桂利行著『代数学 III 体とガロア理論』第二章章末問題の答案。

記号説明:

  • $p$ を素数とする。
  • $Z_n$ を $n$ 次巡回群とする。
  • $\mathfrak S_n$ を $n$ 次対称群とする。
  • $\zeta_n$ を $1$ の原始 $n$ 乗根の一つとする。

$(24)$ $X^5 - 6X + 3 \in \mathbb Q[X]$ の最小分解体を $K$ とする。 $\operatorname{Gal}(K/\mathbb Q)$ を求めろ。

検討:五次方程式の問題。

  • $f(X) \coloneqq X^5 - 6X + 3$ とおく。これが $\mathbb Q$ 上既約であることをまず示す。
  • $f(X)$ のグラフを描いて根の分類をする。それから前問までの成果を応用するだろう。

:$f(X) \coloneqq X^5 - 6X + 3$ とおく。 これが $\mathbb Q$ 上既約であることを示す。

\[\begin{aligned} f(X - 3) &= (X - 3)^5 - 6(X - 3) + 3\\ &= X^5 - 15X^4 + 90X^3 - 270X^2 + 399X - 222. \end{aligned}\]

$f(X - 3)$ に Eisenstein の既約性判定法を素数 $p \coloneqq 3$ で適用すると

  • $15, 90, 270, 399, 222$ は $p$ で割り切れる。
  • $222$ は $p^2 = 9$ で割り切れない。余り $6.$

したがって $f(X - 3)$ は既約多項式であり、シフト前の $f(X) \in \mathbb Q[X]$ もまた既約多項式であることが示された。

解析的手法により $f(X) = 0$ の根のいくつが非実数なのかを調べる。

$f^{\prime}(X) = 5X^4 - 6.$ $X = \pm\sqrt[4]{6/5}$ で極値をとる。 曲線のグラフは増加・減少・増加である。

$f\left(-\sqrt[4]{6/5}\right) \gt 0,$ $f\left(\sqrt[4]{6/5}\right) \lt 0$ だから(グラフツール利用)中間値の定理により実根がちょうど $3$ 個存在する。

したがって $f(X) = 0$ の根は相異なる実根が $3$ 個、非実根が $2$ 個からなり、 後者は互いに複素共役である。

$f(X)$ は問 $(23)$ の仮定をすべて満たすので、それを適用することで

\[\operatorname{Gal}(L/\mathbb Q) \cong \mathfrak S_5\]

が示された。 $\blacksquare$


$(25)$ $\mathbb Q$ 上の Galois 拡大であって、その Galois 群が $\mathfrak S_n$ と同型であるものを求めろ。

検討:一般の体と対称群の位数に対してはこのような同型が常に存在するとは限らない。

前半はパズル。 やたら既約多項式を拾うが、このようなものが存在することを証明する必要は今はない。

ある有限群 $G$ が互換と $n - 1$ 次の巡回置換を含むならば $G = \mathfrak{S}_{n}$ という群論の命題を利用する。これが本質的だ。

:以下、選ぶ既約多項式を monic であるものとする。

最初に、$f_1 \in \mathbb F_2[X]$ を $n$ 次既約多項式とする(後で使う)。

$f_2 \in \mathbb F_3[X]$ を次のように定める:

  • $g_0, g_1 \in \mathbb F_3[X]$ をそれぞれ $1,$ $n - 1$ 次既約多項式とする。
    • $n - 1 = 1$ のときは $g_0 \ne g_1$ なる $g_1$ をとる。
  • $f_2 \coloneqq g_0g_1$ とおく。

このとき $f_2$ は分離多項式である。

$f_3 \in \mathbb F_5[X]$ を次のように定める:

  • $h_0 \in \mathbb F_5[X]$ を $2$ 次の既約多項式とする。
  • $n - 2$ が奇数のとき
    • $h_1 \in \mathbb F_5[X]$ を $n - 2$ 次の既約多項式とする。
    • $f_3 \coloneqq h_0h_1.$ このとき $f_3$ は $h_0 \ne h_1$ だから分離多項式である。
  • $n - 2$ が偶数のとき
    • $n - 2 = 1 + a$ なる奇数 $a$ をとる。
    • $h_1, h_2 \in \mathbb F_5[X]$ をそれぞれ $1, a$ 次の既約多項式とする。
      • $a = 1$ のときは $h_1 \ne h_2$ となるようにとる。
    • $f_3 \coloneqq h_0h_1h_2.$ 分離多項式である。

ここで $f \coloneqq -15f_1 + 10f_2 + 6f_3 \in \Z[X]$ とおく。 $n$ 次多項式 $f_1, f_2, f_3$ の取り方から $f$ も monic であり $\deg f = n.$

