Sylow の定理を証明するための補題集ノート 1
Sylow の定理ノートが長くなるので、補題の議論をここに分割する。
同等な部分集合同士からなる集合族への作用
定理:$G$ を有限群とし、$\mathscr S$ を位数が $k$ である $G$ の部分集合すべてからなる集合族とする。 このとき次の写像 $L\colon G \times \mathscr{S} \longrightarrow \mathscr{S}$ を定義する:
\[L(g, S) \coloneqq \{ x \in G \,|\, \exists s \in S(x = gs) \}.\]このとき、写像 $L$ は群作用である。
また、任意の $S \in \mathscr S$ について、固定部分群 $G_S$ の位数は $S$ の位数を割り切る。
証明:(群作用であることは省略)
郡の作用であるので、これ以降は $L(g, S)$ を $g \cdot S$ や $gS$ と記す。
以下、
\[\tag*{$\spadesuit0$} \forall S \in \mathscr{S}(\lvert G_S \rvert \mid \lvert S \rvert)\]が成り立つことを示す。固定部分群
\[G_S = \{g \in G \,|\, gS = S\} \subset G.\]の各要素に右から $s \in S \subset G$ を乗じたものの集合 $G_Ss$ について次が成り立つ:
\[\tag*{$\spadesuit1$} \begin{aligned} &\forall s \in S(G_Ss \subset G_S).\\ &\therefore \lvert G_Ss\rvert \le \lvert G_S\rvert. \end{aligned}\]そして固定部分群は部分群であるので $G_S$ は $G$ の単位元を含む:
\[1_G \in G_S \subset G.\]したがって任意の $s \in S$ について $s \in G_Ss$ が成り立つので、 $\spadesuit1$ と合わせて次が示された:
\[\forall s \in S(\lvert G_Ss\rvert = \lvert G_S\rvert).\]ここですべての $s \in S$ にわたって和をとると:
\[S = \bigcup_{s \in S}G_Ss.\]ここで右剰余類について $s \ne s^{\prime} \iff G_Ss \ne G_Ss^{\prime}$ であるので、実は直和分解である:
\[\begin{aligned} S &= \bigsqcup_{s \in S}G_Ss.\\ \therefore \lvert S \rvert &= \sum_{s \in S}\lvert G_Ss\rvert. \end{aligned}\]したがって $\forall s \in S(\lvert G_Ss \rvert \mid \lvert S \rvert).$ ところで $\lvert G_S \rvert = \lvert G_Ss \rvert$ だから結果的に $\lvert G_S \rvert \mid \lvert S \rvert$ が成り立つ。 任意の $S \in \mathscr S$ について、固定部分群 $G_S$ の位数は $S$ の位数を割り切る。 $\blacksquare$
素数べきの部分集合からなる族への群作用
$G$ を有限群とし、$\mathscr S$ を基数が $p^n$ に等しいような $G$ の部分集合すべてからなる集合族とする。ここで $p$ は素数とする。
1. 固定部分群は $p$ 部分群である
定理:前補題の群作用における固定部分群 $G_S$ は $G$ の $p$ 部分群である。
証明:$\spadesuit0$ より $\lvert S \rvert = p^n$ だから:
\[\forall S \in \mathscr{S}(\lvert G_S \rvert \mid p^n).\\\]ゆえに固定部分群 $G_S$ は $p$ 群である。$G_S$ は $G$ の部分群であるから $G_S$ は $G$ の $p$ 部分群である。 $\blacksquare$
2. 極大な素数べき基数の部分集合への群作用
定理: もし $\lvert G \rvert$ を割り切る最大の素数べきが $p^n$ に等しく、 かつ $p$ が $\lvert O(S) \rvert$ を割り切らないならば、
\[\forall s \in S(G_Ss = S).\]証明:軌道・固定部分群定理を直接適用することで次が成り立つ:
\[\lvert G \rvert = \lvert O(S) \rvert \lvert G_S\rvert.\]素数 $p$ は $\lvert O(s) \rvert$ を割り切らないので $p^n$ が $\lvert G_S \rvert$ を割り切る必要がある。すなわち $\lvert G_S \rvert \ge p^n.$
一方、剰余群の等価性により $\lvert G_S \rvert = \lvert G_Ss\rvert$ が成り立つから
\[\tag*{$\spadesuit2$} \lvert G_S \rvert = \lvert G_Ss \rvert\ge p^n.\]再び剰余群の等値性により、任意の $S \in \mathscr{S}$ について $\lvert G_Ss \rvert$ は $\lvert S \rvert = p^n$ を割り切る。 このとき $\lvert G_sS \rvert \le p^n$ である。 これと $\spadesuit2$ と合わせて $\lvert G_Ss\rvert = p^n$ が成り立つ。
一方、前補題 $\spadesuit0$ から $G_Ss = S$ が必要である。 $\blacksquare$
二項係数の剰余に関する補題
定理:$p$ を素数、$k$ を整数、$n$ を正の整数とする。このとき:
\[\tag*{$\spadesuit3$} \binom{p^n k}{p^n} \equiv k \pmod p.\]証明:次の合同式を利用する(数学的帰納法などによる):
\[(a + b)^{p^n} \equiv (a^{p^n} + b^{p^n}) \pmod p.\]合同式を $k$ 乗しても合同式は成立するから:
\[\tag*{$\spadesuit4$} (a + b)^{p^nk} \equiv (a^{p^n} + b^{p^n})^k \pmod p.\]以下、$\spadesuit4$ の左辺と右辺それぞれの $b^{p^n}$ の係数を比較すると $\spadesuit3$ が得られることを示す。
$\spadesuit4$ の左辺を二項展開すると、$b^{p^nk}$ 項の係数は $\spadesuit3$ の左辺に等しい。
一方、$\spadesuit4$ の右辺を二項定理に従って展開すると、 $b^{p^n}$ の項の係数(全部展開して得られる多項式の後ろから二番目に相当)は $k$ に等しい。
したがって $\spadesuit3$ が成り立つ。 $\blacksquare$