第 4 章 微分形式とベクトル場 4/4

4.4 リーマン多様体上の微分形式とベクトル場

  • リーマン計量 gx:TxM×TxMR は余接空間のテンソル積の元である:

    gxTxMTxM.
  • 座標近傍の変換:

    g=i,jngij(x)dxidxj=k,lni,jngij(x(y))xiykxjyldykdyl

    を見ると、リーマン計量 g はベクトル束 (TMTM,M,p) における射影 p:TM×TMM に対し pg=idM になるような切断である。細かく言うと、対称なテンソル積のなす n(n+1)2 次元ベクトル空間をファイバーとする部分ベクトル束の切断である。

  • リーマン計量があると、ベクトル場と 1 形式の間に全単射が存在する:

    α(v)=gx(v,ξ(x))vTxM.
    • gx が双線型かつ非退化であることに注意。

  • 逆に 1 形式 α に対して上の式を満たすベクトル場 xi が一意的に定まる。

    • αi=j=1ngijξj から ξj=i=1ngijαi とすればよい。

    • 座標近傍上では常に inαivi=i,jngijviξj である。

  • 逆行列 gij に関しては双線型 gx:TxM×TxMR が次で定まる:

    gx(i=1nαidxi,j=1nβjdxj)=i,j=1ngijαiβj.

    さらに α,β がベクトル場 ξ,η にそれぞれ対応するときは:

    gx(α,β)=i,j=1ngijαiβj=i,j=1ngijk=1ngikξkl=1ngilηl=k,l=1ngklξkηl.
  • 接空間 TxM の正規直交基底

    {ξ(k)=i=1nξi(k)xi}

    をとる。正規直交基底なので gx(ξ(k),ξ(l))=δkl となる。

    これに対応する余接空間 TxM の基底

    {α(n)=i,j=1ngijξj(k)dxi}

    もまた正規直交基底となる。これは先述の座標近傍上における等式による。

  • 正規直交基底が存在することは、グラム・シュミットの直交化法により言える。「ベクトル」の大きさの調整にリーマン計量を用いる:

    v1=x1,ξ(1)=v1g(v1,v1)

    から開始して、ξ(1),,ξ(k) が定まる。それから:

    vk+1=xk+1i=1kg(ξ(i),xk+1)ξ(i),ξ(k+1)=vk+1g(vk+1,vk+1)

    と正規化する。

  • リーマン多様体の体積形式

    • 余接空間 TxM の正規直交基底 {α(k)} に対して、 n 形式 α(1)α(n) は(符号を除いて)リーマン計量で定まる。

    • 多様体が向き付け可能であれば、各座標近傍上で正の正規直交基底がとれる。そのとき、上述の n 形式の外微分をとると、二つの座標近傍の共通部では座標変換のよる引き戻しとなる。このような非ゼロ微分形式をリーマン多様体の体積形式という。

  • 問題 4.4.1: 向き付けられたリーマン多様体の向き付けられた座標近傍における体積形式

    この問題でリーマン多様体の体積形式を具体的に求める。

    1. リーマン計量を gij とする:

      g=gijdxidxj.
    2. 余接空間 TxM の正規直交基底を α(k) とする:

      α(k)={i=1nα(k)dxi}.
    3. 本節冒頭で述べた双線型写像を適用すると i,j=1ngijαi(k)αi(l)=δkl すなわち tAG1A=In の形に書ける。ここで G=(gij), A=(αi(k)) とした。

    4. 問題 1.8.5 の結果より

      α(1)α(n)=detAdx1dxn.
    5. 3. より (detA)2=detG である。

    6. 4. と 5. より求める体積形式は次のように表せる:

      α(1)α(n)=detGdx1dxn.

