  • 例題 8.2.3

    仮定:

    • \(M, N\) をコンパクト多様体、

    • \(\fn{F}{M}N\)\(C^\infty\) 級写像、

    • \(X, Y\)\(N\) 上のベクトル場とし、

    • \({\overset{\sim}{X}, \overset{\sim}{Y}}\)\(M\) 上のベクトル場で次のようになっている: \({F_*\overset{\sim}{X} = X}, \ {F_*\overset{\sim}{Y} = Y.}\)

    結論:

    • \({F_*([\overset{\sim}{X}, \overset{\sim}{Y}]) = [X, Y].}\)

    • 特に \(\fn{F}{N}N\) が微分同相ならば \({F_*([X, Y]) = [F_*X, F_*Y].}\)

    証明:

    • 例題 6.5.5 の恒等式 \({F \circ \overset{\sim}{\varphi_t} = \varphi_t \circ F}\) を利用する。

    • あとなぜか \({\displaystyle [\overset{\sim}{X}, \overset{\sim}{Y}] = \lim_{t \to 0}\frac{1}{t}(\overset{\sim}{\varphi_{-t}}_* \overset{\sim}{Y} - \overset{\sim}{Y})}\) を利用する。

    \[\begin{split}\begin{align*} F_*([\overset{\sim}{X}, \overset{\sim}{Y}]) &= F_*\left(\lim_{t \to 0}\frac{\overset{\sim}{\varphi_{-t}}_* \overset{\sim}{Y} - \overset{\sim}{Y}}{t}\right)\\ &= \lim_{t \to 0}\frac{\overset{\sim}{\varphi_{-t}}_* F_* \overset{\sim}{Y} - F_* \overset{\sim}{Y}}{t}\\ &= \lim_{t \to 0}\frac{{\varphi_{-t}}_* Y - Y}{t}\\ &= [X, Y]. \end{align*}\end{split}\]
    • 最初の等号は括弧積の定義による。

    • 次の等号は 例題 6.5.5 の恒等式による。

    • その次の等号は本問の仮定を使った。

    • 最後の等号は再び括弧積の定義による。

  • 例題 8.2.4

    仮定:

    • \(M\) はコンパクト多様体で、

    • \({\xi, \eta}\) はその上のベクトル場であって、

    • \({[\xi, \eta] = 0}\) であり、

    • それぞれのベクトル場はフロー \(\varphi_s, \psi_t\) を生成する。

    結論:

    • \({\varphi_s \circ \psi_t = \psi_t \circ \varphi_s.}\)

    証明:

    • \({(\varphi_s)_*\eta = \eta}\) を示したい。

    • \({\displaystyle \left.\diff{}{s}((\varphi_{-s})_*\eta)(x)\right|_{s = 0} = 0}\) を示して \({s = 0}\)\({(\varphi_s)_*\eta = \eta}\) を示して結論する。

    \[\begin{split}\begin{align*} \diff{({\varphi_{-s}}_*\eta)(x)}{s} &= {\varphi_{-s}}_* \left( \left.\diff{({\varphi_{-u}}_*\eta)(\varphi_s(x))}{u}\right|_{s = 0}\right)\\ &= {\varphi_{-s}}_* ([\xi, \eta]\varphi_s(x))\\ &= {\varphi_{-s}}_* (0)\\ &= 0. \end{align*}\end{split}\]

    したがって \({{\varphi_{-s}}_*\eta(x) = \id_*\eta(x) = \eta(x).}\) すなわち \({{\varphi_{-s}}_*\eta = \eta.}\)

  • 問題 8.2.5

    仮定:

    • \(M\) はコンパクト多様体で、

    • \(\xi, \eta\) はその上のベクトル場であって、

    • \({[\xi, \eta] = \eta}\) であり、

    • それぞれのベクトル場はフロー \(\varphi_s, \psi_t\) を生成する。

    結論:

    • (A): \({{\varphi_s}_*\eta = \mathrm e^s\eta,}\)

    • (B): \({\varphi_s \circ \psi_t \circ \varphi_{-s} = \psi_{\mathrm e^s t}.}\)

    証明:

    • (A) ならば \({\mathrm e^s\eta}\)\({\psi_{\mathrm e^s t}}\) を生成するということであるので (B) であると言える。

      \[\begin{split}\begin{align*} \diff{({\varphi_{-s}}_*\eta)(x)}{s} &= \dots\\ &= {\varphi_{-s}}_* ([\xi, \eta]\varphi_s(x))\\ &= {\varphi_{-s}}_* \eta(\varphi_s(x))\\ &= {\varphi_{-s}}_* \eta(x). \end{align*}\end{split}\]
    • 次に \({\displaystyle \left.\diff{(\mathrm e^s\eta)(x)}{s}\right|_s = \mathrm e^s \eta(x)}\) を利用して \({s = 0}\) のときを確かめる。

      \[\left.{\varphi_{-s}}_* \eta\right|_{s=0} = \eta = \left.\mathrm e^s \eta\right|_{s=0}.\]

      したがって \({{\varphi_{-s}}_* \eta = \mathrm e^s \eta.}\)

  • リー群(多様体でもある)の構造の解析にはそれに即したベクトル場を用いる。

  • 問題 8.2.6: リー群

    1. 左不変ベクトル場全体 \(\mathfrak g\)\(\dim G\) 次元のベクトル空間である(リー環 or リー代数)。

      • \(X\) が左不変ベクトル場であるとは \({\forall g \in G, (L_g)_*X = X}\) であることをいう。

      • その全体を \({\mathfrak g = \set{X \in \mathfrak X(G) \sth \forall g \in G, (L_g)_*X = X}}\) で表す。

      • \(L_g\) の定義は 4.3.3 でやった。

      証明は \(\mathfrak g\)\(T_1G\) が同型であることを示す。

      • 写像 \({E(\xi) = \xi(1)}\) を考える。これはベクトル空間の準同型写像であるので、あとは全単射性を示せばよい。

      • \(E\) が単射であること:

        • \({E(\xi) = 0 \implies \xi = 0}\) を示す。

        • \({g, h \in G}\)\({\xi \in \mathfrak g}\) に対して、ベクトル場と左移動の関係は次で定義されている:

          \[((L_g)_*\xi)(L_g(h)) = (L_g)_*\xi(h).\]

          左辺は左不変性と左移動の定義により \({\xi(gh)}\) に等しい。

        • この式に \({h = 1}\) を代入すると \({\xi(g) = {L_g}_*\xi(1) = {L_g}_*E(1)}\) がわかる。

        • \({E(\xi) = \xi(1)}\) より \({\xi(g) = (L_g)_*E(\xi).}\)

        • したがって \({E(\xi) = 0 \implies \xi(g) = 0.}\) \({g \in G}\) は任意だから \({\xi = 0}\) が成り立つ。

        \({\ker E = 0}\) が示されたので、\(E\) は単射である。

      • \(E\) が全射であること:

        • \({v \in T_1G}\) に対してベクトル場を \(\fnm{\xi}{G}{TG}{h}(L_h)_*v\) とおく。つまり \({\xi(h) = (L_h)_* v}\) とおく。

        • 再びベクトル場と左移動の関係の定義を思い出す。

          • 左辺は \({((L_g)_*\xi)(L_g(h)) = ((L_g)_*\xi)(gh).}\)

          • 右辺は \({(L_g)_*\xi(h) = (L_g)_*(L_h)_* v = (L_{gh})_*v = \xi(gh).}\)

        • これらの最右辺が等しいということは、 \({(L_g)_*\xi = \xi}\) であるということだ。よって \({\xi \in \mathfrak g.}\)

        • 次のようにして \({E(\xi) = v}\) がわかる:

          \[E(\xi) = \xi(1) = (L_1)_* v = \id_* v = v.\]

        以上により、\(E\) が全射であることが示された。

    2. \(\xi, \eta\) を左不変ベクトル場とすると \({[\xi, \eta]}\) もそうである。

      \[\begin{split}\begin{align*} &{L_g}_*[\xi, \eta] = [{L_g}_*\xi, {L_g}_*\eta] = [\xi, \eta].\\ &\therefore [\xi, \eta] \in \mathfrak g. \end{align*}\end{split}\]