$f$ の法を $2, 3, 5$ とする剰余をそれぞれ考えると次を得る:

\[\begin{aligned} f &\equiv -f_1 \equiv f_1 \pmod 2,\\ f &\equiv f_2 \pmod 3,\\ f &\equiv f_3 \pmod 5.\\ \end{aligned}\]

$f \equiv f_1 \pmod 2$ かつ $f_1$ が既約であることから $f$ も既約である。 $f$ の $\mathbb Q$ 上の最小分解体およびその Galois 群をそれぞれ $K,$ $G \coloneqq \operatorname{Gal}(K/\mathbb Q)$ とおく。

$K$ に含まれている $f$ の根すべての集合を $S$ とおくと $f$ は既約多項式であるから $G$ は $S$ 上に推移的に作用する置換群とみなせる。

$f \equiv f_2 \pmod 3$ かつ $f_3$ が $n - 1$ 次の既約多項式と $1$ 次式の積に既役元分解することから $G$ は $n - 1$ 次の巡回置換を含む。

同様にして $f \equiv f_3 \pmod 5$ から $G$ は次のいずれかのタイプの置換 $\tau$ を含む:

\[(2\:a), (2\:1\:a).\]

$a$ は先に述べた奇数である。このとき $\tau^a$ は互換である。 つまり $G$ は互換を含む。

以上により $G$ は互換と $n - 1$ 次の巡回置換を含むことが示された。 したがって $G$ は $\mathfrak{S} _ {n}$ に同型であることが示された。 $\blacksquare$

参考:Constructing a Galois extension field with Galois group $S_n$ - Mathematics Stack Exchange


$(26)$ $L/K$ を有限次分離拡大とし、$a \in L$ をとる。写像 $L \longrightarrow K$ を $x \longmapsto ax$ で定める。これを $K$ 上の線形写像とみなして $T_a$ とおく。

このとき $T_a$ のトレースと行列式はそれぞれ本文の $\operatorname{Tr} _ {L/K}a,$ $\operatorname{N} _ {L/K}a$ と等しい。

検討:教科書によってはこれがトレース、ノルムの定義である。 基底のとり方によらずこれらの値が一意的に定まるのは線形代数の理論だ。

証明:まず基底を一つ固定して線形写像の表現行列を決める。

$L/K$ を $n$ 次拡大とし、基底を $\langle e_1, \dotsc, e_n \rangle$ とおく。 このとき $n$ 次正則行列 $A$ が次で定まって $T_a$ の行列表示を与える:

\[a(e_1 \cdots e_n) = (e_1 \cdots e_n)A.\]

以下 $\operatorname{Tr}A = \operatorname{Tr} _ {L/K}a$ および $\det A = \operatorname{N} _ {L/K}a$ を示す。

$L/K$ が分離拡大であることから相異なる $\sigma_1, \dotsc, \sigma_n \in \operatorname{Aut}_K(L, \overline{K})$ が存在する。このとき $n$ 次正方行列 $M$ を次で定義する:

\[M \coloneqq \begin{pmatrix} \sigma_1(e_1) & \sigma_1(e_2) & \cdots & \sigma_1(e_n)\\ \sigma_2(e_1) & \sigma_2(e_2) & \cdots & \sigma_2(e_n)\\ \vdots & \vdots & \ddots & \vdots\\ \sigma_n(e_1) & \sigma_n(e_2) & \cdots & \sigma_n(e_n) \end{pmatrix}.\]

すると $M$ の行ベクトル同士は線形独立であるので (cf. p. 58) $M$ は正方行列である。

対角行列 $P \coloneqq \operatorname{diag}(\sigma_1(a), \dotsc, \sigma_n(a))$ に対して $\operatorname{Tr}P = \operatorname{Tr} _ {L/K}a$ および $\det P = \operatorname{N} _ {L/K}a.$

一方 $M$ が正方行列であるから:

\[\begin{aligned} PM &= MA\\ \therefore P &= MAM^{-1}.\\ \therefore \operatorname{Tr}_{L/K}a = \operatorname{Tr}P &= \operatorname{Tr}(MAM^{-1}) = \operatorname{Tr}A.\\ \therefore \operatorname{N}_{L/K}a = \det P &= \det(MAM^{-1}) = \det A. \end{aligned}\]

したがって $\operatorname{Tr}A = \operatorname{Tr} _ {L/K}a$ および $\det A = \operatorname{N} _ {L/K}a$ であることが示された。 $\blacksquare$