    この右辺が向き付けられたリーマン多様体 (M,g) の体積形式である。以下で Ω(M,g) とあるのは、これである。

  • 定理 4.4.2: ガウス・グリーンの公式

    向き付けられたコンパクトリーマン多様体の体積形式に関するベクトル場の発散に関する公式だ。

    • Ω(M,g) をリーマン多様体の体積形式とし、

    • ξLξΩ(M,g)=div(ξ)Ω(M,g) を満たすベクトル場であるとし、

    • n は単位ベクトル場であり、多様体の境界 M においてそれに直交かつ外向きであるとする。

    とする。このとき、次の積分に関する等式が成り立つ:

    Mdiv(ξ)Ω(M,g)=Mg(n,ξ)Ω(M,g|M).

    この積分は、境界がない多様体についてはゼロであると解釈する。

    1. ベクトル場 ξ についての仮定および 命題 4.1.8 カルタンの公式より左辺を次のように変形できる:

      Mdiv(ξ)Ω(M,g)=MLξΩ(M,g)=MdiξΩ(M,g)=MiξΩ(M,g).
      • 最後の等式はストークスの定理による。

    2. ベクトル場 n は定義域を多様体全体に拡張してよい。次のように決めて構わない:

      inΩ(M,g)|M=Ω(M,g|M).
    3. 正規直交基底 {ei} (i=1,,n) をとる。ただし、境界に沿って局所的に n=e1 となるようなものとする。このとき ξ=aiei について:

      iξΩ(M,g)|M=a1e2en=g(n,ξ)Ω(M,g|M).

      これを 1. の右辺に適用すればガウス・グリーンの公式を得る。

  • 例 4.4.3: ガウス・グリーンの公式の特殊化

    • 領域 BR2 に対して次が成り立つ:

      B(ξ1x1+ξ2x2)dx1dx2=Bnξds.

      ただし s は領域の境界 B の向きに沿ったパラメーターとする。

    • 領域 BR3 に対して次が成り立つ:

      B(ξ1x1+ξ2x2+ξ3x3)dx1dx2dx3=BnξdS.

      ただし dS は領域の境界 B の「面積要素」である。

  • 一般の k 形式に対しても i1<<ikfi1ikα(i1)α(ik) と書いたときの i1<<ikfi1ik2 の値は正規直交基底のとり方に依存しないで定まる。

    • したがって「長さ」も定まると言いたい?

  • 問題 4.4.4: 行列式の計算

    • 行列 Am×n サイズ、

    • 行列 Bn×m サイズで

    あるとする。このとき det(AB) はどう書けるかという問題。

    • A=(aij),

    • B=(bjk),

    • i,k=1,,m,

    • j=1,,n

    とおく。

    • (1) mn ならば det(AB)=0.

      AB のランクのことを考えれば明らか。

    • (2) mn ならば:

      det(AB)=j1<<jmdet((aik)i=1,,mk=j1,,jm)det((bki)i=1,,mk=j1,,jm)
      1. 行列の積を考える:

        AB=(j=1aijbjk)i,k=1,,m.
      2. 行列式をひたすら考える:

        det(AB)=σsign(σ)(j1=1a1j1bj1σ(1))(jm=1amjmbjmσ(m))=σJ{1,,n}{j1,,jm}=Jsign(σ)a1j1bj1σ(1)amjmbjmσ(m)=σj1<<jmτsign(σ)a1jτ(1)bjτ(1)σ(1)amjτ(m)bjτ(m)σ(m).
      3. シグマを一個取った部分を計算すると:

        στsign(σ)a1jτ(1)bjτ(1)σ(1)amjτ(m)bjτ(m)σ(m)=τsign(τ)a1jτ(1)amjτ(m)σsign(σ)sign(τ)bjτ(1)σ(1)bjτ(m)σ(m)=τsign(τ)a1jτ(1)amjτ(m)σsign(στ1)bj1σ(τ1(1))bjmσ(τ1(m)).
      4. 再び j1<<jm を適用すると所望の結論を得る。