      ここで 例題 8.2.3 の結果を利用している。

    3. \(\xi\) が生成するフローを \(\varphi_t\) とする。このとき \({\forall g \in G, \varphi_t(g) = g\varphi_t(1).}\)

      • この \(\varphi_t(1)\)\(\exp(t\xi)\) と書く。

      • \({{L_g}_* \xi = \xi}\) より \({{L_g}_* \varphi_t = \varphi_t L_g.}\)

      • したがって \({\varphi_t(g) = \varphi_t(L_g(1)) = L_g \varphi_t(1) = g\varphi_t(1).}\)

    4. \({\xi \longmapsto \exp(\xi)}\)\(\mathfrak g\) のゼロ近傍から \(G\) の単位元 1 の近傍への微分同相写像である。

      • 接写像 \({\exp_*: T_0\mathfrak g \longmapsto T_1G}\) が同型写像であることを示す。

      • \({t = 0}\) における曲線 \({t\xi\quad(t \in \RR)}\) の接ベクトルは \({\xi \in \mathfrak g \cong T_0\mathfrak g}\) である。

      • \(G\) 上の曲線 \({\exp(t\xi) = \varphi_t(1)}\)\({t = 0}\) における接ベクトルを計算して \({= \xi(1) \in T_1(G)}\) とする。

        \[\begin{split}\begin{align*} \left.\diff{\exp(t\xi)}{t}\right|_{t = 0} &= \left.\diff{\varphi_t(1)}{t}\right|_{t = 0}\\ &= \left.\xi(\varphi_t(1))\right|_{t = 0}\\ &= \xi(1) \in T_1(G). \end{align*}\end{split}\]
        • 最初の等号は \(\exp(t\xi)\) の定義による。

        • 次の等号はベクトル場とフローの関係による。

        • 最後の等号は \({t = 0}\) による。

      • あとは逆写像定理による。

  • 注意 8.2.7

    • \({G \subset GL_n(\RR)}\) を部分群とすると、\({A \in G}\) における接ベクトルが \(AX\) の形(ベクトルとは言っているが行列である)をしていることが \(X\) が左不変であることの条件である。

      • \(X\) が生成するフローを \(F_t\) とする。このとき \({\displaystyle \diff{F_t(A)}{t} = F_t(A)X}\) を満たすので \({F_t(A) = \mathrm e^{tX}.}\)

    • 問題 8.2.6\(\exp\) はリー群版の指数写像である。

8.3 行列群上の計量(展開)

\({G = GL_n(\RR)}\) 上の曲線 \(c(t)\) の「接ベクトルの長さの自乗」を二通り与えて、それぞれの測地線の方程式を調べる。ただしどちらの与え方も \(G\) の左作用が接ベクトルの長さを不変にするように定義する。

  1. \({\trace {}^t\!(c'){}^t\!(c\inv)c\inv c'}\)

  2. \({\trace c\inv c'c\inv c'}\)

  • 単位行列 \(I_n\) においては \(n^2\) 次元ユークリッド空間の計量と一致する。

  • この前と同じく変分法を適用して、値がゼロになる必要条件をそれぞれ調べる。

それぞれの測地線の方程式は次のようになる:

  1. \({-c\inv c'' + {}^t\!(c\inv c')(c\inv c') + (c\inv c')^2 - (c\inv c')\ {}^t\!(c\inv c') = 0}\)

  2. \({-(c\inv c')' = 0}\)

  • 例題 8.3.1: 最初の \({c(t) = \mathrm e^{tA}}\) が測地線である条件

    • 測地線の式の左辺を展開すると \({{}^t\!AA - A\,^t\!A}\) となるが、これがゼロであるということは \({A \in O(n)}\) を意味する。

  • 行列群上の計量は非リーマンであるのがよい。そうすると曲線の長さが正にも負にもなるかもしれず、そうなると局所性最短性はどこかへ行ってしまう。ただし、長さは「臨界的である」ことで定義される。

  • 指数写像とは、リーマン多様体上の測地線の方程式により定義される写像だ。