$(27)$ 角 60 度の三等分は作図可能であるか。

検討:「角 $\theta$ の三等分は作図可能か」という問題は 「$\cos\theta$ が作図可能ならば $X \coloneqq \cos(\theta/3)$ は作図可能か」を意味する。 本問では $\cos(\pi/3) = 1/2$ だから仮定は満たされている。

三倍角の公式から方程式 $4X^3 - 3X = \cos\theta = 1/2$ を得る。 この最小分解体が $\mathbb Q$ 上 $2$ のべき乗の正規拡大であるかという問題になる。

証明:上述の検討により $8X^3 - 6X - 1 = 0$ の根 $\cos(\pi/9)$ を含む $\mathbb Q$ の最小の正規拡大が $\mathbb Q$ 上 $2$ のべき乗であることが作図可能である条件となる。

$f(X) \coloneqq 8X^3 - 6X - 1$ とおくと $f(X - 1) = 8X^3 - 24X^2 + 18X - 3.$

  • $p = 3$ は主係数以外の係数すべて $24, 18, 3$ を割り切る。
  • $p = 3$ は定数項 $8$ を割り切らない。
  • $p^2 = 9$ は定数項 $3$ を割り切らない。

したがって $f(X - 1)$ は、結局 $f(X)$ は Eisenstein の既約性判定法により $\mathbb Q$ 上既約であることが示された。 特に $f(X)$ は根を $\cos(\pi/9)$ とするような二次の因子を含まない。 したがって作図不可能であることが示された。 $\blacksquare$


$(28)$ 与えられた正方形の倍の面積を持つ正方形の一辺は作図可能であるか。

検討:信じられないほど易しい問題だ。

与えられた正方形の一辺が $a \gt 0$ であるとすると求める正方形の面積は $2a^2.$ この正方形の一辺の長さは $\sqrt{2a^2} = \sqrt{2}a,$ 対角線の長さは $2a.$

証明:作図可能である。点 $(0, 0), (1, 0), (0, 1)$ に加え、点 $(a, 0)$ が与えられていると仮定してよい。作図手順は次のとおりである:

  1. 点 $(0, a), (a, 0)$ からそれぞれ半径 $a$ の円を描き、原点でないほうの交点 $(a, a)$ をとる。
  2. 定規で $(0, 0), (a, a)$ を通る直線を引く。この線分の長さが求めるものである。
  3. コンパスで $(0, 0)$ を中心とする点 $(a, a)$ を通過する円を描く。
  4. この円と $x$ 軸との交点のうち正のものが $(\sqrt{2}a, 0)$ である。$\blacksquare$

$(29)$ 正 $n$ 角形で作図可能なものを $3 \le n \le 20$ の範囲ですべて求めろ。

検討:本書で習ったように $n = 2^{e_0}p_1^{e_1}\dotsm p_r^{e_r}\;(e_0 \ge 0,\;e_1, \dotsc, e_r \ge 1,\;i \ne j \implies e_i \ne e_j)$ と素因数分解するときに

  • $e_1 = \dotsb = e_r = 1$
  • $p_1, \dotsc, p_r$ は Fermat 素数

であることが作図可能である条件である。あいまいに覚えていると間違う。

$20$ 以下の Fermat 素数は $3, 5, 17$ の三つである。

\[\begin{aligned} 3 &= 2^0 \times 3^1 = 2^0 \times (2^1 + 1)^1. & \text{OK}\\ 4 &= 2^2. & \text{OK}\\ 5 &= 2^0 \times 5^1 = 2^0 \times (2^2 + 1)^1.& \text{OK}\\ 6 &= 2^1 \times 3^1 & \text{OK}\\ 7 &= 2^0 \times 7^1.\\ 8 &= 2^3. & \text{OK}\\ 9 &= 2^0 \times 3^2 = 2^0 \times (2^2 + 1)^2.\\ 10 &= 2^1 \times 5^1.& \text{OK}\\ 11 &= 2^0 \times 11^1.\\ 12 &= 2^2 \times 3^1. & \text{OK}\\ 13 &= 2^0 \times 13^1.\\ 14 &= 2^1 \times 7^1.\\ 15 &= 2^0 \times 3^1 \times 5^1 & \text{OK}\\ 16 &= 2^4. & \text{OK}\\ 17 &= 2^0 \times 17^1 = 2^0 \times (2^4 + 1)^1. & \text{OK}\\ 18 &= 2^1 \times 3^2.\\ 19 &= 2^0 \times 19^1.\\ 20 &= 2^2 \times 5^1. & \text{OK} \end{aligned}\]

以上より $n \in \lbrace 3, 4, 5, 6, 8, 10, 12, 15, 16, 17, 20\rbrace.$ $\blacksquare$