  • 正規直交基底 {α(1),,α(n)} に対して、 α(i1)α(ik)k 次外積の空間における自然な内積についての正規直交基底になっていることが今のでわかる。自然な内積とは次のものだ:

    i1<<<ikfi1ikα(i1)α(ik),i1<<<ikgi1ikα(i1)α(ik)i1<<<ikfi1ikgi1ik.
  • 微分形式同士の内積を定義する。

    • 多様体 M は向き付けられたコンパクト閉多様体であり、

    • α,βΩk(M) であり、

    • (α,β)xkTxM の内積である

    とすると、次で定義される:

    (α,β)=M(α,β)xΩ(M,g).
  • ホッジのスター作用素

    :kTMnkTM を次のように定義する:

    (α(i1)α(ik))=sign(1ni1ikj1jnk)α(j1)α(jnk)
    • ここで各 α() は正の向きの正規直交基底であり、

    • i1<<ik, j1<<jnk であり、

    • sign ホニャララは n 個の添字の置換の符号を意味するものとする。

  • 問題 4.4.5: スター作用素の定義は正規直交基底のとり方に依存しない

    1. 正の向きの正規直交基底 {α()},{β()} に対して次の等式を満たす行列 A=(aij)SO(n) が存在する:

      β(i)=j=1naijα(j).
    2. (β(i1)β(ik))=Pα(l1)α(lnk) の形に書き表す。 P の部分は本書にあるようにゴチャゴチャしている。

    3. α(l)=m=1namlβ(m) を用いて 2. の α(l1)α(lnk)Qβ(m1)β(mnk) の形に書き表す。Q の部分はやはりゴチャゴチャしている。

    4. 3. を 2. に代入して次のように変形したい:

      sign(1ni1ikm1mnk)β(m1)β(mnk)

      それには PQ が上記の置換の符号と一致することを、大量のシグマ記号と置換をうまく捌いて示せば十分。

  • ホッジのスター作用素の性質いろいろ

    • 1=Ω(M,g).

    • は内積を保つ線形同型写像である。

    • =(1)k(nk).

    • は写像 :Ωk(M)Ωnk(M) を引き起こす。 Ωk(M) の内積を次のように書ける:

      (α,β)=M(α,β)xΩ(M,g)=Mαβ=Mαβ.
      • αΩk1(M), βΩk(M) とする。

        • 写像 δ:Ωk(M)Ωk1(M) を次のように定義する:

          δ=(1)n(k+1)+1(d).

        このとき (dα,β)=(α,δβ) が成り立つ:

        (dα,β)=M(dα)β=Md(αβ)(1)k1αd(β)=M(1)k1α(1)(nk+1)(k1)()d(β)=(1)(nk)(k1)(1)n(k+1)+1Mαδβ=Mαδβ=(α,δβ).
        • 式変形の途中でムリヤリ δ を出現させるところが急所。

  • δ の性質いろいろ

    • δδ=0 であることから (Ω(M),δ) は複体である。

    • (dα,β)=(α,δβ) などが成り立つことから、部分空間の直交性 kerdimδ, imδkerδ がある。

      • 直交するとは、内積がゼロとなることである。

    • Ωk(M) には互いに直交する部分空間 kerdkerδ, imd, imδ が存在する。

    • Hk={αΩk(M)|(dδ+δd)α=0} とおくと、 Hk=kerdkerδ が成り立つ。

      • αHk ならば 0=(dδ+δd)α=(δα,δα)+(dα,dα) であるので αkerdkerδ と言える。

      • αkerdkerδ ならば当然 αHk である。

    • =dδ+δd と書き、ラプラシアン と呼ぶ。

      • Hk=kerΔ.

      • α=0 を満たす α調和形式 という。

        α=0(dα=0)(δα=0)αkerdkerδ.
  • 定理 4.4.6: ホッジ・ドラーム・小平の定理

    Ωk(M)=Hkimdimδ は直交する部分空間への直和分解である。

    • 証明は参考文献にあるようだ。

4.5 第 4 章の問題

吟味中。