Galois 論に入る前に体の基本的な性質を理解してゆくノート。今回は素体と prime subfield を学ぶ。

定義

素体 (prime field)

定義素体とは、体であり真の部分体をもたないものである。

検討:真の部分体 (proper subfield) の定義は「部分体であって自身と一致しないもの」でよい。

(和名不明)Prime Subfield

定義:体 $K$ の部分体すべての交差をとって得られる部分体 $P$ のことを $K$ の prime subfield という。

検討

  • 部分体の交差は部分体であるから、
    • $P$ が $K$ の部分体であることは正しい。
    • $P$ は極小性を有する:prime subfield には真の部分体は存在しない。
    • $P$ は $K$ のすべての部分体に含まれる。
  • その他の性質を証明とともに後述する。

性質

素数を法とする剰余類環は素体である

定理:$p$ を素数とする。$\Z_p \coloneqq \Z/p\Z = \Z/(p)$ とする。

このとき $\Z_p$ は素体である。

検討

  • 部分集合 $K \subset \Z_p$ が体であれば、それが自明な部分体であることを示す。
  • 素数位数の群の性質を利用する。

証明:部分体 $K \subset \Z_p$ を任意にとる。 その加法群 $(K, +)$ は加法群 $(\Z_p, +)$ の部分群でなければならない。 ここで $(\Z_p, +)$ の位数は素数 $p$ である。素数位数の群には自明な部分群しか存在しないので、 $(K, +)$ は自明な部分群である。

部分体と仮定したので $(K, +) \ne \lbrace 0 \rbrace.$ したがって $(K, +) = (\Z_p, +).$ 位数の考察から $K = \Z_p.$

$\Z_p$ の部分体が自分自身しかないことが示された。したがって $\Z_p$ は素体であることが示された。 $\blacksquare$

有理数体は素体である

定理:$\mathbb{Q}$ は素体である。

検討:任意の部分体を一つとり、それがどんな要素を含むのかを示す。すると結局 $\mathbb Q$ 全体に等しいとわかる。

証明:部分体 $K \subset \mathbb Q$ を一つとる。$K$ は体であるので $K \ne \lbrace 0 \rbrace$ かつ $K \ne \varnothing$ である。

したがって任意に $a \in K$ を一つとることができる。$K$ は体であるので加法と乗法それぞれの逆元 $-a,\;a^{-1} \in K$ がとれる。

$a a^{-1} = 1 \in K.$ ここで $n \in \N \implies n \in K$ を仮定すると加法に関して閉じているから $n + 1 \in K.$ 数学的帰納法により $\N \subset K.$ 一方 $n \in K \implies -n \in K$ であるから、もっと強く $\Z \subset K.$

したがって任意の $p \in \Z \subset K,\;0 \ne q \in \Z \subset K$ に対して $p/q \in K.$

体の部分集合が部分体である条件により、$K = \mathbb Q$ が示された。 $\blacksquare$

標数 $p$ の体の prime subfield

定理:標数が $p \ne 0$ の体 $K$ には次の条件を満たす部分体 $P$ が一意的に存在する:

\[P \cong \Z_p.\]

証明:有理整数環 $\Z$ から $K$ への環の準同型 $\varphi\colon\Z \longrightarrow K$ を $\varphi(n) = n \cdot 1_K$ で定義する。$p$ は $K$ の標数であるから $p \cdot 1_K = 0.$ つまり $\ker \varphi = (p)$ である。

準同型定理により次の同型が成り立つ:

\[\Z_p \coloneqq \Z/(p) = \Z/\ker\varphi \cong \operatorname{im}(\varphi).\]

剰余類環 $\Z_p$ は体であるから、$\operatorname{im}\varphi \subset K$ もまた体である。 $P \coloneqq \operatorname{im}\varphi$ とおけば主張の一意的な部分体であることを満たす。 $\blacksquare$

標数 $0$ の体の prime subfield

定理:標数が $0$ の体 $K$ には次の条件を満たす部分体 $P$ が一意的に存在する:

\[P \cong \mathbb Q.\]

証明:標数が $0$ であることは、$K$ の任意の部分体 $L$ が任意の整数を含むことを意味する。 それはすなわち $\mathbb Q \subset L$ を意味する(ここまでの推論は前述「有理数体は素体」を参照)。

したがって $P$ を $K$ の部分体すべての交差として定義すれば $P \cong \mathbb Q$ であり、定義から一意的に定まる。 $\blacksquare$

体は素体を部分体としてもつ

定理:体は素体を部分体としてもつ。

証明:体を $K$ とする。$K$ は可換な斜体であるので、$K$ の部分斜体はすべて実際は $K$ の部分体である。 部分斜体すべての交差は prime subfield であるから(要証明)、$K$ の部分体すべての交差は $K$ の部分体であるような素体である。 $\blacksquare$

参考資料