$(30)$ (Witt) 有限個の元からなる斜体は(可換)体である。

検討:可換性の議論なので群論が出てくる。以前は交換子部分群を用いたが、今度は群の中心・中心化群を使う。

残りは有限体の性質と円周等分多項式の性質から推論する。

非可換性を仮定して矛盾を導くので、いつも使える事実が使えないことに気をつける。 例えばベクトル空間の基底をとって何かをするような推論はたぶん失敗する。

証明:$D$ を有限斜体とする。$D$ が可換でないと仮定して矛盾を導く。

$D$ の中心 $Z(D)$ は有限体(可換)である。有限体であることからある素数のべき乗 $q$ が存在して

\[Z(D) \cong \mathbb F_q,\quad \lvert Z(D) \rvert = q.\]

また $D$ は $Z(D)$ 上の有限次元ベクトル空間である。 $n \coloneqq \dim_{Z(D)}D$ とおくと $\lvert D \rvert = q^n.$ $D$ が非可換であるという仮定から $n \gt 1$ および $Z(D) \subsetneq D.$ $a \in D\setminus Z(D)$ を一つとることができる。

この $a$ に対する中心化群 $C_D(a)$ を考える。 これも斜体をなす。仮定から $C_D(a) \subsetneq Z(D).$

$D$ と $C_D(a)$ の位数の関係から $q^d \coloneqq \lvert C_D(a)\rvert\;(1 \le d \lt n)$ をみたす $d$ が $a$ により決まる。 $D$ は $C_D(a)$ 上でもベクトル空間であるので $d \mid n.$

ここで乗法群 $D^\times$ およびその類等式を考える。

\[\tag*{$\spadesuit1$} \lvert D^\times \rvert = \lvert Z(D^\times) \rvert + \sum_{\ast}[D^\times : C_{D^\times}(a_\ast)].\]

ただし和 $\ast$ は $Z(D)$ に入っていない代表元 $a_\ast$ すべてにわたるものとする。

斜体は整域であるので、$D^\times$ は単純に $D$ から $0_D$ を除いた集合と考えてよい。 したがって次の位数を得る:

\[\begin{aligned} \lvert D^\times \rvert &= \lvert D \rvert - 1 = q^n - 1.\\ \lvert Z(D^\times) \rvert &= \lvert Z(D) \rvert - 1 = q - 1. \end{aligned}\]

各指数 $[D^\times : C_{D^\times}(a_\ast)]$ については $a_\ast$ ごとに定まる $d \mid n$ なる $d$ について次が成り立つ:

\[[D^\times : C_{D^\times}(a_\ast)] = \frac{\lvert D^\times \rvert}{\lvert C_{D^\times}(a_\ast) \rvert} = \frac{q^n - 1}{q^d - 1}.\]

したがって類等式 $\spadesuit1$ を次のように表せる:

\[\tag*{$\spadesuit2$} q^n - 1 = q - 1 + \sum_{\ast}\frac{q^n - 1}{q^d - 1}.\]

ここで和 $\ast$ は $d \mid n$ なる自然数 $d$ のいくつかをわたる。

円周等分多項式の理論によると

\[X^n - 1 = \prod_{d \mid n}\varPhi_d(X)\]

だから $d \mid n$ ならば $\dfrac{X^n - 1}{X^d - 1}$ は $\varPhi_n(X)$ で割り切れる。 $X = q$ として次を得る:

類等式 $\spadesuit2$ の左辺は $\varPhi_n(q)$ で割り切れる。 したがって右辺もそうでなければならない。 右辺の和の部分はどの項も $\varPhi_n(q)$ で割り切れる。したがって $q - 1$ もまた $\varPhi_n(q)$ で割り切れる必要がある。このとき

\[\tag*{$\spadesuit3$} \lvert \varPhi_n(q) \rvert \le q - 1.\]

ところが、円周等分多項式:

\[\varPhi_n(X) = \prod_{(j, n) = 1}(X - \zeta_n^j)\]

において $X = q$ として絶対値を取ると:

\[\lvert \varPhi_n(q) \rvert = \prod_{(j, n) = 1}\lvert q - \zeta_n^j\rvert.\]

ここで $n \gt 1$ ならば $\lvert q - \zeta_n^j \rvert \gt \lvert q - 1\rvert = q - 1.$ したがって

\[\lvert \varPhi_n(q) \rvert \gt q - 1.\]

これは $\spadesuit3$ に対して矛盾する。 したがって、背理法により $D$ は可換であることが示された。 $\blacksquare$

参考:ウェダーバーンの小定理 - Wikipedia


以上