素元分解整域 a.k.a. 一意分解整域学習ノート
A study note for the unique factorization domain.
定義
整域 $D$ が素元分解整域であるとは、$x \in D$ が零元でも単元でもないときに次を満たしているものを言う:
- $x$ は $D$ において因数分解できる。つまり $D$ の既約元の積の形に書ける。
- $x$ の因数分解が二とおりあるとき、両者は等価な因数分解である。
ここで $x \ne 0$ の因数分解とは、単元 $u \in D$ および有限個の既約元 $x_1, x_2, \dotsc, x_n \in D$ を用いて $x = ux_1x_2\dotsb x_n$ が成り立つときの右辺の式を指す。
コメント:既約元の積に分解されるのに素元分解整域はまずい名前だと思う。
性質
Euclid の補題(既約元版)
定理:$D$ を 素元分解整域とし、$p \in D$ を既約元であるとする。 $a, b \in D$ に対して $p$ は $ab$ を割り切るとする。
このとき $p$ は $a$ を割り切るか、あるいは $p$ は $b$ を割り切る。
証明: $a, b$ を次のように既約元分解できると仮定する:
\[\begin{aligned} a &= ua_1\dotsb a_n,\\ b &= vb_1\dotsb b_m. \end{aligned}\]ここで $u, v$ は $D$ の単元、$a_1, \dotsc, a_n, b_1, \dotsc, b_m$ は $D$ の既約元である。 このとき積 $ab$ の既約元分解は次のようになる:
\[ab = (uv)a_1 \dotsb a_n b_1 \dotsb b_m.\]- もし $p$ が $a_i$ のいずれかの同伴であれば、$p$ は $a$ を割り切り、
- もし $p$ が $b_i$ のいずれかの同伴であれば、$p$ は $b$ を割り切る。
ここで $p$ がどんな $a_i, b_i$ の同伴でもないと仮定して矛盾を導く。 $p$ は $ab$ を割り切るので、$pc = ab$ を満たす $c \in D$ が存在する。
$c \in D$ の既約元分解は次にようになる:
\[c = wc_1 \dotsb c_l.\]ここで $w \in D$ は単元であり $c_1, \dotsc, c_l \in D$ は既約元である。 これは $ab$ の別の既約元分解を導く:
\[ab = w p c_1 \dotsb c_l.\]ところが $ab$ の最初の既約元分解は $p$ の同伴を含まない。これは矛盾である。 つまり $p$ は $a_i, b_i$ のうちの何らかの同伴である。したがって $p$ は $a$ を割り切るか、$b$ を割り切る。 $\blacksquare$
整数環は UFD である
定理:$\Z$ は素元分解整域である。
証明:次の事実に基づく。
- $n \gt 1$ をみたすすべての整数は、一個以上の素数の積として、素数の順序の違いを除いて一意的に書ける。
- $\Z$ は整域である。$\blacksquare$
$\Z[X]$ は UFD である
定理:整数係数多項式環 $\Z[X]$ は素元分解整域である。
証明:整数環 $\Z$ が UFD であることと、UFD では Gauss の補題が成り立つことから $\Z[X]$ は素元分解整域である。 $\blacksquare$
UFD には GCD が存在する
定理:素元分解整域の任意の 0 でない二要素には最大公約元が存在する。
証明:$D$ を素元分解整域とし、$x, y \in D$ をどちらも 0 でない要素とする。 今、$x$ と $y$ それぞれの既約元分解をとり、因数を次のように並び替える:
\[\begin{aligned} x &= u (x_1 \dotsb x_t) x_{t + 1} \dotsb x_r,\\ y &= v (y_1 \dotsb y_t) y_{t + 1} \dotsb y_s. \end{aligned}\]ここで、
- $u, v \in D$ は単元、
- 各 $x_i, y_i \in D$ は既約元、
- $t \le \min(r, s),$
- $i = 1, \dotsc, t$ に対して $x_i$ と $y_i$ は同伴、
- 上記以外の $x_i$ と $y_j$ に対しては(どの $i, j$ の対でも)同伴でない。
今 $d \in D$ を次のようにとる:
\[d \coloneqq \begin{cases} x_1 \dotsb x_t, & t \ne 0,\\ 1, & t = 0. \end{cases}\]以下、$d = \gcd(x, y)$ を証明する。
$d$ が $x$ と $y$ の両方を割り切ることは明らか。
もう一つ $f \in D$ が存在して $x, y$ の公約元であると仮定する。 すると $f \mid d$ が成り立つことを示す。
公約元であるのである $x^{\prime}, y^{\prime} \in D$ が存在して $x = x^{\prime}f,\;y = y^{\prime}f$ の形に書ける。 $f$ が単数である場合は $f \mid d$ である。
それ以外で $f \nmid d$ があり得ないことを背理法で示す。 もし $f \nmid d$ ならば、$f$ の既約元分解は $d$ を割り切らないような既約元 $g$ を因数に含む必要がある。 このとき:
- ある $t \lt j \le r$ について $g \mid x_j$ かつ
- ある $t \lt k \le s$ について $g \mid y_k$ が成り立つ。
この整除関係からは次のどちらかが成り立つ:
- $g$ が単元である。しかしこれは既約であることに矛盾する。
- $x_k$ も $y_j$ も既約元でない。しかしこれはこれらの要素の定義に矛盾する。
したがって背理法により $f \nmid d$ はあり得ず、$f \mid d$ が成り立つことが示された。 $f$ は $x, y$ の任意の公約元であるから、$f \mid d$ なる $d$ は $x, y$ の最大公約元であることが示された。 $\blacksquare$
UFD の特徴づけ
定理:$D$ を整域とする。次の条件は同値である:
- $D$ は素元分解整域である
- $D$ は最大公約元のある整域であって、単項イデアル上の昇鎖律を満たす
- $D$ は単項イデアル上の昇鎖律を満たし、かつ $D$ のどの既約元も素元である。
TODO: 証明
参考資料
- 一意分解環 - Wikipedia
- Category:Unique Factorization Domains - ProofWiki